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「夜蘭<さくら編1>」


扉の中側から4人の娘たちの嬌声が聞こえていた。
(いつもにぎやかだこと)
夜蘭は心の中でひとりごちた。
室内にはよく知った気が6。そして初めての気が4。いや、5、か。
そしてたくさんの…不思議な気配。
(では、日本からという客人たちの中に…)
息子がカード集めのライバルと見なしているという少女には特別なんの興味も湧いてこなかったが、
初めて体感したクロウカードの気配に、遠い先祖が持っていたという魔力の偉大さが感じとれて、
夜蘭は、ほんの少しばかり畏怖をおぼえつつ扉を開いた。

「はじめまして。」
「このたびは、どうも大変ご迷惑をおかけいたしました…」
丁重な挨拶をする二人の青年。
どちらも魔力を持っていることにすぐに気付いた。
優しそうなメガネの青年からは「人ではないもの」の気が。
眼光の鋭い端整な顔立ちの青年からは、なぜか自身と似たような力を感じ取った。
「ごゆっくり」
即座に青年たちの力を感じ取ったことなどチラとも見せず、美しい黒髪を揺らした夜蘭は、見知らぬ気配を持つ少女たちの方へ足を進めた。

一目見ただけで、夜蘭には判った。どちらがその少女なのか。
黒髪の美しい少女からは、邪気のない優しい気が漂ってはいたが、魔力は一切感じられなかった。
「はじめまして、木之本 桜です…………」
「きのもとさくら」と名乗った少女は丁寧な礼の言葉を述べ続けていたが、それらの言葉は夜蘭の耳には入ってこなかった。
つ…と頬に手を寄せ、顔を上げさせてみる。
瞬間、伝わってきたのは未完成ながらも強い魔力。そして、予感と確信。
そう遠くない未来に、この少女が自分の人生に深くかかわってくることになるだろうことを夜蘭は感じた。
どういう形で?
それはまだ判らない。知るべきでもない。
未来など、判らない方がよい。例え少女がいつの日か李家に敵対することになる身だとしても。
そしてもう一つの予感。
「強い力は困難を招き寄せます」
ハッとして大きな目で見つめ返してくる少女に、夜蘭は珍しく心を揺すぶられた。
「泊まっていきなさい」
母の心など知る由もない娘たちの明るい歓声があがり、事は決まった。

…今宵、何かがおこる気がします…
それは確信だった。

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