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第366話:手段の合致

作:◆a6GSuxAXWA

 時計で大まかに二十分。
 それだけの時間を置き、ベリアルは部屋に戻る。
 新庄とミズー、そして名も知らぬ少女の支給品。そして隠されていた咒弾を左手に抱えて。
「なんか、壁際で膝抱えてるのがエラい似合ってるけど――どや、落ち着いたか?」
 うずくまっていたガユスに声をかける。
「ほっとけ。……ああ、そっちは何とか……な」
 言うものの、ガユスの顔色は悪い。失血のためだけでは無いだろう。
 ベリアルはガユスの隣に腰掛け、数人分のデイパックを置く。
 そしてその中の一つに手を突っ込み、取り出したのは小さな瓶。
「――死にたいんか? なら飲んでもええで」
 ひょいと投げ渡すと、ガユスは眼鏡越しにその瓶を見て顔をしかめた。
「青酸カリか。どこにあったんだ? こんなモン」
 放置されたデイパックの中だと説明しつつ、新たなデイパックの中身を整理する。
 重複する地図や名簿を捨て、ついでに六時の放送分も確認。
「んで、まだ死にたないんやったら手伝ってくれ。十二時の放送も聞いてないやろ?」
 小瓶を懐に収め、ガユスがその言葉に頷く。
 親しい者の死というショックから虚脱状態に陥った人間には、まず時間を与えて落ち着かせる。
 そうして落ち着いた人間は、やるべきことを与えてやると意外に動くのだ。
 一種の逃避なのだろうが、それでも気が紛れはするらしい。
 しばらくの間、延々とデイパックの整理を続ける。
「武器類も全部頼むわ。他の参加者との交渉材料にもなるし」
 不要になったデイパックと名簿、地図は小型の火の玉を使って燃やす。
 地図に書き込まれたアイテム情報は、やる気になっている参加者にとっては危険な品だ。
「ともかく、お互いこの怪我や。ろくに動きもとれへん……駆け引きは抜きで、一時休戦。同盟といこうやないか」
「ああ。了解……する以外に無いな」
 ちなみに。無論この二人は知らぬ事ではあるが、これほど怪我だらけのチームはこの剣呑な島でも有数である。
「さて、武器の分配はこれでよし、と」
 と、ベリアルの言葉に分別の済んだ武器を見――ガユスは溜息。
「思いっきり偏っている気がするのは気のせいですか馬鹿野郎と、お前の右隣の左隣の奴に言ってくれ」
「不満でもあるんか? 戦えるの俺だけやん」
 光の剣、蟲の紋章の剣がベリアルの側に。
 残りの、ある意味で重いだけな刃物類や現在使用不可能な咒弾が、ガユスの側に。
「――いや、妥当な選択だ。足を汚した人間に荷物持ちをさせようと言うその心根を除いてはな」
「荷物持ち、兼索敵手や。虎の子の探知機やるんやから、その眼鏡と合わせてしっかり調べてくれな」
 とどのつまりは荷物持ちさせるんじゃねえか、と呟きながらも、ガユスは再び回転を始めた頭脳で思考。
 我が身の危険は置いておくにしても、新庄やミズーのような状況を二度見るのは勘弁して欲しい。
 それが今の正直な気持ちだ。
 ……となると、やはりクエロを含む危険人物たちをどうにかする必要がある。
 色々と思うところがある。が、何をするにもどうするにも、戦力が足りない。
 ベリアルという男は、まだ裏切りはしないだろう。
 理由として挙げられるのは怪我と先程の戦闘を目撃したこと。
 クエロや先ほどの岩の肌の男のような、魔人蠢くこの島の状況。
 そこでこの怪我を負ったまま立ち回れるほどの能力は、恐らく今の彼には無い。
 となれば、まずはさして使えぬにしろ手近な人間を味方として確保しておきたい……と考えるはず。 
 こちらはそれに乗り、こちらの目的を達成するのが正しい選択と言うものだろう。
 そしてまずは戦力を――そう、場合によってはあのクソ忌々しいギギナを含めて――確保する。
 その上でクエロと対峙し……自分は、どうしたいのだろう……そう、自分は、
「ま、ともかく食事といこか。休まんと治る傷も治らへんし」
 と、ベリアルの言葉にとりとめもない思考を中断させられ、ガユスは溜息。
 苦笑を浮かべ、ペットボトルとパンを取り出す。
「まだ未配布アイテムの記載された地図がある。体力が戻った時点で調べてみるか」
 ……何とか、しないとな。
【D-1/公民館/1日目/12:52】

『されどDクラは竜と踊る』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿(裂傷傷)左腿(刺傷)右腕(裂傷)の三箇所を負傷、及びそれに伴い軽い貧血。
     心身ともに疲弊の極みだが、休息によって徐々に回復する見込み。
[装備]:知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、グルカナイフ、探知機
[道具]:デイパックその1(支給品一式。ナイフ。アイテム名と場所がマーキングされた詳細地図)
     デイパックその2(食料二人分、リボルバー(弾数ゼロ)、咒弾、手斧、缶詰、救急箱)
[思考]:1.休息。 2.戦力(武器、人員)を確保した上で、クエロをどうにかする。


【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕と肋骨の一部を骨折(処置済み)。心身ともに疲弊の極みだが、休息によって徐々に回復する見込み。
[装備]:光の剣、蟲の紋章の剣
[道具]:デイパック(支給品一式) 、風邪薬の小瓶、懐中電灯
[思考]:1.休息。 2.とりあえずガユスと組んで最低限の危機対応能力を確保。 3.カプセルを探す。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は、まだ正確に判断できていません)

2005/06/02 修正スレ114-6

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