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第040話:奇妙なコンビ

「ねえ、ちょっと休まない? 彼此数十分歩きっぱなしじゃない」
その少女は、言葉通り疲れた風な息を一つ吐いて、先を行く男の背中に言った。
男は、彼女のふてぶてしさを感じる言葉に、足を止めて振り返った。
ちぎれっけを撚りまとめ、短い房を何本も束ねたドレッド・ヘア。
花柄で、所々に明らかな銃痕や焼け痕が見える上衣。
そして極めつけは、左目を覆う、黒光りした眼帯。
その鋼のように鍛え上げられた肉体と相俟って、誰がどう見ても堅気の人間ではない。
一見そこらにいる何の変哲も無い学生のようにしか見えない彼女の連れ合いとしては、
どうも不釣合いだが、この男に向かって冒頭の台詞を言ってのけるぐらいだからやはり彼女とて只者ではなさそうだ。
事実、彼女――九連内朱巳は統和機構という何だかわからないがとにかく強大な組織に、
己の舌先三寸と機転――云わばはったりだけで転がり込んだ異端児であり、まあ常人ではない。
しかし、振り返りこちらを見下ろす―男は身長2m程の巨漢だった―
その隻眼の光の凄まじさは彼女をして文字通り凍り付かせるほどのものだった。
「休みたければ勝手に休め。ついてくるのと同じようにな」
ぞくりとするほど錆びた声で男は言い放った。
そもそもこの二人が出会ったのは、ゲーム開始の直後だった。
彼らはお互い、海岸沿いの崖に転送されたもの同士である。
その辺りには遮蔽物がなく、彼らは開始早々に相対すことになった。
いきなりこのようなゲームに参加させられて、転送先で隻眼の巨漢と出会い流石に朱巳も己の生命に危険なものを感じたが、
男はちょっとこちらを見たっきり、所持品を手早く確かめて後、地図を片手に歩き出してしまった。
何となく拍子抜けしてしまったが、直感的に男の只者ではない雰囲気を嗅ぎ取り朱巳はこの男にくっ付いて行く事に決めたのだ。

朱巳は、はなっからこのゲームに乗る気は無かった。
そりゃあ死にたくは無いが、元来我が強く―
その性格の御蔭で統和機構なんていつ死ぬかわからない組織に入ってしまった感もある彼女にとって、己の意を通すことの方が身の危険よりも大事なのだ。
この先、状況次第ではこんなことを考え付いた誰かを、
ぶっ潰してやろうとも考えてはいるが、差し当たっては、安全の確保が重要だ。
とち狂ってこんな馬鹿げたゲームに乗った奴に襲われて殺されるなんて真っ平御免だ。
だから、彼女は男に付いて行った。
命を守ってくれる保障は無いが、今の接触から見て、命を取られることもなさそうだ。
ならば、一緒にいる限り、襲撃者は共通の敵になることは変わりない。
あわよくばこの男を誘い、主催者打倒に協力させよう―当初はそこまで考えていた。
が、十数分たった現在。
彼女が付いてくるのを気にも留めず、
そのままぶっちょう面で歩き続ける男に流石の彼女も精神+肉体両方で我慢の限界を迎えて冒頭のやり取りに至るというわけだ。

――朱巳に向かい、どうでもいいといった台詞を言ってそのまま歩き出そうとする男に、
彼女は少し慌てて「待ってよ!」と声を上げた。
また男が胡乱げに足を止める。
「こんな可愛い子一人おいていこうなんて、酷いんじゃない?」
「――可愛い子って玉か、お前」
「あら、心外ねお兄さん。ひょっとして目が悪いの?」
ぎろりと睨むその片目に、ふてぶてしい笑みを返してやる。
「だいたいねえ、どんな目論見があるのかしらないけど、闇雲に歩いてたってしょうがないでしょ? 
 ちょっと立ち止まって状況を把握することも必要よ」
「別に、闇雲に歩いてるわけじゃねえよ」
「うっそだあ」
「………」
男は苦々しげに沈黙した後、周りの遮蔽物一つない平地を見渡して言った。
「休憩するにしても、ここらじゃ都合が悪い。あっちの草むらに着くまで我慢しな」
「よっしゃ!」と思わず声を上げそうになり、慌てて止めた。


とにもかくにも、男は彼女の意を汲んでくれたらしい。
一度和解してしまえば、後は彼女の本領発揮である。
早足で男の横に並び、男の野生的な横顔を覗き込む。
「これで私たち、チームね。まあ仲良くやりましょうよお兄さん。私は九連内朱巳。あなたは?」
男はいつからチームになったんだ、と言わんばかりに睨んできたが、朱巳は気が付かない振りをした。
ある意味、あつかましさもここまでくれば爽快さすら感じてしまう。
男もそう感じたのか、はたまたうんざりしてどうでもよくなったのか、そっぽを向いて、朱巳の質問に短く答えた。
「屍刑四郎」
「凄い名前ね、芸名?」
「お前に言われたくはない」
「ははは、そりゃそうね」
こうして、<凍らせ屋>屍刑四郎と<傷物の赤>九連内朱巳のコンビはどうやら結成されたらしい。

【D-7/平野/1日目・0:18】

 【九連内朱巳(050)】
 [状態]:正常
 [装備]:なし
 [道具]:デイバッグ(至急品入り) 
 [思考]:屍に付いてく

 【屍刑四郎(111)】
 [状態]:正常
 [装備]:なし
 [道具]:デイバッグ(至急品入り)
 [思考]:休憩する

【残り105人】

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