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双眼鏡用バランス架台を試してみる
快適な天頂観察のために

 前回は双眼鏡と三脚について考察したのですが、やはり直視型の双眼鏡での天頂付近の観察は苦労します。
 長い一脚を使えばかなり快適になるのですが、多人数での使用には適しません。

 海外のサイトを見ていると、ガスダンパーを使った自在架台が売られているようなのですが、日本では見かけない上に高価です。
 月刊天文ガイドの広告を見回しても、この手の商品はほとんど売られていません。

 かろうじて、誠報社の広告に それらしきバランス架台が掲載されていますが、身近に使用経験者は見当たりません。
 お値段からいうと さほど高くありませんし、ニコン18X70を使った観察が快適になるなら安いものです。
 丁度、期末決算の最中ですし、一台テスト用に購入してしまいました。

 果たして成果のほどは?

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    早速、購入してみました

 通販で注文してもいいのですが、広告には「ニコン双眼鏡には対応しておりません」との表示があります。
 中心軸に1/4インチネジを直接はめ込む構造になっているのでしょうが、それなら ちょっと工夫すればニコンにも適応できそうです。
 とりあえず、現物を見てから考えることにして、東京に出かけてみました。

 ショールームでは、このバランスマウントでミザールの20X80が架装されています。
 ニコン18X70もビノホルダーさえあれば 形はどうであれ 取り付けるだけはできそうです。(本当は適応外です)

 早速、購入し自宅に戻って 組み立ててみましょう。

 赤矢印の部分を 双眼鏡の三脚固定穴にねじ込むだけで、使うまでの準備はいたって簡単です。
 双眼鏡をつけた後に 錘の位置を調整してバランスが取れるようにすればいいだけです。
 中央の支点部分には テフロンシートが挟められていて動きはスムーズ、軽めの7X50でしたら 実用的な使用が可能でしょう。
 厳しく追及すれば 低高度での動きに制限があり 自由度が低いのは気になるのですが、この手の道具は天文用途限定なんですから高い高度がラクに使えればよいのでしょう。

 が、50mmでは問題なくても、双眼鏡を18X70に換えてみると、とたんに動きに支障が出てきます。
 重さ自体はバランスできますし、中心軸の動きは問題ないのですが、双眼鏡取り付け部分のボールジョイントを どんなに締め付けても1.8kgの双眼鏡を十分に固定できないのです。


問題のボールジョイント
このマウントでは一番大事な部品のはずなのに・・・

 ペンチを持ってきて思いっきり締め付けても、ちょと動かした拍子に双眼鏡が ずり落ちてしまいます。
 「フリーストップ」はおろか 固定すら出来ない状態になってしまいます。
 ニコン18X70IFは軽い双眼鏡ではありませんが、フジノンの70mmは2割近く重いのですし、一般的な80mm双眼鏡は2.5kgもあります。

 「重い双眼鏡にはこの製品は向いていないのではないか」との趣旨を書いたところ、読者の方から反論のメールをいただきました。
 御本人の承諾を得て、メールの一部を引用させていただきます。

HN「星見酒」様からのメール

 私も誠報社のバランスマウントを使用しています。
 ご指摘の ジョイント部分は強度が足りないのは事実だと思いますが、我が家ではミザールの20X80が問題なく使用できております。

 ミザールのように中心軸前端に直接取り付けるタイプでは、ボールジョイント部分が支点になって 双眼鏡自体がバランスして安定しているようです。
 ニコンのように中心軸を固定するビノホルダーでは、荷重がマウントの端にぶら下がる形になるので安定が悪くなるのでしょう。
 広告でも「ニコン不可」と明記されているようですし、製品を責めるのは筋違いかと思います。

 このマウントで双眼鏡が安定するか否かは、双眼鏡が三脚取り付け部分でバランスが取れているかにかかっているでしょう。
 この製品では 中心軸へのネジ固定部分と支点が 僅かに離れています。
 このことも 双眼鏡の安定にも悪い影響を与えているかもしれません。

 改造された後のように、市販の雲台+純正ホルダーを使えば メーカーの設計が配慮されていれば 必ず安定が取れるので 低高度では使い勝手が向上するでしょうが、天頂付近を見たときはビノホルダーの高さの分だけ双眼鏡が支点から離れるので安定性にはマイナスではないでしょうか。

 確かに、ボールジョイントの部分で双眼鏡がバランスされれば 問題ないのでしょう。
 適応外の双眼鏡をつけて利用するのも、まあ、間違っているのは百も承知です。
 が、ボールジョイント部の強度が足りないのは、1kgを超える双眼鏡をつけると使い勝手に悪い影響を与えているのは 間違いないでしょう。

 試しに、防水7X50を付けていても、双眼鏡の安定が悪く 双眼鏡の角度がぶれることがあります。
 双眼鏡のバランス自体の問題もあるのですが、ボールジョイントが双眼鏡の重心に一致しなければ完全なバランスは実現しないのですが、このマウントではボールジョイントから先がかなり長くなっています。
 このことが 普通の双眼鏡でもバランスを損なう原因になっているのではないでしょうか。
 私が購入した物の個体差かもしれませんが、1.5kgの双眼鏡では どうしても安定が厳しい印象でした。
 マウントとの支点と双眼鏡の重心を一致させるのは困難ですから、精度の高いボールマウントを使ってバランスを取りきれない範囲は摩擦で安定させる方がベターな気がします。

 また、ビノホルダーの問題ですが、確かに純正品を使っていても、自然にお辞儀をしてしまうような双眼鏡も存在します。
 ホルダーの高さも無視できないのですが、元から付いてきている部品も長さが5cm以上ありますから、重心が支点から離れてしまう点では大きな差がないと思っています。 事実、実用上は改造後も快適につかえますから。

 個人的な意見としては 「市販状態で使えるのは 防水7X50が ギリギリ」と変わりはありません。


 でも、どうしてこんな不甲斐ない結果になってしまうのでしょう。
 結論から言ってしまえば、直径2cmたらずのジョイントで2kgを越える物体をタイトに固定しようというのが無理なのでしょう。
 市販されている自由雲台を見ると、安物でも遥かに大きなボールが使われています。


バランスマウントに使われているボールジョイントと、ワゴンセールの自由雲台
安物の自由雲台のボールのほうが倍近い大きさがある

 上の写真にある自由雲台は叩き売りされていた正真正銘の安物ですが、ニコン70mmをがっちりと固定する力があります。

 また、自由雲台ではボールと押え金が広い面で接触するのに対して、このバランスマウントでは円周方向の細い線でしか接触していません。


左の押え金についた 擦れ跡に注目
ボールに接しているのは僅か1mm足らずの「線」でしかない

 これでは どんなに締め上げても 5cm以上離れたところにぶら下がる2kgの物体を静止させることは難しいでしょう。

 ううん、7X50には使えても 肝心の70mmが固定できないのでは こんなものを買った意味がありません。


    それなら改造してしまえ

 我が家の財政逼迫の折、こんな物をむざむざゴミにしてしまうことは許されません。
 どうにかして、使えるようにしなければ また 妻に虐められてしまいます。

 このマウントで 問題なのは 最後のボールジョイントの部分だけです。
 中心軸や 重りの固定は問題ないわけですから、この端っこの部分だけ どうにかすればいいんです。

 どこかに1/4Wねじを開けて 市販の自由雲台をつけてしまうのが 一番 手っ取り早い方法でしょう。
 本体は厚さ1cm弱のアルミ材ですから 安物ドリルでもどうにかなるでしょうが、数千円の出費は覚悟しなければなりますまい。

 とおもって見回していると、いい穴があいているではありませんか。

 ボールジョイントを締めるために5mmのJISネジが入っていた穴ですが、そのままでもタップが切りなおせそうです。
 本当は、直角ゲージを使わないといけないんですけど、力技でエイと螺子山を切ってしまいました。(もちろん注油はお忘れなく)

 やっつけ仕事の割には しっかりと山が切れたようです。
 取り付けてあるツマミ付の螺子は 最初から付いて来た物を流用しています。

 タップとハンドルは あわせて1000円くらいで手に入るはずです。(我が家にはドリルは無いのに タップセットはある。なぜ?)

 早速、自由雲台と双眼鏡を取り付けてみましょう。

 今度は しっかりと固定が可能になりましたし、フリーストップ性もまずまずです。
 これなら、改造前には見るのが大変だった地平線すれすれの低高度も ラクに導入可能です。

 本当はもっと精度の高い自由雲台を使えばいいのでしょうが、我が家に転がっている部品って安物ばかりですから。

 実際に外で使ってみたのですが、かなり安定していたと申し上げておきましょう。
 ニコン18X70で見てのとおり 重りがいっぱいいっぱいですが、中心軸をずらしたり 追加のウエイトを入れれば 2kgオーバーの双眼鏡でも どうにかなる??


    まとめ

 このバランスウエイトは 完成品としてみれば評価は厳しくなるのですが、改造のモトと思えば別な評価が出来るでしょう。
 もちろん、最初から強度のあるボールジョイントをつかってくれれば文句はないのですが。

 更に細かい改良点があるとすれば、支柱の短さでしょうか。
 もう少し長ければ 観察者が三脚の脚に気を使う必要がなくなるので 便利になるでしょう。
 まあ、そこまでいうなら自分で作ってしまうほうが簡単そうですけど。


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