作:◆E1UswHhuQc
「いいか! 俺は現状でいっぱいいっぱいで、それでも頑張って生きてるんだよ! それをテメエは――」
びしりと指をさして、オーフェンは叫んだ。大声を聞きつけて誰かが近付いてくる危険性など忘れて。
「執事か!? 執事なのかテメエは! ああ?」
「シツジ。まあそう呼んでくれも構わないが、自分ではスィリーという名前が気に入っている」
「……スィリー?」
半眼で、その単語を口に出した。スィリー。
ふよふよと飛びながら、スィリーと名乗る羽虫小人は続けた。
「名前は適当だよ。なんだったら、好きなようにつけてもらってもいいくらいだ」
「赤紫マダラ接続式ゾウガメ」
「スィリーって名前、気に入ってるんだホントに。うん。このやり取りも何度かした覚えがある」
「つまり」
片目をつむり、見下ろす。腕組みをする赤紫マダラ接続式ゾウガメ(仮)は、重力に逆らって浮いていた。
オーフェンは息を吐いた。聞く。
「スィリーって呼んで欲しいのか?」
「強制はしないぞ。それがルールだからな。ルールは破るためにあるとか言ってる奴こそ、そういうルールを自分に架してるんだ」
「良く分からん。それで結局、お前は何なんだ?」
「種族的には人精霊というものにカテゴライズされるらしい。誰が区分けしたのか知らんが、きっと髭の長いやつだろう」
「髭?」
「髭だ。偉いやつほど髭を伸ばしたがる。つまり存在係数的に最強小道具は付け髭だ。間違いない」
言い切ったスィリーが風に流されて体勢を崩すのを見ながら、オーフェンは何故か脳裏に浮かんできた付け髭少女を意識から追い払った。なんでまたそんなものが浮かんできたのか。
人精霊という単語に、聞き覚えはなかった。強いていえばフェアリー・ドラゴンの使う精霊魔術か。
(……精霊魔術で生み出された擬似生命か?)
推論を浮かべたところで、確証はない。本人に聞いたところで明確な答えは返って来ない――そんな確信だけはあった。無意味に。
かぶりを振った。どうでもいい。こんなところで人精霊とやらの戯言を聞くよりも、やることがある。
オーフェンは座り込んで地図を広げた。地形しか分からないのならあまり意味はないが、有利な地形を進んだ方がいいだろう。
ついでにパンを取り出してかじりながら、考える。
(身を隠すなら森伝いに進んだ方が安全か。森林内なら木が邪魔して銃器は使いづらい)
思い出して、オーフェンは撃たれた箇所をさすった。魔術で治療したが、まだ痛みは残っている。
(……D-5の森で、待ち伏せといくか)
決めて、オーフェンは地図を畳んでバッグにしまった。水を一口飲んでパンを胃に流し込むと、立ち上がる。
「ん? なんだ黒いの。討ち入りか? 討ち入りに行くのか?」
「……ついてくるつもりか?」
「そこはかとなく嫌そうだな。対黒い者用最終兵器・燃えライオンがそこら辺に転がってるのを知らないのか?」
「なんだそりゃ」
「そこに落ちてるだろ」
人精霊の指差す先を見る。と、草に埋もれた何かがあった。
かがんでそれを拾う。獅子の彫金がなされた、レリーフ。瞳の部分には白い水晶のようなものがはめ込まれている。
「確かに獅子だが、燃えてないぞ」
「あんた精霊使いか? 残虐拘留装置に封じられた精霊は、精霊使いに酷使されるものだが」
「分からんって」
人精霊には適当に答えて、オーフェンはとりあえず、獅子のレリーフをバッグに入れた。
【C-4→D-5/高架下の森/1日目・06:55】
【オーフェン】
[状態]:身体の疲労は回復。精神はお察し下さい。
[装備]:スィリー
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている) 獅子のレリーフ
[思考]:マジクとクリーオウの捜索、仲間を集めて脱出(殺人は必要なら行う)
※放送を冒頭しか聞いていません。
【残り91人】
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