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第238話:手段と目的

作:◆1UKGMaw/Nc

 ――ホールに飛び込んだ途端、銃を持った女が飛び出してきた。
 ――壁際から飛び出した途端、銃を持った男が飛び込んできた。

「「!!」」

 暗殺者としての性が、修羅の衝動が反応する。
 一瞬で互いの視線と銃口が交錯。
 ――銃声。
 飛び出した勢いを殺さず、身を投げ出し前転したパイフウの頬と、
横っ飛びに跳躍し、床に伏せたアーヴィーの肩から鮮血が迸る。

(何者!?)
(……敵! やっぱり主催者がいたの!?)

 そこまで自動的に反応してから、相手の姿を確認。
 だがそれも一瞬で、二人とも即座に次の行動に移る。
 相手が何者なのかは分からない。
 だが、自分に銃を向け撃ってきた以上は――敵だ。

 二人の技量に甲乙をつけるのは難しいかもしれない。
 が、行動する直前の体勢と武器の差が、ここで僅かに明暗を分けた。
 互いに応射しつつ、射線を遮れる場所へ飛び込んだ、その時――

「うあっ!?」

 アーヴィーが苦悶の声を上げる。
 その腿からは鮮血。
 腹這い状態だったアーヴィーと、前転後の屈んだ状態で即座に行動に移れたパイフウ。
 さらに得物が、取り回しの難しい狙撃銃と、拳銃モードのウェポンシステムである。
 この一瞬の遭遇戦では、行動速度でも速射性でもパイフウが上回っていた。


(い、痛い……いけない、ミラを、ミラを助けなきゃいけないのに……!)
 打ち抜かれた腿を押さえて苦悶する。
 幸いにして、開け放たれた扉からホールの外に出ることはできた。
 相手も待ち伏せを警戒するから即座に追撃を受けることはないだろうが、ここに留まるわけにもいかない。
「くっ…主催者を、倒さなきゃ……ミラを、助けなきゃ……!」
 壁に手を着いて何とか立ち上がろうとしたところで、声が聞こえた。

「主催者を倒す? あなた、それは本気ですか?」

 通路の先へ駆け出しかけていた、古泉一樹がそこにいた。


 アーヴィーの呟きは、パイフウの耳にも届いていた。
(主催者打倒……本気なの? この男)
 逡巡する。
 今しも、トドメを刺しに行くか逃げた連中を追うか、決断しようとしていたところだ。
 一瞬前の戦闘を思い浮かべる。
 出会い頭の戦闘で、自分とほぼ互角に渡り合った技量。
 装備によっては、彼と自分の立場は逆になっていたかもしれない。
 そんな男が、主催者打倒へ向けて動き出しているとしたら――?
(……泳がせるのが、得策かしら)
 自分のスタンスは、主催者の犬となり参加者をできるだけ殺害すること。
 それは『手段』ではあるが、『目的』ではない。
 自分の目的は、エンポリウム・タウンの人々と、そして火乃香を守ることだ。
 いや、最終的な目的で言えば、火乃香さえ守れればそれでいい。
 そのためには――
(どちらでも構わない)

 参加者を殺し、火乃香に手出しをさせずにワクチンを手に入れるのでも。
 主催者を殺し、火乃香の安全を確保した上でワクチンを手に入れるのでも。

 ならば。
「数を稼がなきゃ……。無力化はしたし、ここはあの連中を追うのが得策ね」
 呟く。わざと。何らかの方法で自分たちをモニターしている主催者へ向けて。
 この城でディートリッヒに会った時の、「そろそろ来る頃だと思ってたよ」というセリフと用意の良さをパイフウは忘れていない。
 大体、自分を殺戮者に仕立てておきながら監視をしないなどとはありえない。
 間違いなく、参加者の行動は主催者側に漏れている。
 だから後者の手段は自分では不可能だ。
 反旗を翻したが最後、ディートリッヒはワクチンを処分し、その毒牙を火乃香に伸ばすだろう。
 だが、他の誰かが勝手にやる分には問題はないのだ。
 銃弾を弾いた装備や忌々しい刻印のこともある。
 主催者打倒が成る確率は低いだろう。
 だが、可能性がゼロではないなら、それに賭けてみるのもいいかと思った。
 賭けるチップは、自分や火乃香ではないのだから。

 逃げた連中は一人と三人に分かれた。
 一人のほうは、あの男のいる通路側だ。しかも、あの男と接触している。
 ならば、自分が追うのは三人のほうだろう。
 都合よく数も多いことだし、銃を持った男を相手取るより危険度も低いと思える。
 こちらを追ったほうが主催者側にも怪しまれない。
 連中が逃げた通路の先に、脱出できるような場所はあっただろうか。

 夜の間に自分の足で確認して回った城の構造を思い出しつつ、パイフウは駆け出した。
 逃げた者たちを、殺すために。
 あの男が逃げる時間を、稼ぐために。

(逃げなさい。あなたはあなたの目的を果たすために。私は私の目的を果たすために行動するから。
けど、戻って来た時、まだこの辺りにいるようなら……その時は殺すわ)



【残り90人】
【G-4/城の中/1日目・06:32】

【パイフウ】
[状態]健康
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない)
[道具]デイバック一式。
[思考]主催側の犬になり、殺戮開始/逃げた三人(神父/キーリ/ボルカン)を殺す/火乃香を捜す


【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード/腿に銃創
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:主催者を殺し、ミラを助ける(思い込み)


【古泉一樹】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式) ペットボトルの水は溢れきってます
[思考]:厨房で武器調達後、長門有希を探す/目の前の男(アーヴィー)が主催者打倒を掲げるなら助ける

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