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理系学会の歩き方
研究者はなぜ学会を目指すのか
発表準備編

 ここ数週間 学会発表の準備に追われ、手抜き更新を繰り返している管理人です。
 「学会発表」なんてモノを控えていると それなりの準備が必要ですし、時間も取られてしまいます。

 普通の新聞朝刊を見ていても、時々 学会に発表された最新の知見が掲載されていたりします。
 「日本***学会総会」なんて聞くと 一般の方には何をやっているのか不思議な集まりに見えるでしょう。

 {科学の最先端が披瀝され 技術が進歩する場所}

 なんんて思っていたりしませんか。

 そんな物が毎年決まった時期にやってくるわけがないんですから。

 ここでは ある下っ端学会員の目を通して 理系の学会って奴を見てみましょう。

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    学会にいくために

 なぜ研究者が学会場に集まるのか。
 一言で書き記すのは、非常に困難です。

 正当な理由としては・・・

最新の研究動向を学習し研鑚を深めるため
自分の研究が先を越されていないことを確認するため
自分の成果や主張を 自慢し宣伝するため
嫌いな奴の発表に難癖を付けるため

 まあ最もな理由としては・・・

上司に命令された
会員資格更新のために
会場の手伝いを押し付けられた

 ありがちな理由としては・・・

平日に仕事を休める
平日に堂々とゴルフができる
家族旅行をかねて出掛けられる
知り合いが少ない場所で 羽が伸ばせる
離れた職場にいる昔馴染みと酒を飲める

 理由は 志の高低を問わず 幾つも挙げられるのです。
 学術的な興味だけでなく、政治的な理由や娯楽的な要素も少なくないのは見てのとおりです。
 休みでもないのに遠くに出かけられ 多くの知り合いに逢えますから、行って不愉快な物ではありません。(例外はもちろん存在する)

 しかし、ただ何もしないで数日間の休み(?)が取れるほど この業界も甘くはありません。

 さて、彼には どのような試練が待ち構えているのでしょうか。
 学会場に向かうまでの過程を 覗いてみましょう。


    学会まで あと半年

 このころ発表する演題の募集が始まります。

 何を発表しようにも 実験の結果はまだ出ていませんし、過去の統計を取るにしても どのような結論が出るかは見当がつきません。
 開催地が不便だったり、自信が持てる演題がないときは できれば逃げてしまいたいのですが、自分の施設からの発表が少ないと面子の問題が出てきて 上司から発表を押し付けられてしまいます

 特に、若年者は 「学会発表の練習」とか「論文を書く習慣をつけるため」などという教育的(?)な配慮から、発表を強制されます。

 不思議なことに、グアムやサイパンなど海外リゾート地で開催されるような学会は 自らが積極的に売込みを図らなければ 演題を出させてもらえません。

 というわけで、発表する運命から逃げられないとなったら、無い知恵を絞って「演題」を考えなければなりません。
 自分の研究成果を隠しておきたい、あるいは成果が上がっていない場合は(もちろん大半は後者である) 何かしらの結果を急造するか、上司に助けを仰ぐ羽目になります。

 急造実験をする方針なら、時間がかからず綺麗な結果が出せそうで 当り障りの無い結論が導けそうなテーマを考えます。
 自分の本当の研究テーマに繋がる物なら なお結構なのですが、世の中はそんなに甘くありません。

 上司に助けを仰ぐと、自分がやりかけている課題、あるいは自分がうまくいかなかった課題を押し付けられます。
 学会に演題を出せるような成果を持っているなら、部下なんぞに発表させずに 自分が第一演者になることが多いようです。
 この辺りは上司の性格によることが多く、発表を部下に任せ 自分は共同演者としてちゃっかり学会場に顔を出すパターンも存在します。

 いずれにしても、目的の見つからないまま 何かしらの演題を締め切りまでに搾り出すのです。
 このときは 本当の発表までかなりの時間がありますから、どんな大風呂敷でもOKです。
 それが後々 自分の首をしめるんですけど。


    演題締め切り、そして・・・

 良い演題が浮かんだにしろ、浮かばないにしろ、演題締切の日はやってきます。
 演題だけなら 少しは思いつくのですが、このとき問題になるのが「抄録」というやつです。

 「抄録」というのは、自分が発表する内容の荒筋に当たる物で、400字程度にまとめて事前に提出しなければなりません。(事後提出のこともあり)
 学会を主催する側としては この抄録をもとの発表の順番を決めたり、司会者の準備をすすめることが出来ますし、学会を見に行く人間も どの発表を見に行こうか考える資料となります。

 このように大切な文章なのですが、前に述べたとおり 半年も前だと発表内容は決めていても 実際の実験はまだ始まってもいません。
 結果のわからない発表の要旨を提出するのですから、中身は相当いいかげんな物になってしまいます。
 結果がどっちへ転がっても矛盾しない、最悪 自分の予想と正反対の結論が導かれても良いような玉虫色の抄録が完成します。

 昔は郵送登録だったので締め切りが早かったのですが、最近はネットでオンライン登録ができるようになり 締め切りが遅くなり手間も省けるようになりました。


    学会まで あと3ヶ月

 大規模な実験をするつもりなら 本気で動いていないと間に合わない時間ですが、お手軽実験で結果を出そうという志なら まだまだ余裕があります。
 ここで取り上げる不良学会員が この時期にどのような生活を送っているかは もうお分かりでしょう。

 この時期になると、学会の主催者から演題の採用不採用の通知が送られてきます。
 不本意な学会発表は不採用になっても痛くないのですが、強制的に演題を出させられるような学会は演題不足に悩んでいますから 通り一遍の発表でも高い確率で採用されます。

 筆者の主に出席する学会では 「口述演題」「ポスター演題」に分けられています。
 「口述演題」のほうが価値があると信じられており、ポスター演題のほうが注目度でも認知度でも格下と見られます。
 演者の負担と緊張度は 注目度と反比例することは言うまでもありません。

 提出した抄録によっては 口述演題を希望していても、主催者側からポスターセッションに回されてしまうことがあります。
 また、口述演題に残れたとしても 一般演題が発表5分・討議3分で進行されるのに対して、あまり内容が無いと主催者に見くびられてしまうと発表3分・討議1分という屈辱的な扱いを受けてしまうことがあります。

 高い志を抱いていない場合は 苦痛の時間は短いほどいいのですが、発表を押し付けた上司はこのような扱いを良しとはしません。


    学会まで あと2ヶ月

 この時期になると 同僚たちは予備実験も終わり、本実験のデータもボチボチ集まってきています。
 気の早い奴になると「パワーポイント」でスライドの準備を始めるような行動すら見られてきます。
 そういう姿に囲まれると、いかにのんびりした不良学会員とはいえ 少し焦りを感じるようです。

 が、よく考えてみれば どうせ大それた結論を出したい実験ではないので、「1ヶ月本気でやればどうにかなるはず」と 反動でいきなり楽天的になったりするのもこの頃です。
 この時期は突然ホームページの制作意欲が 何処からともなく湧き上がってきたりするようです。


    学会まで あと1ヶ月半

 早い連中はもう発表原稿がほぼ完成し、遅い連中でも大まかな概要はメドが立っています。
 不良学会員は まだ下準備の段階なので 実験に余念が無いようです。
 周囲からは「本当に間に合うのか」「何をやっているんだ」などと雑音が飛び込んできます。
 それでも所詮は1ヶ月以上先のことですし、いざとなれば標本数を減らして 実験項目をスリムにすれば 間に合う時期なので それほど慌ていないようです。

 この時期になると 学会会場までの新幹線や飛行機の予約を大半の人間が済ませています。
 学会関係者の宿泊先は 学会関連の代理店が斡旋してくれます。
 早めに学会経由で申し込めば問題ないのですが 小さな地方都市だとめぼしいホテルは押さえられてしまっています。
 土壇場で宿を探すのは一筋縄では行きません。

 が、所詮は旅行代理店の仕事ですから ちょっと離れた民宿や安ホテルをマメに探せば一人分の部屋なんてどうにでもなります。
 学会関係者に無駄な利益を落とすのは不良学会員のポリシーに反する行為なのです。
 大阪・名古屋のような大都市になると、小さな学会ごときでホテル事情が逼迫することはありませんから まだまだ余裕です。

 前もって学会参加の登録を行なうと学会参加費がすこし割引になるのも この時期までです。
 不良学会員はまだ演題が完成していませんが、少しでもお財布の負担を減らすべく 前登録だけは済ませた様子。
 この時期はまだ精神的な余裕があります(???)から、まだ学会を欠席してしまうような荒業は考えていないのです。


    学会まで あと1ヶ月

 この時期になると 部内で発表の予行が始まります。

 かなり早い時期に準備が出来ていた連中から やっていくのですが、すんなり「OK」が出ることは皆無です。
 同僚や上司から間違いを指摘されたり、反対意見が出されたりします。
 同じグループに所属していても 理論的な考え方が同一とは限らないのです。

 スライドの誤字・脱字、口述原稿の言い回しの問題なら 短時間で修正可能ですし、統計処理などの誤りならどうにかなります。
 可能であれば 指摘されたところを修正して もう一度部内で予行を行ないます。
 言われたところは直したはずなのに、もう一度駄目を喰らうことも少なくありません。

 それでも、やり直しできる問題なら そんなに落胆してはいけません。
 最悪の場合、実験方法の誤りや 「仮説→実験結果→結論」の論理的な破綻が発覚することがあります。
 この時間だと やり直しが出来ませんから 今ある結果だけで 嘘のない結論を探すことになります。

 不良学会員は まだ実験結果が揃っていませんから 他人のあせっている様子を楽しんでいますが、もちろん無傷ではすみません。
 予演が進むに連れ、上司からの圧力が増していき 周囲の目はどんどんと険しくなっていきます。
 周囲につられ 「ちょっとマズイかなあ」と思うようになったようです。
 それでも実験が順調に進めば どうにかなるだろうという 読みなのでしょう。


    学会まで あと3週間

 もう切羽詰った状況です。
 発表の予演もどんどん進み、計画的に作業を進めていれば 本番用の原稿が完成していてもおかしくない時期です。

 不良学会員は まだまだ実験の結果をまとめている状態です。
 発表というからには 結果をただ出せば良い訳ではなく、きっちり統計的な処理をして それなりの結論を導かなければなりません。
 実験が順調ならどうにかなるはずなのですが、下準備に時間がかかったのに蓋を開けてみたら標本が全滅なんてことも起こってしまいます。

 いまさらやり直しは絶対に不可能なので 「欠演」なんて言葉が頭をよぎるのも この時期です。
 地方会や支部会といった小さな集まりでは 時として演者の都合で演題が取り下げられることがあります。
 これも非常に恥ずかしいことなのですが、いいかげんな結論を発表して火ダルマになるよりは幾分マシでしょう。

 気が早い連中は 学会場周辺の美味い店探しをしていますし、出かける期間の仕事の処理を進めています。


    学会まで あと2週間

 この時期になると、出来はともかく不良学会員も 手にしている結果だけでも まとめなければいけません。
 完全に実験が終わっていなくても、分かっている結果だけで発表を構成します。

 あまりにも数字のばらつきが大きいような場合は、最高値と最低値を切り捨てるといった あまり数学的でない手段をとることもあります。
 さすがに嘘はマズイので 数字のでっち上げなんかは絶対に御法度ですが、本論から離れた数字の処理はこの段階では厳密ではありません。

 統計的な有意差が出なくても良いと開き直るのもこの頃のようです。(おいおい!)

 実験内容があまりにも貧弱な場合は 実験方法や過去の論文のまとめで時間を埋めます。
 結果が少ないと 仮説と結論が飛躍してしまうのですが、気にしている余裕はありません。
 誰の目にも飛躍が大きすぎる場合は 「これからも実験を進めていきたい」という結論にして 会場での突っ込みを予防します。

 いまさら半年前の高い志(?)を思い出しても手遅れです。

 学会発表なら 多少標本数が少なくとも統計処理に甘さがあっても格好はつくのですが、論文はそうではありません。

 もし、本気で論文をまとめようと思うと 更に実験の精度を上げて 統計処理も完璧にしなければいけません。
 「有意差は出なかったが、XXな傾向があった」という結論は学会発表では良く耳にするのですが(それは決して名誉なことではない)、論文では絶対に認められません。
 論文で「有意差がない」といって認められるのは、統計学的に有意差が出る可能性を排除できるほど多くの標本数を処理した場合のみで、それは「有意差がある」という結論を導くより遥かに困難です。

 さらに発表内容をまとめると同時に 口述原稿を発表スライドを作らなければなりません。
 本番の発表前に予演を行なうのが普通ですから、学会の前の週までに全てが出来上がっている必要があります。

 最悪の場合、ぶっつけ本番ということもありえますが、本番の会場で厳しい質問がぶつけられるとアウトですから知っている人間の前で「駄目出し」はしておきたいのです。
 この時期になると 上司も厳しいことを言っても無駄だと悟るのか、細かい修正を要求されることはほとんどありません。
 とりあえず共同演者として恥をかかない程度の水準までで諦めてしまうようです。


    学会まで あと1週間

 さすがの不良学会員も準備はほぼ終盤に近づいています。
 が、この時期の失敗は簡単なことでも命取りになるので気は休まりません。

 本番から逆算すると スライドを現像するのに2日かかりますから、出発の4日前には完成スライドが出来ていなければなりません。
 その前に 予行で指摘された点の修正をしなければいけないのですから、大忙しです。

 この段階で コンピューターのデータが何かの弾みで失われたり、フィルム出力装置の機嫌が斜めだったりすると 窮地に立たされます。
 スライドに焼き付ける前に不具合が発覚すればまだいいのですが、最悪なのは 現像から返ってきたスライドに何も映っていない場合です。

 万が一、このような事態に遭遇したら 学会事務局宛に「欠演」の連絡をするより他にありません。(筆者未経験)


    学会まで あと3日

 不良学会員も どうにかスライドも完成させることも出来ました。
 しっかりプロジェクターにかけて、不具合が無いことを確認します。
 もうやり直しは効きませんから、誤字脱字は無視します。
 結論も変更できませんから、自分の出した結果を信じるしかありません。

 これで一休みできるかというと、まだまだ課題は残っています。
 学会場で自分に浴びせられるであろう質問に対して 恥ずかしくないだけの意見を述べられるようにしておかなければいけません。

 最新の英文雑誌を狂ったように読み耽るのも この時期のことです。
 普段から最新の論文に目を通していればこんな羽目にはならないのですが、そんなことが出来る位ならこんな窮地に陥ることは無いでしょう。
 不良学会員の英語力では 到底すべての関連論文に目を通すのは不可能ですから、主要論文と最新の動向だけをチェックします。

 後は自分の発表までに 時間が延び延びになって、討議時間が短縮されることを祈るだけです。


    学会まで あと2日

 発表の準備はやっと終わりました。
 が、まだまだやらなければいけないことは山積みです。

 まず、明日の切符と宿を手配しなければなりません。
 不良学会員の立場では 交通費・宿泊代は全額自前ですから、図書館の「宿泊施設一覧」で片っ端から安宿に電話を掛け捲ります。
 今回は 関西の大都市ですから 宿はすぐに見つかりました。
 後は鉄道の手配をして ようやく安らぎが訪れたようです。

 会場が遠い場合 朝のセッションに当たってしまうと 前日に出発しなければいけません。

 ふう、長かった下準備もここまで。
 後は 会場で短い学会旅行を楽しむ(?)ことにいたしましょう。


さて、学会場に向かった不良学会員。
行く先には一体なにが待ち構えているのでしょう。

次回は 学会場での出来事を見てみましょう。

ハチャメチャな時間はいつまで続くのでしょうか。

請う ご期待!


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注意

これは極めて出来が悪い例である。
モデルの名は 本人の名誉のために伏せてある。
大半の研究者はしっかり準備をこなし、有意義な発表を行なっている。
(本当に?)