作:◆Sf10UnKI5A
「何だったんだ、今のは……」
折原臨也は、マンションからさほど離れていないところを走る謎の女学生を目撃していた。
その速度は、とても常人の出せるスピードとは思えない。
足音が聞こえてくるかと思うほどに、力強く速い走りだった。
「私達には気付いていないようです。続けましょう」
どうやら子荻は、スコープで彼女を追っていたらしい。
しかし彼女は安全と判断し、すぐに四方の索敵へと戻った。
――化け物はシズちゃんとセルティだけで充分なんだけどね。
臨也は謎の疾走人間に対し、口に出さずにコメントした。
「見つけました」
「またかい? 随分と目が良いんだね」
「視力の問題ではありません。
向こうに倉庫らしき建物があったので、初めから注意していただけです」
南の方を指し示しつつ、子荻はそう説明する。
「人数は四人。……あれは、『オーバーキルドレッド』!?」
「何かあったのかい?」
スコープに映った内の一人にわずかに驚く子荻だが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「……いえ、何も。先程より少々距離がありますが、問題ありません。折原さんは周囲の警戒を」
「解ってるよ。今襲われたら君も俺も危ないからね」
――さて、今度は成功するのかな?
肩膝を立ててスコープを覗き込む子荻を見て、臨也はそう思う。
「おいおい祐巳ちゃん、一体どうしちまったってんだ……?」
哀川潤は、北へと続く足跡――とても女子高生が走った跡とは思えない――を見て呟いた。
「おっ、足跡が残ってるぞ!」
「これでブラックの行き先もバッチリだね!?」
潤の疑念をよそに、レッドとピンク――アイザックとミリアは外に出ても変わらずはしゃいでいる。
少し離れて、落ち着き無く周囲を見回す要。
その足元にはシロが着いてきている。
「よぉーし、行くぞ皆! ブラック救出作戦だ!!」
「殴り込みってやつだね!?」
「……いつ誰に祐巳ちゃんが捕まったんだ?」
珍しくツッコミ役に回る潤を無視して、アイザックとミリアは足跡を追って駆け出した。
「こら、先に行くな! 要を置いていく気か!?」
我先にと駆ける二人に向けて、潤は叫ぶ。
しかし横を見れば、要とシロも二人を追って走り出していた。
「ったく、現状が理解出来てんのか……?」
――いーたんなら、こんなに手ェ掛からないんだけどな……。
ふと、自分が目を掛けていた少年のことを思い出す。
彼女にしては珍しく、一つ溜め息をつき、先を走る皆を追おうと歩き出した。が、
――見られてる?
潤はほんの一瞬視線を感じた。
しかし、どこから見られているのか解らない。
右を見る。森。しかし先ほどから獣の気配すらない。
左を見る。少し先に高架がある。しかし人影は無し。
正面。走る三人と一匹。それだけ。
――倉庫に誰かいたのか?
有り得ない。この自分が、哀川潤が隅から隅まで調べたのだ。
しかし潤は、後ろに振り向いて倉庫の方を見た。
『人類最強の請負人』という存在そのものすら、この島では歪められていたのだろうか。
倉庫へと振り返って一秒後、銃弾が潤の背中に突き刺さり、肺を抜けて右胸から飛び出した。
右胸に違和感を覚え、潤は手を当てる。
滅多に外に流れることの無い、哀川潤の血液。それがどくどくと溢れ出ていた。
「――――なんじゃあこりゃあああああああっっ!!!!」
彼女は悲鳴は上げず、故・ジーパン刑事の断末魔と同じ叫びを上げた。
「どうしたグリーン!? ……うおぉっ!!」
「たっ、大変だよアイザック! 助けなきゃ!!」
叫びを聞いて振り返った三人と一匹。
要とシロは驚き立ちすくみ、アイザックとミリアは服を血の赤色に染めつつある潤へ駆け寄ろうとする。
「やめろ、――こっち来んな馬鹿!!」
叫ぶ潤。しかし二人は止まらない。
そんな周囲の動きとは無関係に、潤の腹へと次の銃弾が打ち込まれた。
口からも血を流し、膝から地面へ崩れる『人類最強の赤色』。
「アイザック! そこの森に隠れよう!!」
「OK! ミリアは要とロシナンテを連れて行くんだ!!」
意識を失いつつある潤を肩で支え、アイザックは森へと急ぐ。
ミリアは立ちすくむ要を抱きかかえ、ロシナンテ――シロちゃんと共に走った。
銃弾は、もう襲っては来なかった。
「今度はどうだった?」
構えを解き、屋上の端から離れた子荻に臨也が声をかける。
「パーフェクトです。――優勝候補の一人を殺害しました」
「そりゃ凄いな。知り合い?」
「ええ、まあ。名前は、……二時間半後の放送の時にお教えします」
「もったいぶるね。俺が信用ならないかい?」
「いいえ。ただ、一つくらい暇潰しになることがあった方がよろしいかと」
自分の知る限りこの島で最強の存在である、『人類最強』哀川潤。
それを倒したことに子荻は安堵し、わずかに笑みすら浮かべてみせた。
【残り94人】
【C−4/ビルの屋上/一日目/09:30】
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)ジッポーライター 禁止エリア解除機
[思考]:周囲の警戒 ゲームからの脱出? 萩原子荻に解除機のことを隠す
【萩原子荻(086)】
[状態]:正常 臨也の支給アイテムはジッポーだと思っている
[装備]:ライフル
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:狙撃対象をスコープで捜索 ゲームからの脱出?
【D−4/森の中/一日目/9:30】
【アイザック(043)】
[状態]:超心配
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:グリーンが大変だ!!
【ミリア(044)】
[状態]:超心配
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:早く助けなきゃ!!
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:健康(前足に切り傷)
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:お姉ちゃんが大変デシ!!
【高里要(097)】
[状態]:軽いショック状態
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:潤さんが……!
[備考]:上着は外に出る際に着ました。
【哀川潤】
[状態]:瀕死の重体(銃創二つ。右肺と左脇腹損傷)
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:気絶中
2005/06/13 改行調整、口調修正、一部文章追加
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