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第174話:失った者たちの鎖

作:◆h8QB1rxvpA

シズはただ黙っていた。
ティーの死を知り、現実を知り、故に黙っていた。

護れなかった。その現実を今知った。
故に黙っていた。だがやっと口を開く。

「大馬鹿者だな、俺は―――」

大きく溜息をつき、目の前を見据えた。
これ以上悲しむわけには行かない。
これ以上人を悲しませるわけには行かない。
だから動かねばならない、そう思った。

だが、自分は何をした?
恐怖に駆られた少女を、説得も出来ず殺しただけ。
馬鹿な道化だ、偽善者だ。

いっそ人の夢も希望も壊してしまう立場になってしまおうか。
今の自分にはお似合いだろう、と自嘲する。
だがそうするわけには行かないのも事実だ。
ここで自分は闇に負けてはいけないのだ。そう言い聞かせた。

「せめて、償わせてくれ……ティー」

そう呟いたと同時に、入り口のベルが鳴った。


シズがその音に気づくと、すぐにレイピアを手に取った。
そして警戒し、入り口をじっと見つめた。

「………誰?」

見るとそこには女性がいた。更には自分に話しかけている。
まずは名乗るべきか。何にしても始まらない。
シズはカウンターから立ち上がった。

「俺の名前はシズだ。このゲームを止めようと思っている。
 まぁ既に人を殺してしまったけれど、ね。ただの偽善者だ……宜しく」
「……私の名前は茉理。鳥羽茉理よ。
 私も……私も、偽善者かも……知れない……」

そう言うと茉理は、ぺたりとその場に座り込んでしまった。
それを見て、シズは手を差し伸べようとしたが……やめた。
罠かもしれないというこの状況に似合う思考は持っていたし、
大体何も知らない今の自分が差し伸べる手などに誰が答えようか。

「お願いがあるの……。私の今までの話を、聞いて……。
 そして、できれば仲間になって……お願い、お願い」

茉理は言った。
感情の捌け口が欲しかったのだ。全てぶちまけたかったのだ。
だから今、彼女は枯れたはずの涙をまた両目に浮かべ懇願した。

「わかった、聞こう」

シズはそう言ってレイピアを置き、今度こそ本当に手を差し伸べた。
茉理はその差し伸べられた手に答えた。


【A-3/住宅街の喫茶店/1日目・7:24】

【シズ】
[状態]:正常
[装備]:レイピア
[道具]:2人分のデイバッグ(支給品入り) 斧
     簡易救急セット 紐の束 目の細かい布 ジッポー(ライター)
[思考]:キノ、陸、エルメスを探す 鳥羽茉理の話を聞いてあげる
[備考]:自分の命を狙うものには説得を試みますが、
     通じなかった場合は相手を躊躇無く殺すつもりです。

【鳥羽茉理】
[状態]:健康 精神的に弱っている模様
[装備]:強臓式武剣"運命" 精燃槽一式(出典:機甲都市伯林)
[道具]:デイパック(支給品一式) 手鏡
[思考]:始の亡骸を見つける 今までの自分の思った事、行動をシズに話す
[備考]:禁止区域の情報を知りません

【残り94人】

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