このサイトを見ている方には当然かもしれませんが、真に機能的な双眼鏡は控えめな倍率で耐久性に優れたものでなければなりません。
仮に皆さんが双眼鏡を欲しいと思い、近くのお店に行ったとします。
そして欲しい製品を探そうとしても、そのような普通の双眼鏡が巷では少数派であることを思い知らされることでしょう。
多くの店に並べられているのは、60倍・100倍といった超高倍率の双眼鏡と、作りの良くない小型双眼鏡がほとんど。
それも、とても信じられないような定価から、これまた信じられないような割引率で売られています。
ディスカウントストアやスーパーだけでなく、一部の写真店でも見られる光景です。
また、まともな双眼鏡を扱う写真店でも小型双眼鏡はある程度品数があっても、中型以上の双眼鏡は極めて少ないはずです。
そして、こんなお店でも必ず超高倍率機や安物双眼鏡が 目玉商品として売られています。
このように私たちが欲しいと思う双眼鏡は実物を見る機会すら少なく、どんなに安くても願い下げな双眼鏡ばかりが安く売られています。
なぜ、こんなことになってしまったのでしょう。
今回は、双眼鏡の価格について考えて見ましょう。
双眼鏡の価格 定価と実売価格
もし、あなたが近くのお店で双眼鏡を買おうと思ったとしましょう。
ほとんどのお店では定価と並んで 多少割引された「売値」が書かれているはずです。
ニコンやペンタックスの小型双眼鏡であれば2割引から3割引。
大型双眼鏡であれば15%引から2割引というところが平均的な実売価格だと思います。
ブランドによっても違いますが 店頭にない品を注文しても カメラチェーン店では15%引から2割引の値段で購入できるはずです。
そのお店によっては付き合いのないメーカーもありますから、そのようなメーカーの製品は値引きが出せません。
ニコン・キャノン・ペンタ・ミノルタといったメーカーではまず問題ないでしょうが、フジノンなどでは値引き条件が厳しいことがあります。
双眼鏡の実売価格例 |
H&K アストロショップ http://astro.o-kini.or.jp/ 誠報社 http://www.seihosha.co.jp/ |
ところが、巷ではこのような値引き幅を大きく超えて、6割引から8割引で売られている双眼鏡も多く存在します。
15000円が「定価」と表示され、「80%OFF」などと書かれたあとに2980円で売られている双眼鏡などです。
この手の双眼鏡はほとんどが 聞かないブランドのロゴがつけられ、低倍率の製品は非常に安く売られています。
また、高倍率の双眼鏡も割引の目玉になる商品です。
某社の100倍ズーム双眼鏡は「脅威の高性能100倍双眼鏡 定価66000円」と歌われています。
その上、「7割引の大特価」として19800円で売られていたりします。
もっと酷い物になると「120倍双眼鏡 定価149000円」が8割引の29800円で通信販売されていたりするんです。
皆さんも見かけたことがあるでしょう。
何も知らなければ非常にお買い得な気分にさせられてしまいますが、よく観察してみてください。
何件かお店を回ってみると、ほとんどで同じような割引率で売られていることに気が付くでしょう。
どこでも非常に高い割引率で売られている商品の定価がどれだけ判断の基準になるものなのか疑わしいですよね。
一昔前の自動車タイヤなんかも同じような状態で いつでも8割引で売られていました。
しかし、今では公取委の指導でオープン価格になってしまいました。
タイヤの場合、定価がなくなっても品質が悪くなったり便乗値上げがあったという話は聞きません。
むしろ今まで不当な定価で売られていた自動車ディーラーでの売値が下がったりと消費者には有利な改正であったようです。
高い割引率を見込んで 最初から不当に高い「定価」を設定することは消費者を惑わすために行われている不公正な行為なんです。
双眼鏡の卸価格 一流ブランドの場合
では、双眼鏡の本来の価格はどのくらいが適正なのでしょうか。
物品の価格はコストと利潤から計算されますが、メーカー時点の原価は極秘事項とされています。
ここでは流通の末端、小売店の中での価格設定について考えてみましょう。
小売店は製品を卸業者を介して仕入れています。
双眼鏡はメーカー間の競争がある商品ですから、製造から卸の段階で法外な利潤を載せることは出来ません。
原価に流通諸費用と多少の利潤を載せたものが、小売店の仕入価格になります。
小売店は仕入価格に 自分の利潤を乗せて販売価格を設定しています。
一流メーカー(ニコン・キャノン・ペンタックス)の一般的な小売店の仕入価格は、定価の75%から65%に設定されています。
仕入価格は数量や条件によって変化しますから、メーカーによっては これよりも悪い条件で仕入れている小売店も存在します。
実例を幾つか見ていきましょう。
某社の天文関係では有名な双眼鏡は88000円と定価が設定されています。
私たちがこの双眼鏡を注文すると、普通は2割引の70000円前後で購入することになります。
この商品の一般的な卸価格は 定価の75%から70%の間であることがほとんどです。
つまり、小売店が定価の75%で仕入れたのであれば66000円は仕入値ですから小売店の利益は約4000円。
70%で仕入れた業者であれば61600円の仕入値で約8000円の利益となります。
これだけ高価な製品を売ったのに利益は販売価格の10%程度に過ぎないのが現実なんです。
これでは中型や大型の双眼鏡を店頭に並べられないのもうなずけませんか。
ところが、天文雑誌の広告などではこの双眼鏡が64800円で売られています。
この価格では75%で仕入れをした小売店は赤字になりますし、70%で仕入れた業者でも3000円程度の利益しか出ません。
販売価格の5%が利益では、普通の小売店は対抗できない価格でしょう。
このお店がどのような条件で仕入れを行っているのかは分かりませんが、一般とは条件が異なるのかもしれません。
ここで述べたのは一般的な例で、ミノルタ・ビクセン等の条件は分かりませんが中級以上の双眼鏡では同様の条件なものと思われます。
双眼鏡の卸価格 安売り双眼鏡の場合
次に、あるディスカウントストアの仕入れを見てみましょう。
このお店はK社の製品を中心に取り扱っています。
まず、定価が15000円の8倍ダハ双眼鏡。
8割引の2980円で売られています。
一流メーカーと同じ条件なら大赤字ですが、もちろんそんなことはありません。
この商品の一般的な仕入れ価格は、たったの2190円に過ぎません。
つまり、定価の8割引で売っても売値の3割近い粗利が上げられるのです。
さらに、前で述べた「高性能100倍双眼鏡 定価66000円」の仕入値は、14800円です。
7割引の19800円で売れば、5000円の粗利が見込めます。
なんと、N社の最高級双眼鏡を2割引で売るよりも利幅が大きいのです。
多くのお店でK社製の双眼鏡が並ぶ理由が見えてきませんか。
まとめに代えて
お店にとって、70000円の双眼鏡を買う客なんてそう滅多にいるものではありません。
一方、19800円の双眼鏡をいかにも良い商品のように偽れば、ある程度の販売を見込むことが出来ます。
商売人にとってどちらが優れた商品であるかは明らかです。
更に消費者の無知もこの傾向に拍車をかけています。
「高倍率=高性能」と思い込んでいる人は増えつづけていますし、一部のメーカーは意図的に洗脳を続けています。
定価を鵜呑みにする人もまだ多く、「割引率=割安感」との勘違いが蔓延しています。
定価なんてメーカーが勝手に決めているものですし、商品の性能を示すものではありません。
このような割引率のトリックに惑わされるのは わが国の消費社会の幼さを示しているように思われます。
もちろん、このような表示を行う会社は論外で、猛省を促したいものです。
皆さんも、このようなエセ高級双眼鏡をつかまないように気をつけてください。
また、本当に割安な双眼鏡の買い方については次の項で考えてみましょう。