では、岩沢転調期のきっかけとなった(勝手に言ってます)、 「灰皿の上から」を見ていきます。 【前奏】 キーはC(メジャー)から始まります。 前奏のコード進行は |C|G|Em|Am|F|ConE|Ebdim7|Dm FonG|Csus4 C|Cadd9 FonG| となっています。 ここで、|・|・|という縦棒の区切りは、小節の区切りを表わします。 dim7(ディミニッシュセブンス)とは、 「P1・m3・-5・m6」というコードで、 m3度の音を重ねてできるコードです。 「ConE」や「FonG」は、基本はCやFですが、 ベース音(一番低い音・ルート音)がEやGになっている、 という分数コードです。 (本当は、「ConE」はCの「転回形」と言われます。 Cの構成音は「C・E・G」であり、 本来ならCというコードはルート音がCですが、 ルート音をEやGにすることを「転回」と言います。 これに対し「FonG」では、GはFの構成音ではありません。 普通はこのようなコードのことを分数コードと言います。) sus4(サスフォー)とは、III度の音をIV度に変えよ、という意味です。 add9(アドナインス)とは、Iから見て9番目の音を加えよ、という意味です。 VIII度=I度なので、9番目すなわちIX度=II度=M2度となります。 つまりCadd9とは、「C・E・G・D」というコードになります。 この前奏は、何かで見た記憶ではプロデューサーの寺岡呼人が作ったはず。 dim7や分数コードあたりが、この頃の岩沢氏にはなかった味でしょう。 【Aメロ】 Aメロは、 |C|C|G|Am|F|C|G|F Fm G| が二回繰り返されます。 まあ、これはよくある進行です。 Aメロ4小節目のAmは正確には「Am→Am7onG」という進行であり、 この「Am7onG」はEmの代理と考えてもさしつかえなく、 よって6小節目までは、「パッヘルベルのカノン」の進行として有名な 「C→G→Am→Em→F→C→F→G」 という進行と本質的にはほぼ同じです。 (カノン進行は、音階をひとつづつ下がっていくという感覚です。 ベースを「C→B→A→G→F→E→F→G」のようにして、 それを強調する使われ方も非常によくあります。 「灰皿の上から」Aメロにおいても、この感覚です。) 最後のほうは少しカノンからはずれて、 「C→G→F→Fm→G」となっています。 この「F→Fm→G」も、よくある進行です。 基本的にはサブドミナント→ドミナントという進行ですが、 ここにサブドミナントマイナーをはさむことで感じがかなり変わりますね。 しかも、これには「M6→m6→P5」という半音を順に下がる流れがあるので、 自然な進行という感じです。 サブドミナントはこのような使い方以外にも様々な使い方があります。 そして、岩沢氏を語る上でこのサブドミナントマイナーは欠かせません。 かなりの曲で、いい感じに(僕の主観)使われています。 また、おいおい書くことになるでしょう。 【Bメロ】 そして、Bメロです。まず、 |AbM7|Bb|C|C| が二回繰り返されます。 この、「VIb→VIIb→I」という進行は、ロック的な進行と言うか、 ビートルズとか、よく使ったやつです。 いやが応にも昂揚感高まる、かっこいい不思議な進行ですな。 この進行は、VIb度のコードによって長音階のIII度の音がbされ、 さらに、ベース音はVIb度、VIIb度と、 メジャー感を決定する音程がマイナーに置き換わります。 それでいて、コード自体はすべてメジャーコード。 明るいメジャーコードのみなのに、音階的にはマイナーの世界。 そして、最後のI度のコードでIII度がもとに戻ります。 (この曲ではハモリがこのIII度を歌うので、より戻った感じがはっきりします) このメジャー・マイナーのあやふやに共存している感じが、 不思議な世界を生み出すのでしょうか。 この曲では、VIb度のコードに(音階上の)V度の音が加えられています。 つまり、VIbM7というコード(この書き方は正しいのか?)になります。 さらに、メロディーもこのM7の音(音階ではV度の音)を歌っています。 これが、普通のロック進行とは少し違う印象、 少し落ちついた印象を生み出しています。 Bメロ後半というか、B'メロとでもいうのか、Cメロというべきか、 (言い方がよくわからぬ)ともかくその続きですが、 |AbM7 Bb|Dm Gm|Eb|D7| となり、つづくサビの頭の「G」へつながります。 「Dm→Gm」で、一時的にGmに転調しているような印象です。 キーGmに転調という立場に立つと、 「Dm→Gm」は「ドミナントマイナー→トニック」という解釈になります。 理論では「ドミナントマイナー」なんてものは認めていないそうですが、 ドミナントマイナーは今やありふれているのでこういう解釈はありです。 で、このキーGmを基準に考えると、「AbM7→Bb→Dm→Gm」は 「IIbM7→IIIb→Vm→Im」という解釈になります。 この「IIbM7」こいうコードは「m2、P4、m6、P1」という構成です。 これはサブドミナントマイナー「P4、m6、P1」にm2を加えただけのもので、 同じようなはたらきをする代理コードみたいなものと考えられます。 (この「IIbM7」というコードは「ナポリの和音」と呼ばれたりもします) 「IIIb」は平行調のトニックです。 そしてドミナントマイナー(Vm)、トニック(Im)ときて、 余韻さめやらぬまま、Ebへ。これはVIbとなります。 そしてすぐにD7。これはまさにドミナント(V7)ですね。 しかし、本来ならさきほど転調みたいになったGm(Im)へ進むところですが、 ここはGへ進んで、キーG(メジャー)への転調が成立します。 わずか4小節の間に、えらくわけのわからない進行が繰り広げられます。 今の解釈も、ひとつの考え方。 Gmに一時的に転調と書きましたが、 実際はこの間の主音がどれかなんて一意的に決められやしません。 使ってるコードはみんな簡単ですが、実に変わったコード進行と思えます。 個人的にはここがこの曲のききどころ(?)ですな(主観)。 【サビ】 そしてサビは、 |G|Bm Em|C|Cm D7|G|Bm Em|C|Cm| |Bm|Em|C|D7|C|G| となります。 これは特に変わったものではなく、まあよくある進行です。 (よくある進行=ダメ、って言ってるんでは決してないよ) 「C→Cm→D7」のあたりはAメロと同じく 「サブドミナント→サブドミナントマイナー→ドミナント」 の流れです。 転調して全く雰囲気が変わるのではなく、 2つの調にまたがる共通点という役割も果たしている気がします。 最後の「C→D7」は「サブドミナント→ドミナント」であり、 この後にはすぐ「G」つまりトニックが来て完結しそうですが、 GにはいかずCに戻っています。 これは理論では禁則のような進行ですが、 今では普通によくあることです。 それはいいとして、そのCの次はGが来てサビが終わります。 そして再びAメロ。 つまり、また|C|C|G|Am|F|C|……とつづいていきます。 【再びAメロ】 サビ終わりからいくと、「G→C」という進行です。 サビが終わったときには、まだキーはGです。 なので、その余韻から、G→Cと進んだときのこのCは、 キーGにおけるサブドミナント(IV度)の聞こえ方がするのです。 しかし、ここは最初のAメロと同じ進行であり、キーはC(メジャー)です。 つまり、このコードCはトニック(I度)なのです。 キーCのトニックであるが、キーGのサブドミナントとも言える。 転調しているために、二重の世界が並立しているような効果が生まれています。 このあたり、うまいなあと感じさせられます。 (まあ、このへんは意識的にやってるんじゃなくて、 ギターで手癖にまかせてコード弾いて、 サビ前でなんとなく転調しちゃって、 サビの後にAメロそのまま持ってきた、 っていう可能性も大いにあるんですけどね。 でも、全部わかってやってるような気もするし、 真相は岩沢氏のみぞ知るところなんですけどね。 でもどっちにしても素晴らしい流れが生まれたことに変わりはありません) Aメロのコード進行|C|C|G|Am|F|C|は、 キーCの立場だと「I→I→V→VIm→IV→I」で、 キーGの立場だと「IV→IV→I→IIm→♭VII→VI」ですが、 さすがにF、CのあたりではキーCの匂いになっていると感じます。 そして後は同様の流れとなります。サビではまたキーはGになります。 このサビの後、間奏が入ります。 この間奏は、以下の流れです。 |G|D|Bm|Em|C|GonB|Bbdim7|Am ConD|G|G| 実はこの間奏は、前奏(キーC)を、そのままキーGに移したものです。 つまり、I度とかII度とか、音程の関係をそのままにして、 主音をCからGにしているということです。 (このような調性の変え方を、移調と言います。転調とは別モノです。) 一見、もとい、一聴、前奏がそのまま繰り返されたように思えますが、 サビでキーが変わったままになっているので、別の調なのです。 これはひとつのテクニックですね。 前奏はたぶん寺岡呼人の作なので、このアイデアも彼のものでしょう。 (ただ、この後の作品で、 このような転調を利用した、移調関係にある前奏・間奏という テクというかアイデアが何度か出てきています。 これはこの曲の影響があるかもしれないな。わからんけど) で、この間奏の後はAメロが一回、それで曲は終わりです。 このAメロも、キーGとキーCのどっちつかずの世界です。 勢いにのってかなりこまかく書いてしまいました。分量が多いな…… とにかく、この曲が岩沢転調ワールドの始まりです。 では次回からも別の岩沢転調曲について見ていきたいと思います。 (またも少し余談。 ゆずにはCD未収録の曲が、何曲かあります。 それらは路上時代にやっていた曲で、 彼らがやっていたラジオ(オールナイトニッポン)で 演奏された曲が数曲あり、 当時毎週聴いていた僕は(けっこうおもしろい番組だった)、 そのCD未収録曲をテープに録ってました。 前のページに岩沢曲リストを載せましたが、 「流れ者」「公園」「春風」の3曲がそれです。 (他にもあるらしいが聴いたことない) そのうち「流れ者」「公園」は転調している曲です。 それもけっこういかす転調です。 曲の感じから、恐らく岩沢曲ではないかと察しています。 何より、転調してるし。 北川曲なら、それはそれでかなり意外でおもしろいが。) |