作:◆MXjjRBLcoQ
無人であることを確かめて、坂井悠二(095)はふらふらと小屋の中に入り、そのまま朽ちたドアにもたれかかるように座り込んでしまった。
走り続けた体が急な停止で火照りだす、自然のどの渇きもひどくなる。
「みず…」
自分のディバックにはもう無い。狙撃銃では人を殺すことは出来ても、身を守ることも渇きを癒すことも出来ない。
自身の熱にうなされながら、悠二はゆらりと立ち上がった。
視界にあるのは、錆だらけの小屋と腐食されるだけの工具。
歪んでいてももさして代わり映えの無い部屋に、場違いな非常用リックサックが置かれていた。
無論、佐山と詠子の置き土産である。
――水があるかもしれない
引き裂かん勢いでリックサックを開けた。ほとんど朽ちていたそれはあっさりと破けてしまう。
悠二はかまわずあったペットボトルを手に取った。
――支給品とほぼ同じものだ、まだ新しい。
一気に水分をのどに流し込んだ。冷たくはないがそれでも過熱した体にはありがたい。
全身にしみこむ感覚、まさしく生きている実感だ。
「もう死んでる身でなにいってんだろう」
ひとまず落ち着きを取り戻した悠二は、そうひとりごちしリュックの中身を調べにかかった。
乾パンやチョコレートはさすがにもう駄目のようだが、IAIと書かれた大量の缶詰はまだ無事のようだ。
IAIが何かは知らないが重さからいって何かのたべものだろうとあたりをつける。
――シャナのためにとっておこう
二人の食卓を想像しながらそれらを自分のディバックに詰め込んだ。
そして空っぽになったリックの底にある紙に気が付いた。
一枚はメモで一枚はどうやら地図らしい。まず悠二はメモのほうを手に取った。
『我々の後にこの小屋を利用する参加者へこれを残しておく。存分に感謝したまえ
宇宙の中心 佐山御言』
不吉な予感がぞくぞくした。間違っても借りを作ってはいけないタイプだと直感が告げる。
頭を振ってイメージを払いのけ地図を開けてみた
支給されたのと似たような地図だが、黄ばみがひどくまた意味不明な線が何本も走っていて、およそ現時点で判別は不可能に思えた。
問題はその裏、
『1日目と2日目の境。狭間の時間。鏡の中と外が入れ替わる。そうして、もう二度とは元の形に戻らない――』
そこから続く、奇妙な物語がつづられている。
静寂。
約5分間、悠二は魅入られたようにその物語を詠み続けた。
出来るだけ多くの人に、それも2日目が来る前に知らせる、きっとそうするべきなんだ。
悠二にはこれがこの世界の鍵としか思えなくなっていた。
のどの渇きを覚えてもう一度ペットボトルの水をあおる。
少しだけ、腐食の小屋の中にいてもまだ香る、鉄錆と枯葉のにおいがした
【残り人数85人】
【E-5/北東の森の中の小さな小屋の中/1日目・08:15】
【坂井悠二】
[状態]:疲労・感染(魔女の血の入った水を飲む、水はボトルに半分残っている)
[装備]:狙撃銃PSG-1
[道具]:デイパック(缶詰の食料、IAI製)、地下水脈の地図 (かなり劣化)
[思考]:1.シャナ、長門の捜索。2.出来るだけこの物語を多くの人に知らせる
[行動]:シャナとの合流のため、疲労回復しだい、捜索再開
備考:缶詰の中身、物語・感染の詳細は後の人に任せます
2005/04/30 修正スレ72
←BACK | 目次へ (詳細版) | NEXT→ |
---|---|---|
第274話 | 第275話 | 第276話 |
第268話 | 坂井悠二 | 第282話 |