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第007話:独善の天使と賢者の石

作:◆NULLPOBEd.

殺し合いと言う名の試合が始まり数時間が経過した頃、小早川奈津子は一人森に潜んでいた。
 この森を少し戻ると湖があったのだが、開けた場所では危ないと思い避けたのだ。
 普段なら甲冑を背負って堂々と突き進むのだが頼りにしている甲冑は今無い。
 奈津子としては当然早く帰って、悪に正義の鉄槌を下すという使命を遂行しなければならないと考えていた。
 早く帰る為ならば――――人を殺すことも厭わない。
 悪を滅ぼす天使が愚民共の為に生贄になるなんて思考は奈津子にはない。
 その為にも先ずは武器を、と思い立ったところでまだ鞄さえ開封していないことに気がついた。
 鞄を開封して出てきたのは数日分の水と食料、後は役に立たないような品々……。
 そこに小さな装飾品を見つけた。
「こんなもので満足するあたくしじゃな――」
「ただの装飾品と一緒にされるのは不本意だ」
 奈津子の不満を込めた声を見えない誰かの声が遮った。
 声のする方向には装飾品しかなく、どうやらこの装飾品から声が出ているらしい。
 竜が人に化ける時代。何があってもおかしくない。
 納得できていないのか、何も考えていないのか何の疑問も抱かぬまま奈津子は改めて装飾品を見つめた。
 銀の鎖に繋がれた、黒く淀む球。球には十字架を作るように金の輪が交差してある。
 低く重い声を発するその装飾品は奈津子の興味を惹いた。
「をーっほほほほほ! あたくしの身体に飾られることを誇りなさい」
 自分の巨体に装飾品を着けながら、今後のことを考えていた。
「今後の事をどうする気なのだ?」
 重く低い響きのある男の声が奈津子に問い掛けた。

装飾品に蔵された意志は“紅世の徒”という。
 立派な神器であり、本来は契約者がいて意志の本体はその契約者の中にいるのだ。
 神器の意志としては早い内に契約者と合流しておきたい。
 しかし現在の持ち主は自我の強そうな人間であり、率直に伝えても頷いてくれるかは不明だ。
 だから可能ならば契約者と合流するような方向へ誘導しようと思っていた。
 先ほどから奈津子が目を通している参加者名簿から契約者である人間がいるのはわかっている。
 参加者名簿が「ら行」に差し掛かったとき、奈津子の手が止まった。
「悪の化身たる竜に正義の刃を――――そういうことよ、をーっほほほほほ!」
「武器を持たずに挑むのは無謀だ。そこで我に考えがある」
「をーっほほほほほ! 言ってみなさい、場合によっては参考にしてさしあげてもよくてよ」
 “王”でもある意志に対して―尤もそんなことなど現地点では知りようはないが―偉そうな態度で臨む奈津子。
 ある種、分かりやすい性格をしていると“王”を思った。
 同業者にもこういうような人物に何人か出会ったことかある。
「我の契約者も参加している。協力を申し込めば戦力になるかもしれぬ。武器を持っているかもしれぬぞ」
「をーっほほほほほ! そうね、見つけたらあたくしの忠実な奴隷として働かせるわよ!」
 会話が微妙にずれているのを意識的に無視する。
 “王”は『なんとかなるだろう』と思いはすれど会わない方がいいのかもしれぬと不安を覚えた。
 似たような台詞を言うかもしれないと想像はしたが、ここまで極端な人間も珍しい。
 そう。“天壌の劫火”と呼ばれた“王”の見た限り奈津子はただの人間である。
 今から探す契約者のような人間離れした動きはできないだろう。
 出会えるかどうかは賭けだな、と“王”は思考する。
(願わくば早めの合流をしたいところだ……)


【残り117人】
【D-6/森の中/1日目・0:20】
【小早川奈津子】
 [状態]:捜索するシャナやアラストールの詳細を知らず。
 [装備]:コキュートス(アラストール入り。アラストールは奈津子の詳細を知らず)
 [道具]:特に無し。
 [思考]:竜堂兄弟に正義の刃を。契約者(シャナ)と合流したい。

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