一般疎開促進要綱
昭和19年3月3日 閣議決定
決戦非常措置要綱ニ基キ一般疎開ハ左記ニ依リ之ヲ強度ニ促進スルモノトス
記
一、建築物疎開ハ本年中期ヲ目途トシ目標量ヲ最大限繰上ゲ施行スル方針ノ下ニ戦時非常措置ニ適合スル手段ニ依リ事業執行ノ迅速化ヲ図ル
二、人員疎開ハ建築物疎開ノ繰上ゲ施行ニ依ル輸送事情等ヲ考慮シ最有効ナル遂行ヲ期スル為重点的計画的ニ指導スルモノトス
三、前二項ニ基ク帝都疎開促進要目別紙ノ如シ他ノ疎開区域ニ於テモ各区域ノ実情ヲ加味シツツ概ネ之ニ準ジ措置スルモノトス
四、施設疎開ハ所管各省ニ於テ三月二十日迄ニ具体案ヲ樹立シ防空総本部ニ提出スルモノトス
帝都疎開促進要目
第一 建築物疎開
概ネ七月末日迄ニ約五五、〇〇〇戸ノ除却ヲ完了セシムルヲ目途トシ強度ノ促進ヲ図ルモノトス
一、建物補償ノ迅速決定
補償額ノ迅速決定ヲ図ル為最モ闡明ナル評価規準ヲ採リ評価員充足ノ為内務、大蔵、運通各省、庁府県、金融機関、住宅営団等ヨリ応援セシム
二、居住者ノ立退キ移転
(一)疎開区域外ニ転出又ハ縁故先其ノ他家屋空間ノ斡旋供給ニ依リ移転セシムルヲ本旨トスルモ特ニ左ノ措置ヲ講ズ
イ 世帯員ヲ疎開区域外ニ転出セシメ業務ノ必要上残留スル者ニ関シテハ適当ナル合宿等ノ施設ヲ講ゼシムルコト
ロ 居住者ノ一時収容ヲ図ル為一定期間ヲ限リ寺院、公会堂、休業料理店、待合又ハ旅館、下宿屋、空店舗等ニ割当ツルコト
ハ 必要ニ応ジ家財ハ都ニ於テ買収シ又ハ学校校舎、寺院、休業劇場、刑務所等ヲ一時ノ蔵置所ニ開放スルコト
(二)収容家屋ノ斡旋供給ニ関シテハ家屋空間ノ供出強化、店舗、料理店、待合等ノ改造住宅化ヲ実施スルト共ニ相当数ノ応急住宅ヲ建設ス
(三)移転輸送ニ関シテハ学生生徒等ノ勤労動員ヲ最高度ニ活用スルト共ニ牛馬車荷車等ノ徹底利用ヲ図ル
(四)家屋ノ斡旋供給及移転輸送ニ付テハ建築物疎開ニ依ル転出者ヲ優先取扱フモノトス
三、除却作業
(一)最短期限内完了ヲ目途トスル工法ニ依ルモノトシ之ガ為古材利用ノ目的ヲ犠牲トスルモ已ムヲ得ザルモノトシテ作業ノ進捗ヲ図ル
(二)大工、鳶、人夫等専門労務者ハ之ヲ統制シ計画配置スルノ外学生生徒、一般勤労報国隊、力士等ノ動員ニ依リ充足ス
第二 人員疎開
一、受入体制ノ整備
(一)疎開者受入体制ヲ整備シ主要受入府県別ノ受入割当数ヲ定メテ受入ニ関スル手配ヲ計画化ス
(二)疎開該当者ノ縁故先ヲシテ積極的ニ引取リヲ為サシム
特ニ老幼者及要保護者ノ引取リヲ促進ス
(三)疎開該当者ニ対シ地方農村ヲシテ帰農呼ビ寄セヲ計画実施ス
(四)地方ノ所要労務ヲ疎開区域内ヨリ吸収セシム
(五)人員ノ移転ニ伴フ食糧其ノ他ノ物資ノ配給ヲ調整ス
二、輸送上ノ処置
(一)鉄道、小運送、小運搬ヲ通ジ計画優先輸送ヲ強化ス
(二)家財ノ輸送ニ関シ必要ナル制限ヲ行フト共ニ都ニ於テ不用物件ノ買入ヲ拡充実施ス
(三)荷造用資材、輸送労力、荷車、リヤカー類ノ供出動員ヲ拡大ス
三、転出先家屋空間ノ供出強化
(一)供出ノ徹底シタル運動ヲ展開ス
(二)農村家屋、余裕家屋、店舗、料理屋等ノ改造ヲ拡充実施ス
(三)建築物利用統制実施ノ地域ヲ拡大ス
四、残留者ノ簡易生活化
各職域ニ於テ疎開家庭ノ残留者ノ合宿等決戦簡易生活化ヲ講ゼシム
第三 資材及経費
一、所要資材ハ之ヲ急速充足スルト共ニ之ガ現物化ニ関シテハ陸海軍及各省ニ於テ全幅的支援ヲ為ス
二、所要経費ニ関シテハ既定計上額ニ依ルノ外要スレバ東京都ヲシテ適宜ノ処置ヲ講ゼシメ国庫ニ於テ必要ナル助成ヲ為スモノトス
第四 機構ノ充実
平時的事務停止其ノ他ニ依リ生ズル職員ヲ極度ニ振替フルト共ニ他府県、他官庁其ノ他ノ協力応援ヲ実施ス特ニ建築物疎開ノ事業所ヲ充実強化ス