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第217話:彼女の覚悟

作:◆E1UswHhuQc

「ミズーさん、大丈夫……?」
 大丈夫なわけがない。
 俺の方は腿のあたりを抉られただけで弾も残っておらず、既に包帯を巻いて止血したからそれでいい。
 だが、ミズーは違う。肩に銃弾が残っているのだ。
「平気……平気よ。大丈夫、わたしは……死なない」
 なのに彼女は新庄を安心させようと、気丈に応える。なんていい女だろう。花丸をあげたい。
 などとふざけた思考は、主にギギナに関する記憶が満載してある脳内ダストボックスに投げ入れて、俺は救急箱の中身を漁った。
 飛び込んだこのビルは、どうやら開店前の雑貨店か何かだったらしい。箱詰めにされた商品が山積みになっており、その中にこの救急箱があったのはつい先程信心深くなった俺へのプレゼントだろう。そう信じておくから次もよろしく神様。
 しかし困った。傷口を切開するにしても、道具はミズーの持っているグルカナイフだけだ。麻酔薬なんてしゃれたものもなかった。
 どうするか、と悩むうちにミズーの体温が上昇してきた。女の肌に傷が残るのは良くないが、仕方がない。
 ミズーの腰元の鞘からナイフを引き抜いて、はたと気付く。こういうときはまず煮沸消毒すべきなのだろうが、火がない。
 ライターでも探してくるか、と思ったところで、ナイフに銀色の糸が巻きついた。
「熱っ!」
 いきなり加熱されて思わず取り落としかけたが、持ち替えて柄にタオルを巻きつける。
 糸はミズーから伸びていた。休憩時の情報交換の際に聞いた、念糸という技だろう。
「それで……」
「分かった。あと、これ噛んでてくれ」
 呟くミズーに、タオルを噛ませる。歯を噛み締めて奥歯を砕かないようにするためだ。
 麻酔なしの切開など、激痛以外のなにものでもない。
「行くぞ。……新庄は見ない方がいい。できれば耳も塞いで」
「う、うん……」


 新庄が横を向いて両手で耳を押さえたのを確認し、俺はナイフを突き立てた。
「――っ、!」
 暴れる体を空いた手で押さえつけながら、切り開く。肉を刻む感触など、気持ちの良いものではない。
 何とか弾丸を見つけると、ナイフの切っ先でひしゃげた弾丸を引っ掛け、抉り出した。
 取り出された弾丸が床に落ち、金属音を響かせる。
「よし……」
 一息つく。だがまだ終わっていない。開いた傷口を縫うか包帯で縛るかしなければ。
 そこで、またもや念糸が伸びた。
「おい!?」
 銀色の糸が傷口を灼く。
「――ぅうぅ、……うっ……!」
 肉が焦げる匂い。俺は新庄に鼻を塞ぐように言わなかったことを後悔した。

 糸が消えた時、ミズー・ビアンカは気絶していた。

【B-3/ビル一階/一日目/07:55】

【ミズー・ビアンカ(014)】
 [状態]:気絶。左腕は動かず。
 [装備]:グルカナイフ
 [道具]:デイバッグ(支給品一式)
 [思考]:気絶
【新庄・運切(072)】
 [状態]:健康
 [装備]:蟲の紋章の剣
 [道具]:デイバッグ(支給品一式)
 [思考]:1、ミズーが気がつくまで休憩 2、佐山達との合流 3、殺し合いをやめさせる
【ガユス・レヴィナ・ソレル(008)】
 [状態]:右腿は治療済み。歩けるが、走れない。戦闘はもちろん無理。疲労。
 [装備]:リボルバー(弾数ゼロ) 知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
 [道具]:デイバッグ(支給品一式)  救急箱
 [思考]:疲れた。眠い。

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