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「微睡み:小狼編2」

(大道寺は…)
自分のことも含めて容姿の美醜などというものに興味のない小狼だが、彼女がとびきり美しい少女であることだけは気づいていた。
美貌揃いの李家で育った彼の目から見ても、知世はやはり美しい。
母や姉たち、苺鈴の美しさとは種類の違う美しさを感じている。
それは「穏やかさ」と「しとやかさ」に象徴されるもので、彼にしては新鮮な美であった。
だが、知世を形容するのに「美しい」という言葉を小狼は用いない。
ただ、「変わったやつ」だと思う。
確かに美しい。穏やかな微笑みも。長い髪も。優雅な物腰も。
なのに…。なのに、木之本のことになるとかなり「変」だ。妙な服をこしらえては木之本に着せ、録画することに文字通り命を懸けていそうな勢いに常々圧倒されている。
何が起こるか、何に巻き込まれるかも判らないところへ平気でついてくる。いや、嬉々として、か。
それがさくらに対する知世の友情と信頼を示すものであることまでは、今の小狼には解らない。まだ。
「物好きだ」と思い、また、魔力を持っていないことは明らかだが、あの顔で、こちらがドキリとするようなことをサラリと言ってのけるので、なにか特別な「力」があるのではないかとつい勘ぐってしまうだけだ。
彼女もまた、小狼にとってなんとはなしに「超越した」存在なのだ。

(木之本のほうは…)
よく泣きべそをかく。よく叫ぶし(なんなんだ、あの「ほええええ〜!」というのは!)、よく笑う。
魔力を持つこと意外は普通のーと彼が思うー賑々しい女の子とそう変わらない。
その分、大道寺よりは小狼にとって近しい存在に思える。
お化けだ、幽霊だーと簡単にパニックに落ちてメソメソ泣く。
(でも、あいつ…)
それなのに、自分が相手にするものがそういう類ものでさえなければ冷静だし、意外に気の強いところも見せる。人を庇う余裕さえある。魔力とは関係のない部分で、木之本は強い。
そのくせ封印を終えると、先ほどまでの真剣な眼差しはどこへやら、ただの「ぽややん」(と、苺鈴がよく言っているが、その言葉はあいつにぴったりだと小狼は思っている) にあっさり戻ってしまう。その落差に小狼は戸惑う。
助けなど全くいらないようでいて、けれどやはり、時として危ういくらいに脆い。だから、仕方なしに援護する。
段々と思考が空転しあちこちにとんでいることも、あくまでもクロウカードを集めるために彼女の側にいるだけなのだという大前提などキレイに忘れていることにも気づかずに、小狼はひたすら考え続ける。
(あいつは、自分から頼ってこないし…)
苺鈴ならすぐ泣きついてくるようなことでも、眉根を寄せて考え込むか、大道寺に相談するかだ。多分、あのぬいぐるみと。おれには頼らない。
それを評価するどころか、寂しく思っているらしい自分を発見して小狼は少なからず狼狽えた。
(おれ、今なにを…えっ!?)
それまで、大人しく彼の傍らに座っていた彼女が、どうやら眠り込んでしまったことに遅ればせながらに気がつき、小狼は訳もなく焦った。
(こんなところで寝るなよ…)
木之本はいつもの溌剌とした「気」ではなく、優しげな柔らかい「気」を醸し出して寝入っているようだ。そんな彼女をやけに近くに感じて、小狼は急速に息が詰まるような気がした。