対泰国経済発展ノ為ノ施策
昭和16年3月7日 閣議決定
世界新秩序ノ進展ニ伴フ経済圏発生ノ必然性ヲ確認シ共存共栄ノ大局的立場ニ基キ速ニ泰国トノ経済的緊密化ヲ図リ以テ皇国ヲ中心トスル大東亜経済圏ノ一環タル実ヲ挙ゲシムコトヲ期シ、逐次左記要領ニ依リ施策スルモノトシ特ニ現下ノ国際情勢ニ於テハ皇国ノ対南方経済発展ノ基礎ヲ確立スル為泰国ニ関スル施策ヲ最モ緊急ナリト認メ特殊ナルモノヲ除キ之ヲ優先的ニ考慮スベキモノトス
一 泰国ノ経済ヲシテ欧米依存ノ状態ヨリ脱脚セシムルト共ニ大東亜経済圏ノ一員タル立場ヲ取ラシムルコト
二 泰国政府ノ欧米人顧問ヲ逐次本邦人顧問ニ代フルコト
三 泰国ノ経済政策ノ樹立及実施ニ参与シ皇国トノ経済的提携ヲ指導強化スル為泰側ニ邦人ヲ加へタル経済委員会其ノ他適当ナル機関ヲ設立セシムルコト
四 泰国ノ関税制度又ハ入国手続等ニ関シ本邦側ニ不利益ナル点ヲ逐次是正セシメ本邦人ノ経済的活動ヲ自由闊達ナラシムルコト
五 日泰間ノ貿易ニ関シテハ泰国ヲシテ皇国ニ経済的ニ全面依存セシムル方針ニ依リ両国間ニ広範囲ノ「バーター」協定ヲ締結スルコトトシ特ニ皇国ノ必要物資ニ関シテハ泰国ヨリノ優先的供給ヲ確実ナラシムルコト
右ノ為必要アル場合ニハ泰国ヲシテ貿易管理ヲ実行セシムルコト
六 将来他ノ東亜諸地域ヲ併セ皇国ヲ中心トスル大金融圏ノ設定ヲ目標トシテ日泰間ノ金融関係モ之ガ一環タラシムルガ如ク努ムルコト皇国ノ指導及援助ノ下ニ泰国立銀行ノ育成ヲ計リ其ノ機関ヲ拡大運営セシムルコト
七 泰国ニ於ケル商業ニ関シテハ
(イ)泰人ニ対スル商業教育ノ普及発展ヲ援助シ泰国民ノ商業的地位ノ確保向上ニ努ムルコト
(ロ)邦商ノ発展殊ニ地方進出ヲ計リ日泰提携シテ泰国内ニ於ケル販売購買機構ニ進出スルコト
八 泰国ニ於ケル工業振興ノ立案及施設ニ対シテハ進ンデ本邦側ヨリ指導援助ヲ与フルノ方針ヲ執リ右実行ニ付テハ泰国ヲシテ入札制度ノ慣行ヲ放棄セシメ皇国ノ資本、資材、技術ノ援助ヲ仰ガシムルガ如クセシムルコト
九 護謨、錫、棉花等泰国ニ於ケル皇国所要資源ノ開発ニ関シ我方技術及資本ノ進出ヲ計リ日泰提携ヲ強化拡充スルモノトス
十 鉱業権許可ニ関スル政府ノ制限的態度ヲ是正セシムルト共ニ許可鉱物(特ニ錫鉱)ニ対シ本邦業者ノ進出ヲ助長スベク不許可鉱物(法規上不許可鉱物ナシ)ニ対シテモ政府ヲ指導シ本邦業者ノ協力ニ依リ開発ニ従事セシムルガ如ク指導スルコト
十一 泰国ニ於ケル栽培業ニ関シテハ土地法ヲ整備是正セシムルト共ニ土地所有権ヲ開放セシメ事業経営上特許ヲ要スル場合ハ之ヲ邦人側ニ対シテ許与セシムルガ如クシ日泰合弁経営ニ依リ皇国ノ必要品ヲ生産スル多角農業ニ誘導スルコト
十二 水産業ニ関シテハ外国人ニ対スル沿海漁業禁止ニ関スル法規ヲ撤廃又ハ緩和セシメ漁業根拠地ヲ開放セシムルニ努ムルト共ニ現状ニ於テハ水産物ノ売買加工ニ本邦人ノ進出ヲ計ルコト
十三 交通ニ関シテハ大東亜共栄圏擁立ノ総合的見地ヨリ左記事項ニ付指導援助ヲ与へ以テ皇国ノ指導的地位ヲ確立スルガ如ク措置スルコト
(イ)泰国海運ノ整備及日泰海運ノ緊密化
(ロ)本邦及日泰合弁会社ニ依ル航空路ノ拡張、乗員及技術員ノ養成並ニ航空保安施設ノ整備
(ハ)港湾ノ修築開放(特ニ盤谷港ノ改修、「シンゴラ」港ノ開放)
(ニ)放送事業ノ整備拡充
(ホ)本邦又ハ日泰協力ニ依ル通信事業ノ整備拡張
(ヘ)道路鉄道ノ整備改善
十四 本邦人ノ企業的進出ニ関シテハ統制ヲ厳ニシ計画的ニ之ヲ行ハシムルコト
右進出ハ泰国ノ経済的独立ヲ尊重スル建前ニテ進ムヲ要スルモ泰側ノ不当、不法ナル排外主義ハ匡正スル方法ヲ講ズルコト
十五 泰国ニ於ケル第三国ノ権益ニ関シテハ新規ノ設定ヲ避ケシムルト共ニ既存ノモノハ漸次之ヲ回収セシムル様泰側ヲ援助スルコト
十六 在住華僑ノ援蒋抗日態度ニ関シテハ泰当局ノ厳重ナル取締ヲ要求スルト共ニ差当リ其ノ経済的地位ニ鑑ミ大局的立場ニテ組織及実力ノ利用ヲ策スベキモ将来ハ日泰両国民ノ進出ニ依リ華僑ノ独占的地位ヲ制肘スル如ク工作スルコト
十七 泰国ト満、支トノ通商関係ニ付テハ皇国ノ指導ノ下ニ調和的発展ヲ計ラシムルコト