作:◆l8jfhXC/BA
その少年があっけなく地面に倒れるのを、ウルペンは何の感情も抱かずに見ていた。
意志を込めるだけで、念糸使いは人を殺せる。いつも平然と、その瞬間は訪れる。
「……」
戯言遣いと名乗った彼との、最期の会話を思い返す。
道化のようなことをしゃべる少年だった。まるで、自らが放った言葉でさえ信じていないような。
──まるで、自分を含めた世界すべてに嘘をついて存在しているかのような。
「……戯言、か」
苦笑する。
数ヶ月前まで自分が信じていたものは、まさにその戯言ではなかったか。
帝都は容易に崩壊し、アストラは自分の手から離れた。
自らを、そしておそらくアストラをも殺したミズーですら、確かなものではなかった。
望んでいた二度目の最後は、もう訪れない。
そして後に残ったのは、このゲームに絶望を振りまくという役割のみ。
「……」
どこにいるともしれないあの精霊に憎悪を向けながら、歩き出す。──逃がされた少女を探さなければ。
あの少年にかばわれて姿が見えなくなってからそう時間は経っていない。
意識があるにしろ、脱水症状で遠くには行けないだろう。
──と。
「……終わったか?」
先程から聞こえていた、崖の上で何かが暴れる音が途切れた。
参加者同士が精霊などの破壊力のある怪物を使役して──あるいは自身が怪物である参加者が争っていたのだろう。
勝利した隙をついての攻撃は可能だろうが、あそこまで暴れられる者達の運動能力を考えると、念糸発動までのラグが心配だった。
──放っておいて、逃げた少女やチサトの捜索を始めた方がいい。
そう結論づけ、木々をかき分けながら奥に進み、
「ヒ、ヒルルカーーーーーーーーーーッ!!」
何かの名を叫ぶ声が耳に入った。
若い男の声だった。おそらく崖上の騒音に関わる者だろう。……仲間を奪われたようだ。
かまわずにその場から離れようとすると──また、新たに二つの絶叫が響き渡った。
「……」
怒りのこもった慟哭と、何かに苦しむ絶叫。
どうやら崖の上には、仲間を失って憤怒する若い男、“ヒルルカ”を殺して報復を受けた若い女、それと“ヒルルカ”という死体があるようだ。
女の方は、あの絶叫からしておそらく再起不能だろう。
「男の方は……危険だな」
何かを奪われ獣になった者は、どんなに怪我を負っていても油断できない。
騒音も、聞こえなくなったとはいえ、原因になったものがなくなったという証拠はない。
放置と言わず避けるべきだろう。この周囲から離れた方がいい。……あのドクロちゃんという少女は諦めるしかない。
「……は」
そこまで思考して、自嘲が漏れた。
──すべてなくした自分が、今は必死に生き延びようとしているではないか。
あの男からチサトを奪うために。ここにいる生者すべてに絶望を与えるために。
すべてなくしたために残った最後の願望が、自分に生を求めている。それがたまらなく滑稽だった。
「……行こう」
ひとしきり嗤った後、ふたたび表情を消した。今はこんな道化の真似をしている時ではない。
出来る限り足音を抑えながら、ウルペンは森の方へと歩き出した。
【ウルペン】
[状態]:左腕が肩から焼き落ちている。行動に支障はない(気力で動いてます)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式・パン6食分・水2000ml)
[思考]:参加者の殺害(チサト優先・容姿は知らない)。アマワの捜索
[備考]:第二回の放送を冒頭しか聞いていません。
※いーちゃんの死体のそばにサバイバルナイフが落ちています。
この後「砂の上の黒い踪跡」に続きます。
2005/07/16 改行調整
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