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死神主催の合法カジノ・基礎編
世界で一番スリリングな博打

 世間が夏休みに浮かれる ある日のこと、筆者は怖い人に命じられ 数ヶ月ぶりに自室の掃除に勤しんでおりました。

 日本では年に2回 大掃除熱が流行するようで、この時期と12月には なぜか筆者も犠牲となってしまいます。

 嫁に言われてから手をつけるのも何ですが、確かに 筆者の目にも余るのが この本棚。

 急激に増えた内容物が地層を形成しながら堆積しています。
 地震でも来た日には 大惨事になるのは必定。
 下敷きになるのは自分です。

 早速 整理に取り掛かったのですが・・・ 本棚の掃除って 一番 捗らないのですよ。

 読み忘れていた本が出てきたり・・・
 探していた記事が発見されたり・・・
 昔の本が面白く見えてきたり・・・

 気が付いたら 埃の中で 読書になってること ありませんか?
 筆者も 掃除を初めてモノの数分でつかまってしまいました。

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    掃除は進まず・・・

 今回 捕まってしまったのは この本。


2001年度版 国民衛生の動向

 大昔、何かの資料で買ったんでしょうが、その後は地層の奥深く 仕舞い込まれていたようです。

 お役所風で味気ない表紙ですが、中身は 結構 面白いんですよ。

 たとえば この表。


H12年度簡易生命表

 毎年 厚生省が発表している「生命表」って奴でして、年齢ごとの死亡率と平均余命(一般には「平均寿命」でしょうか)が出ています。

最新の簡易生命表は厚生省サイトでダウンロード可能

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life02/index.html

 考えようでは あまりユカイな内容でないのですが、よくよく見ると 意外な事も分かります。

 たとえば 男性の簡易生命表を良く見ると・・・赤線の部分!


H12年度簡易生命表(男)より抜粋

 よーするに、日本人男性の90%は60歳まで生き残るってことなんです。

 コレを多いと見るか、少ないと見るか。

 筆者は 多いと思って驚いたんですけどね。

 で、同じことを女性の表で見てみると・・・


H12年度簡易生命表(女)より抜粋

 女性の90%近くは70歳まで生き残るんですよ!!

 日本人女性って 本当に長生きなんですね。
 で、しかも70歳のおばあちゃんも 平均余命が18年もあるんだから!!

 男性がかなわないはずだなぁ・・・(って ナニが?)


 で、こんな表を見ていると 何かに似てると思いませんか。

   

 え、人の命を博打にたとえるなんて、ケシカラン って?

 賭け事が不謹慎なら 別なモノと並べてみましょうか。

  

 やっぱり よーく似てるでしょ

客は 死亡率に応じた保険料を支払い 死んだら保険金を受け取る。
保険会社は 死亡率ごとに料率を決め、当たった
(何が?)客に保険金を支払う。

 ううーん、保険関係者は激怒するのですが、生命保険が 時として「宝くじ」や「競馬」に例えられるのも分かる気がしませんか? ま、保険は 宝くじと違って 当選確率が確定していませんから、JRAや日本宝くじ協会よりリスクが高いんですけどね。

激しく言い訳

 保険を博打に例えると 多分 一部の人々には猛烈な反感を買うことでしょう。
 勿論、私とて その社会的役割を賭博と同等に見ているわけではありません。
 保険は現代に不可欠な社会資本であることは疑う余地がないでしょう。

 が、その役割が 賭博的な世界の上に成り立っていることも また間違いがありません。
 リスクをヘッジする利用者の対面には 必ず 引き受け手がいるはずです。
 余分なリスクを抱え込むことは 進んで確率の世界に足を踏み込むことであり、様々な確率ゲームと同じ地平に存在しているように思われます。

 数字の世界で 保険を博打と隔てるモノがあるとすれば、それは緻密な計算の上にもたらされた統計的な安全域ぐらいでしょう。
 ってことは、数学的には 博打の胴元と賭け手の関係が成り立つんですよね?

 生命保険も 競馬と同じ博打・・・「確率ゲーム」なら、客がどれだけ有利かは 支払いオッズがどれだけ数学的な確率(この場合は死亡率)に近いかで決まります。

 宝くじは 前述のように 還元率は50%を切っていて、とても真っ当なギャンブルとは思えません。
 競馬も 25%を抜かれた滓の配当ですから 鴨には厳しい博打です。

 では 生命保険という賭博・・・また口が滑ってしまった・・・確率ゲームは、どれだけ客に優しい賭けヘッジ手段なのでしょうか?

 そして、崇高な社会的使命に燃える胴元生命保険会社は、一体 どれだけの寺銭付加保険料を抜いているのでしょうか?


    もっとも単純な生命保険

 いきなり複雑な保険ではお手上げですから、単純な奴から見てみましょう。


ある団体保険の男性向け料率表(月払い・抜粋)

 これは筆者の勤務先で募集されていた団体保険の料率表。

 「1年満期の死亡保障のみ 満期金なし・配当なし」という 最も単純な生命保険です。

 「1年満期」というのは 筆者のように単純な計算しか出来ない人間には好都合で・・・

(ある年齢の死亡率)X(死亡保険金)=(純保険料)

 の関係が成り立ちます。

 全年齢で計算すると疲れるので いくつか代表例を抜き出して見ましょう。


ある団体保険の保険料(男性・月払い)

 この表は 各年齢ごとに 死亡保険金に対する月払いの保険料を示しています。

 こいつを 先ほどの簡易生命表の死亡率と比べてみると・・・

 年齢 

年間保険料
(200万あたり)

死亡率
(簡易生命表より)
推定純保険料  還元率 
15 1944円 0.00026 520円 26.7%
20 3192円 0.00059 1180円 37.0%
25 2640円 0.00062 1240円 47.0%
30 2592円 0.00072 1440円 55.5%
35 3000円 0.00097 1940円 64.7%
40 4032円 0.00149 2920円 72.4%
45 5928円 0.00227 4540円 76.6%
50 8496円 0.00373 7460円 87.8%
55 13536円 0.00603 12060円 89.1%

 ううーん、なんという数字でしょう。
 筆者は頭を抱えてしまいました。

 還元率の高低はともかく 年齢ごとの差が大きすぎると思いませんか?

 こんな設計では 若年者の保険料で中高齢者の保障を行う年金的な色彩を帯びてしまいます。

 本当にこんなことになっていたら、若い契約者は逃げ出してしまうでしょ。


 ううん、何か隠された理由があるはず。

 コレだけの大差は 単にボラティリティーの問題だけでは片付けられません。

中高年に対する保険会社の商業的戦略か?
保険の加入年齢に偏りがあるのか?
保険加入者の死亡率にバイアスがかかっているのか?

 原因を探ろうと 年齢別の契約保有数とか 被保険者の年齢別死因とか、糸口になりそうなデータを探してみたのですが 何処にも落ちてないの。

最大手カタカナ系外資系損保系業界団体も・・・・

 どの会社も 保有契約や保険金支払いのデータは公表されていないのでありました。

 そんなデータがあったら 頑なに公開を拒んできた死差益がシロートにも類推されてしまいますからね。

 と、あきらめかけていたら・・・

参考資料

生命保険文化センター

 2002年度版 生命保険ファクトブック 

 思わぬところに やたらと詳しいデータが公表されているじゃありませんか。


生命保険文化センター生命保険ファクトブック」より

 生命保険会社は、厚生省発表の資料ではなく、保険契約者のデータをまとめて 独自の生命表を作っているのでありました。

 当たり前といえば当たり前なんですけどね。

 人口全体に比べて、保険保有者には 何らかのバイアスが掛かる可能性があります。

 保険契約者からしてみれば 自分の生命に不安を感じるから保険に入るわけですから、人口全体に比して死亡率が高くなるような気がしますし・・・

 保険会社は 健康診断を行ったり 告知書を提出させたりと、被保険者を健康状態で選別してるわけですから 死亡率が低くなってもいいように思うのですが・・・

 どちらが勝っているかというと、一目瞭然!

 年齢(男性)  簡易生命表
(H14年・厚生省)
生保標準生命表
(1996年)
 生保契約者 
死亡倍率
15 0.00026 0.00052 2.00倍
20 0.00059 0.00114 1.93倍
25 0.00062 0.00086 1.39倍
30 0.00072 0.00084 1.35倍
35 0.00097 0.00105 1.09倍
40 0.00146 0.00156 1.07倍
45 0.00227 0.00251 1.11倍
50 0.00373 0.00376 1.01倍
55 0.00603 0.00630 1.04倍
60 0.00887 0.01022 1.15倍

 生保被保険者は 全人口よりも死亡率が高く、若年者ほど その差が大きいのでありました。

 「原因は?」と考えはじめると、結構 怖い話ではあります。


 ま、難しい話は置いといて、先ほどの1年満期の生命保険。

 この生保標準生命表で計算してみると どうなるのでしょう。

 年齢 

年間保険料
(200万あたり)

死亡率
(生保標準生命表)
 純保険料   還元率 
15 1944円 0.00052 1040円 53.5%
20 3192円 0.00114 2280円 71.4%
25 2640円 0.00086 1720円 65.2%
30 2592円 0.00084 1680円 64.8%
35 3000円 0.00105 2100円 70.0%
40 4032円 0.00156 3120円 77.4%
45 5928円 0.00251 5020円 84.7%
50 8496円 0.00376 7580円 89.2%
55 13536円 0.00630 12600円 93.1%

 その寺銭還元率はともかく、一応 まともな数字になりました。

 死亡率が低い階層で保険料が割高になるのはデリバティブの論理からも仕方がないんですが、若年層では「宝くじ」級・働き盛りでは「競輪」級の還元率って なんだかなー。

 やっぱり、偉そうなことを言っても 生命保険って博打なんじゃ・・・


 ココまで読んできて ハッとされた方もいらっしゃることでしょう。

 そう、ぢつは この保険なんて、まだまだ序の口
 社員の福利厚生という訳か? 料率がかなり低く設定されています。

 筆者は幸いにも この保険を使える立場なんですが、利用をあきらめてしまいました。
 だって、社員でなくなったら 即 契約解除ですからね。
 何時 放り出されてもおかしくないペケ労働者としては、生命保険まで会社に依存するのは 少しリスキーな感じがするんですよ。
 馘になった時点で 一般の保険に切り替えるのが合理的なんですが、その時に健康状態が良いとは限りません。

 無職の身空で純粋商業主義の割高な保険料を払えるとは思えないしなぁ。

どのくらい高いかって?

 博打基準で言うと、

「宝くじ」級なら まだ良い方
「外資の烏賊様デリバティブ」級は当たり前
中には「ポーカーゲーム機」クラスも?

 てな 所でしょうか。

 えっ、無職なら生命保険は必要ないだろって・・・


ここまで、特殊な条件下で保険の基礎を考えてきました。

が、世の中の生命保険は 多数年契約が一般的。
オマケに終身保険なんてモノまで存在します。

続編
「死神主催の合法カジノ・国内生保編」
近日公開
できるといいなぁ

次回は、ごくごく普通の生命保険を博徒の目から観察してみましょう。


警告
生命保険によるリスク管理は 生活を安定させる有力な手段です。
可能な限り低コストで 必要なヘッジを行ないましょう。
社会的な契約は全て自己責任です。

 

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