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『ビッグイシュー』購入と分析2

 こちらの続きです。今回は第5号を評論してみます。
 今号は前号(第4号)と較べて国内発の記事が増えたようです。執筆陣が充実してきたのか、はたまた単なる偶然なのか。
 それはさておき、今回は個別の記事についてのみ論評を加えておくことにします。
 尚、引用は特別の注がない限りすべて「ビッグイシュー日本版 第5号」です。
★スペシャルインタビュー メグ・ライアン
(ロンドン、レズリー・フェルパーソン)
 彼女が主演する映画「イン・ザ・カット」の封切りに合わせての映画宣伝インタビューです。スターともなると幾つものインタビューを一日のうちに何回もこなさなければならず、その疲労感がよく伝わってきます。
 それから大写しの顔をよく見ると、メグの顔の皺がわかります。トップスターですから化粧やエステ、整形などで若作りをしているのでしょうけど、寄る年波には勝てませんな。しかしながら、前号の矢井田瞳よりはカメラ映りがいいです。

独裁者に安息の地はあるのか(ロンドン、マシュー・コリン)
 ないです。
 結論から先に言ってしまいましたが、独裁者というのは権力を握っている間は絶えず猜疑心に襲われ続け、暗殺の危機も絶えず付きまといます。又、権力を失った後は裁判にかけられたり政治的カードにされたりしています。
 P7には世界地図があり、そこに現代の独裁者たちが載っているのですが、そこには隣のあの国の将軍様がいない! この点は現代の日本人にとっては片手落ちに思えてなりません。  ちなみに、この記事で取り上げられていた、リカルド・オリッジオ『独裁者の言い分――Talk Of The Devil』(柏書房)の英題部分(Talk Of The Devil)を読んでプッと吹き出してしまいました。そうか…独裁者ってDevilだったんですか…。

戦場の子供たち(桜木奈央子)
 「アフリカの真珠」と呼ばれるウガンダの北部グルからの写真付レポート。たった2Pのスペースに、写真が大小併せて16枚も載っており、その隙間に文章をねじ込んでいる感じです。
 今後の展望(これからコンゴは、グルはどうなるのか)について述べられていないのは残念ですが、写真も文章も現地ならではの情報に満ちており、なかなか面白い。

『ロード・オブ・ザ・リング』の名脇役たち
 どうも主役のインタビューがかなわなかったらしいのがうっすらと透けて見えるようです。
イアン・マッケラン―ガンダルフ役―
(ロンドン、レズリー・フェルパーリン)
 インタビューの前半は、老俳優マッケランのキャリアを紹介し、後半は自分がゲイであることをカミングアウトしたことについて述べている。映画の配給会社にとっては、「ロード・オブ・ザ・リング」の宣伝を含む前半の部分こそ重要なのだが、いかんせん後半の方がゴシップ性に富み、ゲイ俳優についての氏の分析もあるので面白い。

アンディ・サーキス―ゴラム役―(ロンドン、スカイ・シャーウィン)
 あのCGのキャラを実は人間が演じていた! それだけでも記事としての得点は高いが、それだけではなく、「この作品には9・11テロとイラク戦争が反映されている」(P13)とのサーキス氏の説を述べている点も面白い。又、ゴラムに対する自分なりの分析も秀逸。
 よく考えているなあと感心すること頻りでした。

ビリー・ボイド―ピピン役―(スコットランド、ステファン・ラッセル)
 インタビューの大部分が撮影にまつわるエピソードで占められ、「他の役者でもその程度の事は言えるだろ」と思わずツッコミたくなる点もありました。
 しかしながら、後半の、自身が関与する慈善事業「フューチャー・フォレスト」を、映画をからめて紹介している点はグッドです。

見つめ、見つめられる顔
 顔。顔。顔。いやはや、顔コンプレックスは強いですな。
顔の問題はなぜ、語られず隠されてきたのか?(稗田和博)
 疾患・外傷などによって顔に変形を有する人々を心理的に支援するイギリスの慈善団体、チェンジング・フェイセス(Changing Faces)の心理的支援プログラムを日本に導入しようと尽力する松本学氏を取材したもの。研究者らしく、心理面での分析は優れている。又、自分のコンプレックス(自身の顔の変形)を抑圧するのではなく、それを糧として精力的に活動しているさまは好感が持てる。
 ちなみに、「日本における主な自助団体」(P17)としてユニークフェイス熱傷フェニックスの会関西地区 口唇口蓋裂児と共に歩む会を紹介する所は、実用性ありでしょうか。

自分の顔はどこにある(稗田和博)
 醜形恐怖に悩む女性・近藤聡子さん(私と同い年の23歳!)の物語。記事によるとご本人のホームページがあって、そこに日記を書いているとのこと。(記事にHPのURLはありませんでした。)
 近藤聡子さんの写真が載っていますが、正直、「別にブサイクじゃないじゃん」と思いましたが、それをご本人に直接言うと、近藤さんの心を傷付けてしまうかもしれません。

タトゥ&ピアス(櫻井靖子)
 なぜ痛い思いまでしてタトゥやピアスをするのか? 記者が「複数のサイトにアクセス」(P19)して調べたものです。三つの記事の中では異色で、直接触れてはいないものの『蛇にピアス』の影響があるのかもしれません。
 尚、情報の入手手段がサイトだけという点が不満といえば不満です。メールでもいいから、体験者の本誌へのコメントが欲しかったです。

「パンクしない自転車」誕生!(櫻井靖子)
 自動的に自転車のタイヤに空気を送り込んで適正な空気圧を維持してパンクを防止する装置「エアーハブ」を開発した中野隆次さんの話。上目遣いに微笑む中野さんは鈴木宗男そっくりでした。
 ちなみに、「パンクしない自転車」とわざわざカッコ付きなのは、たとえエアーハブを使っていても、釘などを踏んでしまえばパンクしてしまうからでしょうか。
 ともかくも、中小企業のエンジニア社長の苦労話が続いて、講演等のタネには最適でしょう。

年金制度(大杉剛)
 世界と日本の年金制度を比較した記事。記事にはスウェーデンやフィンランドが取り上げられているのに、右下の表には日米独韓の4ヶ国のみ。なぜ?
 尚、最後に我が国の年金制度の課題を、番号を付けて列挙している点はわかりやすくて好感が持てる。

白鳥マイカ(谷内実保)
 インタビュー記事。「死ぬまで音楽に触れていたい」(P25)との言葉には共感するところがありました。

『この世の外へ クラブ進駐軍』(松本博行)
 阪本順治監督の”反戦映画”、『この世の外へ クラブ進駐軍』の紹介記事。映画がその時代々々の影響を受けるという見方には私は賛成です。作り手は皆、時代の子なのですから。
 ちなみに、最後の一文「音楽に敵も味方もない。映画にも敵も味方もない。」(P26)は、クサい発言ですな。

大阪路上ライブ(六斎絵り子)
 夜、JR大阪駅周辺で路上ライブをやっている人たちを観察したもの。インタビューはしていませんな。
 そういえば、溝ノ口にもゆず風のがいましたなあ。あと、中国人のおじさんも。
 ともかくも、イラストがラブリー。

 第5号を振り返ってみて、読んでみて一番楽しかった(エンターテインメント性が高い)のは、アンディサーキスのインタビュー記事(P12)でしょうか。
 「独裁者に安息の地はあるのか」(P6)はなかなか硬派で興味深かったし、「戦場の子供たち」(P8)も魅力があります。
 つまらない記事もありましたが、それは割愛。
 ともかくも、全体的には及第点でしょう。

【参考文献】
「ビッグイシュー日本版 第4号」(有)ビッグイシュー日本 2004.1.8
「ビッグイシュー日本版 第5号」(有)ビッグイシュー日本 2004.2.5

著・泉獺(H16.2/13)
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