作:◆lmrmar5YFk
公民館の一室では、ガユスとべリアルが水とパンのみの簡素な食事を取っていたところだった。
ベリアルがふと足元に置いた探知機に目をやると、自分たちを示す物以外に二つの光点がこちらに接近しているのが見て取れた。
途端、窓の外を睨む目つきが鋭くなる。
「おい、誰かこっちに来てる。多分、中に入るつもりや」
「味方になるような人間だと思うか?」
「さあな。二人ってことは、とりあえずその二者間では協力関係が成立しているはずやから、問答無用でってことは少ないやろうけど」
「まあ、一応は話を聞くべきだろ。いざとなったら裏口から逃げることになるだろうけど」
言って立ち上がったガユスに、ベリアルは呆れ顔で己の側に置いていた光の剣を差し出した。
「お前、さすがに丸腰はあれやろ。今のその手じゃ使えんでも、これあったらはったりくらいにはなる。
お荷物が一人いるんと二人とも十分戦えるのとやったら、明らかに後者のほうが相手にプレッシャーかけられるからな」
ベリアルの言葉にガユスは少しばかりにやっと笑い、腰に差していたリボルバー手の中でくるりと回した。
「いや、はったりならこれで十分」
いまだリボルバーに弾が込められていない事を知らない彼は、素直にああそうかと言って、渡そうとした剣を己の右手に握り込んだ。
画面の中の光点が、残り十数メートルの距離にまで近づく。
重いガラス扉の軋む音がして、点の正体である二人の人間が館内へと入ったのが分かった。
床を歩く二つの足音がぱたぱたと鳴り響く。その確かな足音は殺人者のそれとは言いがたかった。
「あれ、誰もいないのかな?」
「いえ、確かに人の気配がしましたが」
言い合う声は男女のものだ。どうする? と一瞬顔を見合わせた後、ガユスとベリアルは意を決して内側から扉を開けた。
ガユスは銃を、ベリアルは剣をそれぞれ目深に構え、とりあえずは見せ掛けだけでも戦闘ができるポーズをとる。
「ちょっと止まれや」
その声に反応した一組の男女が、驚いたように顔を上げた。
「随分と物騒だなぁ。こっちは敵意なんてないっていうのに」
「それが本音だって、どうやって証明できるんだ?」
言いながらガユスは現れた二人の姿を凝視する。ぱっと見た限りでは二人ともこれといった負傷が無いようだ。
今まで特に戦闘に巻き込まれなかっただけなのか、それとも何か遠方からの攻撃手段を持っている相手なのか――。
「証明はできませんね。心中が読めるような人間でもいれば別ですが」
「だね。あ、でもできたら信頼してほしいかな。俺たち、人を探してるだけだし」
飄々と話す二人に、ガユスはしかし疑念を抱いていた。その理由は当然、少女の持っているライフルだ。
自分とミズーを襲った銃弾は一般的な拳銃から発射される弾とは大きさが違うものだった。あれは、おそらくライフルの射撃弾だ。
そう、ちょうど眼前の少女が握っている位のサイズの。
「人探しか。相手の名前は?」
「そんな状況のままで聞かないでよ。せめて、銃は下ろしてくれない?」
言われても銃口は向けたままに会話を交わしながら、ガユスは素早く視線を動かす。
己の右腿の銃創、子萩の手にしているライフル、そして――。
そして、デイパックに無造作に放り込んであった、先刻ミズーの肩に撃ち込まれた銃弾。
あの時、抉り取った銃弾を何気なしに保管しておいたのが、まさかこんなところで役に立つとは。
ミズーは「気味が悪いから捨ててしまいなさいよ」と言っていたけれど、彼女の言葉の通りにしなくて良かった。
眼鏡に載せられた情報群を照合。一瞬遅れてレンズに映し出された結果は―― 一致。
つまり、この銃弾はあのライフルと同一サイズの銃から放たれたもの。俺たちを撃ったのはこいつらか!?
顔には出さぬように、ポーカーフェイスを心がける。
「分かった、この武器は下ろそう。その代わりに、おまえらも持ってる支給品を置いてくれ。 ああ、そっちのライフルは分かってるから、もう一人のほう」
これで女が否定しなければ、あの武器は最初からの支給品。つまり、自分やミズーを撃ったのがこの二人だと確定できる。
しかし女は、ガユスにとってまったくもって予想外の言葉を吐いた。
「それは構いません。ただ、訂正させていただくならこのライフルは私の武器ではありません。少し言いにくいのですが、死んだ方から……」
子萩も馬鹿ではない。ガユスの姿を見た瞬間から、彼が先ほど自分の撃った人間であることには気づいていた。
偶然の悪戯を呪うが、幸い、あの距離なら相手に自分の顔が見えていたとは思えない。
先制して予防線を張ることで、それ以上の疑惑を回避しようとしていた。
「どこでや?」
「C-2の辺りになりますね」
「うん。あの辺りはちょっと物騒なみたいだったね。こんな武器を持っててもやられちゃうんだから」
重ねて問うた緋崎の質問に、こんな時ばかりは共闘するのか臨也も子萩の嘘言に乗って作り物の言葉を饒舌に語る。
ちなみにC-2を選んだのは、ここまで歩いてくる道のりで一人の少女の死体を発見したエリアだったからだ。
手探ったデイパックには何も入っていなかったから、おそらく彼女の支給品は実際に誰か襲撃者に奪われたのであろう。
中身のないデイパックと遺体。この二つが揃っていれば、もしその場に案内しろと言われた場合でもとりあえずは何とかなる。
その上、硬直の進行具合から考えるに、その死体は既に死後12時間近くは経っているようだった。
開始直後に死んだ可能性が高いため、殺害者以外の他者とコンタクトを取っていた可能性は少ない。
目の前の二人が彼女を襲った当人でさえなければ、騙し通せる――。
賭けに出た臨也と子萩のその言葉に、ガユスは一見友好そうな顔で尚の質問を重ねる
「そうか。じゃあ、あんた自身が支給された品は?」
「それは……」
一瞬だけ声を詰まらせた子萩の台詞に気づかせぬよう、臨也が割って入る。
「彼女の支給品はこれだよ。で、俺のがこっち」
言って、愛用のジッポーライターと同じく愛用のコートとをばさりと床に投げ置く。
もちろん、コートは臨也自身が最初から着用していた物だ。
「お恥ずかしいことに、俺達二人とも『ハズレ』でね。まあ、初めに敵意のない相手に会えたのが唯一のラッキーだったかな?」
「ええ、本当に」
「ほんまやな……。その支給品で生きてこられたのが不思議なくらいや」
「商店街の店の中にずっと隠れてたんだよ。でも俺にはどうしても探したい人がいたからね」
「危険を冒してでも外に出ようと決めたんです。その途中でこれを見つけたので、本当に幸運でした」
ぬけぬけとそう言う二人を、ガユスは三度じっと見直す。
嘘を言っている風には見えない。だがあのライフルを持っている以上、100パーセントの信用をするわけにはいかない。
騙し合いの手口に長けた人間が、相手の懐まで入り込んでからぐさりとやることは容易に考えられる。
だが、その一方で彼らがあの狙撃者である可能性は、やはり低いのではないかとも思われた。
先刻あの狙撃手は、こちらからは視認すらできない遠方から明確に自分たちを狙って発砲していた。
もし彼らが同一人物なら、それだけの腕前を持っているのにわざわざこんな面倒くさいことをするだろうか。
この公民館から出たところを、どこか遠くから待ち伏せているほうがよっぽどリスクが少ない筈だ。
そこまで考え、ガユスはこの二人組ととりあえず行動を共にしようかと思った。
もちろん油断はできないが、自分はもちろん緋崎も決してまともな戦いが見込める状態ではない。
目の前の二人は、見る限り戦闘能力的には良くて一般人レベルといった所だが、怪我も無く体調は良好そうだ。
「どうする?」
「んー、ええんちゃうか」
そう言って、相手はちらりと自身のデイパックに視線を向けた。
(いざとなったら、これだけあるんやしな。――何とでもなるやろ)
(……ああ、そうだな)
口には出さず目だけで短く物騒な会話を交わすと、ガユスは向き直って二人――折原臨也と萩原子萩に声を掛けた。
「そうだな。それじゃ、良かったら一緒に行動してくれるか」
「うん。こちらこそ喜んで」
【ざれ竜デュラッカーズ】
【D-1/公民館/1日目/13:10】
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿(裂傷傷)左腿(刺傷)右腕(裂傷)の三箇所を負傷、及びそれに伴い軽い貧血。
心身ともに疲弊の極みだが、休息によって徐々に回復する見込み。
[装備]:知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、グルカナイフ、探知機
[道具]:デイパックその1(支給品一式。ナイフ。アイテム名と場所がマーキングされた詳細地図)
デイパックその2(食料二人分、リボルバー(弾数ゼロ)、咒式用弾頭、手斧、缶詰、救急箱、ミズーを撃った弾丸)
[思考]:1.休息 2.戦力(武器、人員)を確保した上で、クエロをどうにかする。3.子萩達には未だ疑念を抱いている。
【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕と肋骨の一部を骨折(処置済み)。心身ともに疲弊の極みだが、休息によって徐々に回復する見込み。
[装備]:光の剣、蟲の紋章の剣
[道具]:デイパック(支給品一式) 、風邪薬の小瓶、懐中電灯
[思考]:1.休息。 2.とりあえずガユスと組んで最低限の危機対応能力を確保。 3.カプセルを探す。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は、まだ正確に判断できていません)
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)ジッポーライター 禁止エリア解除機
[思考]:1.セルティを探す&ゲームからの脱出? 2.萩原子荻達に解除機のことを隠す 3.ガユス達にライフルの真実を隠し通す
【萩原子荻(086)】
[状態]:正常 臨也の支給アイテムはジッポーだと思っている
[装備]:ライフル
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:1.セルティを探す&ゲームからの脱出? 2.哀川潤から逃げ切る 3.ガユス達にライフルの真実を隠し通す
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