「エリオルからの贈り物<小狼編1>」
小狼にとって今日という日は特別だった。
今日、4月1日はなにより大事な人の誕生日だ。
それに加えて今年はこの新学期から中学3年生、すなわち受験生になる。
だから今まで以上に気を引き締めて勉学に励まないといけないのだ。
故郷にいる母たちを心配させないためにも、彼が一番大事に想う人の
元にとどまり続けるためにも。
元々きまじめな性格の小狼は、昨日と同じ春休みの一日にすら新学期の始まりを認め、
心の準備をしていた。
(一日遅れになったが…)と小狼は自嘲した。
本当は中学2年生最後の日、昨日にそうした決意を新たにするものだったのだろうが、
31日は翌日のさくらの誕生日の計画で頭がいっぱいだった。
(仕方がない、特別扱いだものな)と自分で自分を納得させた小狼は、律儀にも明日からの予定をカレンダーで確認した後、
床についた。
眠りにつくまでの間、今日あった色々なことが頭に浮かぶ。
待ち合わせをした時間にやっぱり遅れてきたさくら。
待っているときはそれなりに心配もあって人並みにイライラもしたのだが、さくらが大急ぎで駆けつけてくる様子を見た瞬間に、
そんなことは忘れはて、喜びでいっぱいになってしまった自分。
映画を見て笑ったり泣いたり驚いたり、コロコロと目まぐるしく表情を変えたさくら。
今日の日のために用意したプレゼントに大喜びしてくれたさくら。
あまり高価でもないプレゼントのネックレスが、さくらの細い首に下げられた途端に、どんな宝石よりも綺麗に見えたりして………
さくら、さくら、さくら。
思い出すのはさくらのことばかり。
今日はただただ幸せで充実した一日だったー
「!」
否。違った。
思い出した。あいつに会った。久しぶりに。
柊沢エリオル。
相変わらず泰然とした微笑みを浮かべたその様子を思い出して、小狼は自分でも理不尽だと思える不快感に捕らわれた。