アニマ(Anima)
ギリシア語のanemous(風)に由来する。
男性は一般的に、「男らしさ」というものを社会的に要求され、男性も社会に適応して生きてゆく為、それに応えようとして、男らしくなろうとする。その時、その人が生得的に持っていた「女らしさ」は無意識界に沈み、アニマ像を形成する。つまり、アニマは男性の心の中の異性なのである。
特徴
- 非合理的で規律を嫌う。
- 「みながルールに従って行動しているとき、それに従わずに怠けていたいムードや、それに反抗してルールを破る強い感情などをアニマは起こさせる。」(河合隼雄『無意識の構造』)
アニマは感情やムードなどの、非合理的な特性を持ち、合理的な意識に対して非合理的な無意識への開かれた関係をもたらす。
- 生命力や創造性の根源となる。
- 精神エネルギーや創造性は無意識界に存在する。アニマは自我意識と無意識との橋渡しの役割を果たす為、精神エネルギーや創造性はアニマを通して自我意識へともたらされるのだ。
- ペルソナを破壊する。
- アニマはとてつもない、時には神秘的ですらある魅力を持つ。そしてアニマは、その人が長い時間と膨大なエネルギーを費やしてきたものに対して、「それに何の価値があるの?」と囁く。これに幻惑され、今まで築いた地位や財産を失うという例は古今東西いくらでもある。
ユングの分類
なお、ユングによると、アニマ像は四つの段階に分類される。
- 1.生物的なアニマ
- 性的な色彩が強く、女性としての肉体性も強い。このアニマ像は、性格や心情よりも、容姿が強調される。セックスの対象であり、子供が産めればそれで良い(つまり、"女"であれば誰でもよい)という低俗な段階である。
- 2.ロマンチックなアニマ
- 性的な色彩があり、ロマンチックである。このアニマは一個の人格として認められ、男に、「あなたの為なら命はいらない」とまで言わしめる力を持つ。また、それは美的でもある。
- 3.霊的なアニマ
- 神聖にして清浄(処女)、それでいて親しみ易さもあるアニマ像。
- 4.叡智のアニマ
- 3と同様、神聖にして清浄な存在であるが、近づき難い神々しさと智恵を持つ。当然ながら性的な色彩はない。
表象としての例
- 1.生物的な段階のアニマ像
- 娼婦、エロゲーやアニメ、マンガのヒロイン、ゼウスの浮気相手たち(ギリシア神話)、ボンド・ガール(映画『007』シリーズ)、かげろうお銀(水戸黄門)、
- 2.ロマンチックな段階のアニマ像
- ジュリエット(シェイクスピア『ロミオとジュリエット』)、シャルロッテ(ゲーテ『若きウェルテルの悩み』)
- 3.霊的な段階のアニマ像
- 聖母マリア(キリスト教)
- 4.叡智の段階のアニマ
- アテネ(ギリシア神話)、ソフィア(グノーシス)
林道義の分類
尚、林道義氏は、アニマを母元型(グレートマザー)との結び付きの強さに応じて六つに類型化した。以下、それを紹介する。
ちなみに、1と2はグレートマザーと強い結び付きを持っている。4と5はエロス型のアニマであり、グレートマザーから自由になっている男性の前に現われる。3はその中間に位置付けられる。
- 1.日本的マリア型
- 母イメージとは区別されるが、母親のイメージをそのまま若い女性に置き換えた存在で、グレートマザーがそのままアニマになったようなもの。決して一対一の恋人になる事はなく、深い人格的・心理的結び付きは生じない。
皆の片思いの的・憧れの対象であり、母性的な限りない優しさを持っている。
マザコン男性(グレートマザーから全く独立していない)はこの種の女性を追い求めるらしい。
(例)寅さんのマドンナ(映画「男はつらいよ」)
- 2.清純・乙女型
- 母の保護下にあって(母との結びつきが非常に強い)、俗世間の穢れを知らぬ清らかな処女であり、愛らしい純潔を持つ。と同時に、曖昧さ、頼りなさ、個性のない可愛らしさを持つ。それゆえに男性は彼女の中にありとあらゆるものを想像する事が出来る(つまりこのアニマはどんな投影も受け容れる)為、男にモテる。又、頼りなさのゆえに男に、「守ってやりたい」と思わせる。
ちなみに、他の女性がこの現象を見ると、「あんな個性のない娘のどこがいいの?」と理解に苦しむそうな。
(例)コレー(ギリシア神話)、処女マリア(キリスト教)、日本の殆どの女性アイドル歌手、宮沢りえ
- 3.姉妹・同志型
- 別名、シスターアニマ、しっかりアニマ。男性がグレートマザーから離れて間もない(グレートマザーから完全に独立していない)時、まだ充分に育っていない男性性を補償する形で現われる。このアニマはしっかりした意見を述べたり、対等の立場に立って知性的な会話や討論を交わしたり、客観的・理性的・論理的な助言をする。エロスはない。
このアニマに出会った男性は、安心感と信頼感とを得られる。
(例)ペルセウスの前に現われたアテナ(ギリシア神話)
- 4.妖精型
- この世ならぬ妖しい、女性的な魅力を持つ。男性に激しいエロスの光を注ぎ、怠惰な日常性を破壊する事によって、男性を日常性から解き放ち、遊びや空間の世界へといざない、その心を活性化する。しかし否定的に働く時、男性のペルソナを破壊して人生を転落させる恐ろしい存在となる。
男性がこれに出遭った場合、うまくいけば意識化と個性化へのきっかけとなる。しかし下手をするとその魅力に取り憑かれて溺れてしまう。
(例)セイレーン(ギリシア神話)、ローレライ(ドイツ)、魔女キルケ(オドゥセイアー)
- 5.美魂型
- この世ならぬ元型的な美しさを持つ。内向的感情型の女性で、外見上は静かで余り自分を表に出さないが、豊かな感情と美しい心を持つ。グレートマザーからは完全に独立し、一個の人格として男性に愛される。ロマンチック。
神話の中では、英雄が竜などの怪物と戦って囚われの姫君を救い出してこれと結婚するというイメージをもっている(アンドロメダ型神話)。
(例)トロイのヘレン(ギリシア神話)、ヴィーナス、クレオパトラ、楊貴妃、小野小町、アンドロメダ、クシナダヒメ、ローラ(ドラクエT)
- 6.女性秘儀型
- 神秘的な宗教における秘儀と関係を持っており、優れて宗教的な性質を持つ。ユングのいう霊的アニマ・智恵のアニマがこれに相当する。
しかし、詳しい事はよく分かっていない。それだけ遠い存在なのだろうか。
(例)処女というより母のほうに近い巫女(シャーマン)、神秘的な女性、天照大神、ソフィア(グノーシス)
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