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「エリオルからの贈り物<小狼編3>」


流れてきたのは予想通りさくらの映像。
友枝小学校の制服を着ている。
あの頃からまだ数年しかたっていないのに、今のさくらとくらべてずいぶん幼い。
顔かたちは同じでも、少女と大人の女性の狭間にいる今のさくらを知っているだけに、その違いは明白だ。
それでも、ビデオのさくらも本当に可愛い。
小狼はそのころの自分の醜態も思いだしてしまい、、一人赤面していた。

しばらく思い出にひたっていた小狼の目に飛び込んできたのは好ましからぬ人物。
さくらが作っているクマのぬいぐるみ(それを目にした小狼はほんの少し胸に痛みを覚えた)を手とって直してやっているようだ。
(あいつ、裁縫苦手だものな…)
小学生二人が一生懸命縫い物をしている姿はひたすら可愛らしいはずなのに、当時のエリオルの微笑みに今も苛立たされるのはどうしてだろう?
ぼんやりとそんなことを思っていたら、小狼が驚いたことに、エリオルがいきなりさくらの手を取った。
クマを作るのを手伝ったお礼をと言われ………そして額にキスをした。

「なっ…!」
TVを前に硬直する小狼の目前で、それからも次々と彼の心をかき乱すような映像は流れ続けていった。
エリオルに寄り添うようにして写生を教わっているさくら。
音楽室のピアノに向かって楽しそうに連弾をしている二人。
下校時の様子なのか、雷鳴に驚いてエリオルにしがみつくさくら等々。
こんなもの、見ていられないという自分と、どうしても目が離せない自分がせめぎ合った。

「ひいらぎざわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

「見ていたくない」という思いが勝ち、ついに気持ちを爆発させて叫び声まであげてしまった小狼の耳に、 今一番聞きたくない人物の声が聞こえてきた。
憎らしいほど落ち着いた物静かな声で、画面から語りかけてくる。

「いかがでしたか?私からの送り物は。さくらさんにお送りしたのはバースディプレゼントなので全て真実で構成された物ですが、 あなたには私の願望を具象化したものをお送りしました」
エリオルは興奮もあって思考が混乱している小狼になおも語り続けてくる。
「早い話が、みんなウソです」
「…なっ!」
混乱を深めただけの小狼に、相変わらず淡々とした口調のエリオルが続けた。
「…エイプリール・フールですから」

数秒後、小狼はひきつった笑いをもらしたり、悔しさで怒り狂ったり、安堵したりしたあげく、最後には脱力してソファーに倒れ込んで眠ってしまった。

(おれ、やっぱりあいつのことは嫌いだ…)そう、思いながら。

 
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ちょっとした楽屋裏

「…あいかわらず面白い人だ…」とあいかわらず人の悪いエリオルがどこかでほくそ笑んでいたらしい…。