賃金給料生活者ノ一部ニ対スル応急措置ニ関スル件
昭和15年2月16日 閣議決定・閣議了解
一、賃金又ハ給与ガ著シク低額ナル為扶養家族アル低額ノ賃金給料生活者ニシテ生計ノ維持困難ナル者ニ対シ臨時手当特別賞与等ヲ支給セントスルモノニ付テハ賃金又ハ給与ニ関スル臨時措置令ノ運用ニ依リ之ヲ認ムルコト
尚右ハ厳ニ必要已ムヲ得ザル限度ニ之ヲ止ムルコト
二、国及公共団体ニ於テモ右トノ権衡ヲ考慮シ必要アル場合ハ適当ナル措置ヲ講ズルコト
但シ既定予算ノ範囲内ニ於テ之ヲ行フコト
三、前二項ト関連シ生活必需品ノ価格ノ低廉ヲ期シ且ツ之ガ生産、出荷、配給ノ円滑ヲ期スル為至急具体的措置ヲトルコト
閣議了解事項
別途閣議決定ノ一ニヨル許可ノ標準ハ左記ニヨルコト
(一) 当該事業場ニ於テ指定期日直前ニ賃金ヲ相当程度一斉ニ引上ゲタルモノ又ハ其ノ賃金カ同地方ノ同種事業ノ賃金ニ比シ特ニ良好ナルモノハ之ヲ如クコト
(二) 賃金ノ増給ヲ受クベキ労務者ノ範囲ハ健康保険法第三条ノ規定ニ依ル標準報酬第十一級以下ノ者又ハ実収月平均七十円以下ノモノニシテ十四才未満ノ扶養家族アルモノニ限ルコト
(三) 賃金増給ノ方法ハ基本給、請負単価等ノ引上ケニ依ラス臨時手当ニ依ラシムルコト
(四) 賃金増給ヲ許可スヘキ程度ハ月額ニ付キ当該事業場ニ於ケル第二号該当ノ労務者ノ数ニ二円ヲ乗ジタル金額ノ範囲内トシテ各労務者ノ受クル額ハ右総額ノ範囲内ニ於テ扶養家族数其ノ他ニ応ジ適当ナル基準ニ依リ定メシムルコト
(五) 前各号ニ依ル臨時手当ノ方法ニ代ヘ労務者ノ生活必需品ノ実物給与(廉売ヲ含ム)ノ方法ニ依リ生計費ノ増加額ヲ補給スルハ望マシキコトナルヲ以テ此ノ方法ニ依リ得ル場合ハ成ルヘク之ニ依ラシメ前各号ニ依ル臨時手当ノ支給ハ許可セサルコト
(六) 給料生活者ニ対スル増給ニ付テモ亦各号ニ準スルコト
二、別途閣議決定ノ趣旨ハ真ニ止ムヲ得サル場合ニ限リ例外的措置トシテ増給ノ途ヲ開カントスルモノナル処若シ政府ノ方針カ漫然一般的増給ヲ認ムルニアルカ如キ印象ヲ与フル時ハ各方面ニ面白カラサル影響アルヲ以テ関係各庁ハコノ種ノ誤解ヲ生セシメサル様万全ノ措置ヲ講スルコト
(注)マイクロフィルムに不鮮明な部分があり、「閣議決定書集録」 『外務省文書』 Reel No. S 427 pp. 189〜192で補った。