科学技術新体制確立要綱
昭和16年5月27日 閣議決定
第一、方針
高度国防国家完成ノ根幹タル科学技術ノ国家総力戦体制ヲ確立シ科学ノ画期的振興ト技術ノ躍進的発達ヲ図ルト共ニ其ノ基礎タル国民ノ科学精神ヲ作興シ以テ大東亜共栄圏資源ニ基ク科学技術ノ日本的性格ノ完成ヲ期ス
第二、要領
緊迫セル国際情勢ニ即応シ我国科学技術ノ総力戦体制ヲ整備シ其ノ躍進的振興ヲ図ル為左記方策ヲ強力ニ実施ス
科学技術研究ノ振興方策
(一) 基礎研究ヲ充実促進シ、応用研究ヲ連絡進展セシムルト共ニ之等ノ研究能率ヲ発揮セシムル具体方策ヲ講ズ
(二) 工業化研究ヲ振興シ研究成果ノ活用ヲ図ル
(三) 研究者ノ養成及配置ヲ計画的ニ強行ス
(四) 研究費ヲ優先的ニ充実スル具体的方策ヲ確立ス
(五) 研究用資材ヲ物資動員計画ニ於テ優先確保ス
(六) 国家緊要ノ技術ヲ進展セシムルニ必要ナル研究事項ニツキ企画シ之ガ研究促進ノ方途ヲ講ズ
(七) 研究ノ補助奨励ニ関スル具体的方策ヲ確立ス
(八) 国家ノ科学技術能力ヲ拡充シ其ノ進歩ニ貢献シタル科学技術者ノ表彰ヲ行フ
技術ノ躍進方策
(九) 大東亜共栄圏資源並ニ環境ニツキ科学的基礎調査ヲ整備強化ス
(十) 総力戦体制ニ於テ国家緊要ノ技術ニ関スル画期的躍進目標ヲ確定シ之ヲ計画期間内ニ実現セシムル為技術能力ヲ集中動員ス
(十一) 優秀技術ノ不断ノ発展ト其ノ急速ナル普及ヲ図リ此ノ目的ニ貢献シタル企業ニ対シテハ資金統制並ニ経理統制ノ運用其ノ他ニ於テ適切ナル報奨ノ途ヲ講ズ
(十二) 工業所有権ヲ適正ナル報償ノ下ニ国家目的ニ基キ使用セシム
(十三) 技術ノ輸出入ヲ総力戦目標ニ基キ計画統制ス
(十四) 企業経営組織ニ技術的能力者ヲ充足セシム
(十五) 技術者技能者ノ計画的養成ト其ノ総力戦的配置ヲ行フ
(十六) 規格統一並ニ工業標準化ヲ急速整備強制ス
科学精神ノ涵養方策
(十七) 国民科学精神ノ涵養ヲ図ル為メ必要ナル教育教科ノ刷新ヲ行フ
(十八) 国民特ニ青少年ノ技術的訓練ニ関スル施設ヲ整備シ国防科学的訓練並ニ防諜訓練ヲ行フ
(十九) 科学普及ニ関スル社会施設ヲ増設整備スルト共二刊行物等ニヨル科学技術ノ社会教育ヲ刷新強化ス
(二十) 国民体位ヲ向上セシメ戦時生活ヲ維持スルニ必要ナル国民生活ノ科学化ヲ図ル
第三、措置
科学技術水準ノ躍進速度ヲ急速ニ増嵩セシムル為一般産業及教育行政機関ト別個ニ基礎研究、応用研究、工業化研究ヲ専門別ニ一貫シテ統轄指導スルト共ニ各専門相互間ヲ有機的ニ連結総合スル科学技術ノ研究及行政中枢機関ヲ早急ニ創設ス
其ノ措置次ノ如シ
科学技術行政機関ノ創設
本機関(仮称技術院)ハ内閣ニ直属シ左記事項ヲ所掌ス
(二一) 技術院ニ於テ実施ス可キ事項左ノ如シ
前記要領中(十)(十二)(十六)各項
(二二) 技術院ニ於テ企画及連絡統轄ニ当ル外一部実施ス可キ事項左ノ如シ
前記要領中(一)(二)(三)(四)(五)(六)(七)(八)(九)(十一)(十三)(十五)(十九)各項
(二三) 技術院ニ於テ総合企画及連絡統轄ニ当ル可キ事項左ノ如シ
前記要領中(五)(十四)(十七)(十八)(二十)
尚本機関ノ一部トシテノ機能ヲ発揮ス可キ又ハ其ノ機能ヲ具備スル各庁既存部局ハ本機関ニ移管ス
科学技術研究機関ノ総合整備
(二四) 官庁研究機関ノ研究能率発揮ノ為予算、会計、人事其ノ他ノ制度ヲ適正化ス
(二五) 既存官民科学技術研究機関ヲ有機的ニ連絡調整シ恰モ一大綜合研究機関ノ如キ機能ヲ発揮セシムル為必要ナル措置ヲ講ズ
(二六) 国防科学技術ニ関スル総合研究機能ヲ発揮セシムル為特殊法ニ依ル総合研究機関ヲ創設シ就中航空並ニ材料ニ関スル技術ノ刷新向上ハ飛躍的且先行的ナラシムル要アル国際情勢ニ鑑ミ特ニ航空並ニ材料研究部門ヨリ早急著手整備ス
科学技術審議会ノ設置
科学技術最高国策ニ関スル重要事項ヲ調査審議スル為内閣ニ科学技術審議会ヲ設置ス
備考
一、本要綱ハ遅クトモ昭和十六年九月一日ヨリ実施スルモノトス
二、本要綱実施ノ為関係各庁高等官ヨリナル準備委員会ヲ設クルモノトス