小売業ノ整備ニ関スル件
昭和17年4月21日 閣議決定
今年三月六日閣議決定ニ係ル「中小商工業者ノ整理統合並ニ職業転換ニ関スル件)ニ基ク小売業(接客業ヲ含ム)ノ整備実施ニ付テハ概ネ左ノ要領ニ依ルモノトス
要領
一、整理統合ハ左ノ方針ニ依リ之ヲ行フ
1 小売業ノ整理統合ト労務動員ノ見地ニ基ク之ガ職業転換ハ表裏一体タルベキ関係ニ在ルヲ以テ両側面ノ計画並ニ実施ニ付彼此照合スベキモノトスルコト
2 政府及地方官庁ハ業者団体ノ協力ノ下ニ実情ニ即シ積極的指導ヲ行フコト
3 整理統合ニ当リテハ小売業者トシテノ個人企業態ヲ存置スルモノトス但シ特別ノ事由ニ因リ之ニ依リ難キ場合ハ其ノ他ノ方法ニ依リ之ヲ行フコト此ノ場合ニ於テハ主管大臣ハ之ヲ閣議ニ報告スルコト
4 整理統合ニ当リテハ取扱ノ実績ニ拘泥セズ転換ノ難易、店舗ノ位置分布、企業ノ経営規模等ヲ考慮スルト共ニ消費者ノ便益ヲ充分ニ勘案スルコト
5 小売業ト同種ノ事業ヲ行フ産業組合其他ノ農林水産団体及百貨店等トノ間ニ夫々必要ニ応ジ適切ナル事業分野ノ調整ヲ行フコト
二、小売業ノ整備ニ当リテハ左ノ点ヲ考慮スルモノトス
1 食料品等ノ日用生活必需品ニ付テハ買出シ又ハ配達ノ便宜、消費者数及其ノ分布状況、需給数量等ヲ考慮シ配給ヲ円滑ナラシムル如ク整備スルモノトシ要スレバ配給担当区域ヲ画定シ之ニ適当数ノ店舗ヲ配置シ適宜切符制、通帳制又ハ顧客登録制等ヲ活用シテ配給ヲ計画的ナラシメ必要ニ依リ共同御用聞又ガ共同配達ヲ行フコト
2 配給能率ノ低下ヲ防止シ之ガ向上ヲ図ル為店舗ヲシテ共励セシメ其ノ成績ニ応ジ取扱数量ノ増減ヲ図ル為登録ノ更新ヲナサシムル等適当ナル措置ヲ為スコト
三、整理統合ニ伴フ転業者ノ決定並ニ其ノ転換ニ付テハ左ノ点ヲ考慮スルモノトス
1 年齢、資質、経験、技能等ヨリ見テ他ノ労務ニ堪ヘ得ル者ヨリ転業者ヲ選定スルコト
2 戦死者及戦病死者ノ遺族、出征軍人ノ家族、傷痍軍人等ニシテ転業ヲ適当トセザル者ニ対シテハ成ルベク従前ノ業務ヲ継続シ又ハ之ニ従事シ得ル如クスルコト
3 転業者ノ個々ノ選定ハ行政官庁ノ指導ノ下ニ業者団体ヲシテ之ヲ行ハシムルコト
4 転業者ノ就職ハ国民職業指導所ニ於テ労務動員ノ必要ト睨ミ合セ之ヲ指導斡旋スルヲ原則トスルコト
四、転業者ノ就職ニ付テハ左ノ措置ヲ講ズルモノトス
1 職業補導施設並ニ国民勤労訓練所ヲ整備拡充スルコト
2 工場事業場其他ニ対シ転業者ニ対スル訓練並ニ技能ノ錬成ニ関シ適切ナル措置ヲナサシムルコト
3 転業者ハ速ニ其ノ就職先、就職条件等ノ大体ノ目途ヲ定メタル後転出セシムルコトトシ転出ニ至ル迄ノ過渡期ニ於テハ必要ニ依リ勤労奉仕隊等ヲ結成シ差当リ緊要産業ノ生産増強ニ協力セシメ之ニ依リ転業ニ必要ナル錬成ヲ為サシムルコト
4 転業者ノ収入ハ従前ノ収入ニ激減ヲ与ヘザル如ク特別ノ考慮ヲ払フコト
5 転業者ノ家族ニ対シテモ其ノ就職授産当ニ付キ特別ノ考慮ヲ払フコト
五、整理統合ノ実施ニ当リテハ同業者ノ共助精神ニ基ク自治的共助方法ヲ勧奨実施セシムルモノトス
六、企業ノ整理統合ニ依リ転業スル者ノ店舗其ノ他ノ営業用設備、手持商品等ノ処理ニ付テハ業者又ハ業者団体等ニ於テ買取又ハ利用処分ノ斡旋ヲ為スト共ニ其ノ営業上ノ債権債務ニ付テモ之ガ処理ニ協力セシムルモノトス
右ノ場合可及的ニ国民更生金庫ヲ活用スルモノトス
七、職業転換ヲ為シタル者ガ従前ノ企業ニ復帰ヲ希望スル場合ニ於テ其ノ企業ノ新規開業ヲ認メ得ル事情アル時ハ之ガ許可ニ付優先的ニ考慮スルモノトス
八、第一次ニ整理統合ヲ為スベキ業種ハ概ネ別表ノ如シ
別表
第一次ニ整理統合ヲ行フベキ業種
(イ) 商工省関係
石炭商、石油商、自動車商、金物商、貴金属時計商、陶磁器商、硝子商、呉服商、洋服商、洋品雑貨商
(ロ) 農林省関係
米穀商、木材商、木炭商、農機具商、農薬商、味噌醤油商、菓子商
(ハ) 大蔵省関係
酒商
(ニ) 内務省関係
麻雀倶楽部、カフェーバー、周旋屋