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第309話:Gia Corm Fillippo Dia

作:◆Wy5jmZAtv6

「くっ!」
反射的に拳銃を構える宗介、だが…
「入り口が其方側にもあったのはわたしの不注意ゆえ、仕方がないが、
 侘びの言葉の代わりに鉛弾とは礼儀知らずにもほどがあろうぞ」
引き金を引くよりも早く、美姫の掌底が宗介のどてっ腹に炸裂する、
強制的に腹の中の空気を全て放出させられ、悶絶する宗介。

見た目こそまさに聖母マリアのごとき美しさだが、
その正体は数トンもの巨大兵器を片手であしらい、灼熱のレーザー光線の海の中を平然とまかり通り
音よりも速く空を舞う…恐るべき吸血美姫である。

それでも視線だけでも美姫を殺そうと睨みつける宗介、
「はな…せ」
離せと言われて、今気がついたとばかりにわざとらしくかなめの体をこれみよがしに
自分の前面に持ってくる美姫。
かなめはぐったりとして動く気配がまるで無い、その様を見て
宗介の顔に狼狽の表情が浮かぶ。

「そうか…おまえの主はこの娘ということだな…ふふふ」
実に楽しそうに笑う美姫。
「面白き座興を思いついたぞ」
そう言うなり、かなめの背中を軽く叩き…気を入れる。
「な、なに!」
叫ぶ間も無く美姫の魔眼がかなめの瞳を射抜く、いかに弱体化していても
一介の女子校生に抗う術はなかった。

がくりと床にへたりこむかなめ…その手元に転がっているのは宗介のジャケットから
転がり落ちたスローイングナイフだ。
「い…いや…いやぁ」
かなめはまるで操り人形のようにナイフを拾う…その表情は恐怖に彩られている。
そして彼女はそのナイフを自分の首筋へと近づけていく。
「いやぁぁぁぁ!」
泣き叫ぶかなめ、それでも体は自由にはならない。

ナイフが無慈悲にも首の薄皮を、頬を、耳を切り裂いていく、また悲鳴を上げるかなめ。
これまでにも散々危険な目にあってきた…だが今のそれとは比べ物にはならない
自分の体が自分の物でなくなる恐怖は、これまでに潜り抜けてきた幾多の死線にも勝るものだった。

「止め…ろ」
絶え絶えの息の中…美姫を見る宗介、その視線は先ほどの憎悪の視線ではなく
哀願の色が濃くなっていた。
だが、美姫はそれには応じない、そしてかなめの持つナイフが軌道を変え
今度はその右目を貫こうと動く。
「宗介っ!助けて…!」
完全に恐怖に飲まれ泣き叫ぶかなめ、
「頼む…代わりに俺を…」
「ならぬの、もう手遅れじゃ…それにまだわからぬか?」
呆れ顔の美姫、もっと他に言うべきことがあるだろうに…。

「やめてください!」
不意の大声、そこにはしずくがいた。
「ごめんなさい!勝手に起こしたのは悪かったです!だからもうやめてください!」
その言葉を聞いて微笑む美姫。
「その一言が何故言えぬのじゃ…お前は、これは仕置きが必要じゃの」
美姫は自分の手で右の瞼を切り裂き、パニック状態のかなめの首筋に軽く触れる
と、かなめの肢体から力が抜けていく。
どさりと床に倒れるかなめ、駆け寄る宗介…。

「きさ…」
「勝手に動くでない」
言葉より早く美姫の手に握られたナイフが一閃し、宗介の頬を軽く裂く。
「まだ生きておる…この娘が助かる助からないはお前次第じゃ…ふふふ」
「それは…」
どういうと言いかけた宗介の声に美姫の声が重なる。
「日没までに首を五つ取ってまいれ、この娘を救いたくば」
値踏みするように宗介を眺める美姫。

「お前からは血の匂いがする…数え切れぬほどのな、いまさら何を迷う、
 まぁその他大勢に義理を立てて自分の主を見捨てるのも美談としてありではあるかの」
「くそっ…」
歯噛みする宗介…彼に選択の余地はなかった、彼女もそれを見抜いているのだろう。
「わかった…」
苦渋の表情で条件を飲む宗介、きっとかなめは自分を一生許すことはないだろう。
だがそれでも…彼はかなめに生きていて貰いたかった、僅かでも可能性があるのならば。
「必ず約束は守るんだな…」
「そちらから条件を持ちかけていい立場か?」
愚問だった、それはともかく。

「ただしお前が日没を待たず死ねば、今度こそこの娘も殺すぞ…それにお主も宗介のいない世界で生きていとうはあるまい、
 のう?かなめや」
かなめの顔から滴る血を舐め取りながら微笑む美姫、目を逸らす宗介。
「それからこの事、誰にも言うてはならぬ、大佐殿とやらにもの」
その言葉に愕然とする宗介、心を読まれているのか!?
「その通りよ、わたしをたばかろうとは思わぬことだ…決しての、私はお前の目と耳と口を解して
 いつでも全てを見通す事ができるということ、ゆめゆめ忘れてはならぬぞ」
この発言はいわばフカシであるが、心の断片を読みとったことは無論事実である。
「わたしを討って彼女を取り戻すという道もあるが…断っておく、わたしが死ねばこの娘も死ぬぞ」

宗介の口からギリギリと歯軋りが聞こえだす、それが収まった時には
もう彼の顔に迷いはなかった。
振り向いた彼の視界にしずくが入る。
「その娘は今は許してやれ、カラクリとはいえ、今時珍しく殊勝な心をもっておる
 誰かとは違っての」

「逃げてくれ…」
震える声でしずくへと話しかける宗介。
「そしてこのことは誰にも言わないでくれ…頼む、そして次に俺と出会ったら、必ず逃げるんだ…
 次に出会えば…俺は君を殺す!…約束…してくれ」
震えながらもこくりと頷くしずく。
「さぁ行くんだ…振り向くな」
宗介の叫びを聞きながら走るしずく、そして彼女の流す涙の雫がまるで追いかけるように床へと降り注いでいった。
闇の中でも鮮やかに。

しずくの姿が完全に見えなくなったのを確認し、地下を後にする宗介
その背中に何かが投げつけられる、ディバックだ。
「首を運ぶのに不便であろう、持って行くがよい」
無言で拾い地上へと出て行く宗介だった。

「そう…すけ…だめ…」
先ほどのやり取りは聞こえていたのだろう、閉じた瞳から涙を零すかなめ。
「何を泣いておる…主のために命を賭け戦いに赴く士、これぞ本懐ではないか…それに
 惚れた男が命を張ってくれるのだぞ、女冥利に尽きるではないか…なればこそ」

美姫の唇から牙が覗く、
「その方にも試練を与えねばならぬの」
そう言うが否かの間に、美姫の牙がかなめの喉に突き刺さる。
「!!」
声にならぬ叫びをあげ悶えるかなめ…。

「安心せよ、宗介がそなたの見込んだ男であるのなら、真の士であるのならば
 そなたがいかな悪鬼と変じようとも受け入れるであろう…」
そしてぴちゃぴちゃと滴る血を舐め取りながらさらに囁く。
「さすれば、わたしも約束は守ろう、かならずそなたを人に戻し宗介の元に返してやろうぞ…まぁ
 闇の快楽を知った上でなお、人に戻りたいと願えばの話だが」
宗介の血がついたナイフをかなめの完全にちらつかせながら笑う美姫。

そして時計の針が12時を指した。

【D-5/地下/1日目/12:00】
【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず

【千鳥かなめ】
【状態】吸血鬼化?
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。(ディバックはなし)
【思考】不明

【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ。(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式。
【思考】恐慌状態、逃走中

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:スローイングナイフ
 [道具]:デイパック(支給品入り)
 [思考]:座興を味わえて上機嫌

(アシュラムは地上部分の教会にいます)

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