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双眼鏡を分解してみる(3)
超安物ポロプリズム風(?)双眼鏡

 安売り店では1980円からプリズム双眼鏡が売られているのですが、3桁の製品となるとガリレオ式ばかりになってしまいます。
 ローエンド志向の筆者はネタを求めてホームセンターを探索していたところ、数千円の製品に混じって598円の双眼鏡が平積みにされていました。
 普通のオペラグラスかと思って見たら、「7x21 FIELD 6~」の表示があるではありませんか。
 ガリレオ式では この倍率・この視野は不可能、形からコンパクトタイプのポロ型双眼鏡のようです。

 実用性はともかく どんな見えなのか・どんな材料を使っているのかも興味があります。
 598円ならあまり懐も痛みませんし、早速購入・試してみました。

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    試す前に

 形はしっかりしているとはいえ所詮は598円の双眼鏡です。
 対物レンズはプラスチックのシングルレンズで、完璧なノーコート。

 今時はどんな安物でも 合せレンズに色つきコートされているので、ここまで原始的な作りだと研究材料としても価値がありそうです。
 「ノーコートレンズは自然のままの色彩が楽しめる」なんて某メーカーのサイトに記述があり、期待が高まります(?)。

 わくわく(?)しながら覗いてみると、左右の光軸が全くあっていません。
 街灯が見事に2重になっています。
 購入店に連絡したところ、代替品を送るとのこと。
 不良品はこちらで始末することとなりました。

 もっとも、片目で見ても盛大なフレア+ゴースト+色のにじみで、にぎやかな視野です。
 「同価格のガリレオ式より使い心地は悪そうだな」というのが初めの印象でした。

 交換の品が送られてきて現品を返送する必要がないのですから、早速 解体されることとなりました。


    外観をチェック

 パッと見た形はコンパクト双眼鏡のようですが、質感はゼロ。
 玩具のガリレオ双眼鏡よりは上 といったところでしょうか。

 一応、「カピター」というブランドが与えられているようです。

 対物レンズはもちろん、接眼レンズもプラスチック製のレンズです。

 光学的な洗練は微塵も感じられない潔さです。

 すぐ見えるネジが何本もありますから、分解は簡単そうだったのですが・・・


    接眼レンズを外す

 ネジが見えるところにあるのですから、それから外していくことにしましょう。

   

 カバーを外すとプリズムらしきものが見えてきました。

 が よく見ると、中に入っているのはプリズムではありません。

 上の写真では分かりにくいのですが、プリズムの代わりに鏡が貼られています。
 分かりやすいように、プリズム風の部品を取り出してみましょう。

 普通の双眼鏡と同じく接着剤で仮止めされ、板金で固定されています。
 止金を外すと、あれ。
 あっけなく部品が外れてしまいました。
 接着剤は全く効いていません。
 この様では光軸がずれてしまうはずです。

 洗面所にでも使われていそうな 裏面鍍金の鏡が2枚張り合わされプリズムの代わりをしています。
 天体望遠鏡の天頂ミラーに使われているような表面鍍金の素材ではありません。
 鏡の表面には接着剤がはみ出しているのみならず、中心部でも汚れが目立っています。

 プリズム風部品を調べてみると、鏡を張り合わせて作られています。
 鏡自体はしっかりとはめ込まれていて、角度はきちんと直角になっているようです。

 それにしてもこの鏡の汚れは何とかならいものでしょうか。
 部品の質は仕方がないにしても、このような製造管理の欠如は唖然とさせられます。
 この汚れだけで視野を妨げているでしょうに。


    鏡筒を分解する

 ここまでは簡単に分解できましたが、対物レンズやもう一方のプリズムにはアプローチできません。
 外せそうなのは黒い本体に貼り付けられている青いカバーだけです。

 この間は接着剤でしっかり固定されています。
 ドライバーをねじ込んで無理やりはがしてしまいましょう。
 力技は筆者の十八番です。

 プリズムと違って、カバーは強力に接着されています。
 光軸合せの調節ネジは本体とカバーの間に隠れてしまいますから、修理はもちろん完成後に光軸を調整することは不可能です。

 製造の手順を考えると、プリズム・対物レンズを組んだ後に接眼部分をネジ止め。
 光軸を調整した後にカバーの接着を行っているのでしょう。
 使い捨ての商品と割り切って、見かけの良さを優先しているようです。

 これでようやく対物レンズ側も丸見えになりました。

 こちら側の反射ユニットもプリズムではなく、先ほどと全く同じ鏡の部品が使われています。
 反対側のカバーも外さなければ対物レンズは外せないようです。
 もう一度力任せに引っぺがしてみましょう。

 ようやく、丸裸になりました。
 ここまで要した時間のほとんどがカバーを剥ぎ取る作業に費やされています。

 よく見ると対物レンズセルはプラスチックを溶着して固定されていて、ここも真っ当な分解は出来ません。
 ペンチで破壊してしまいましょう。

 対物レンズはセルに接着されていて、普通では取り出せそうにありません。
 極限まで製作コストが抑えられているんですね。


    接眼鏡を分解する

 さて、一番興味のあるアイピースの分解です。
 視度調整のない右側は 部品がすべて接着されていて分解の余地はありません。

 とりあえず、左側だけ分解してみましょう。
 見えているネジを外せば、最外面のレンズがセルごとはずれてきます。

 レンズはぞれぞれ1枚ずつで2群2枚の構成です。
 レンズはしっかりと接着されており、セルを破壊しないと取り出せそうにありません。
 再利用のつもりはないので 分解はこのくらいにしてどのようなレンズが使われているか調べてみましょう。

  

 外側のレンズは 接眼面は平面・裏が凸面のレンズが使われています。
 当然、コーティングはありません。

   

 対して、内側のレンズは対物側が平面で、接眼側が凸面になっています。
 2枚のレンズの2面を平面にすることで、製造コストを切り詰めています。

 この凸面を2枚向き合わせたアイピースって、今は安売り天体望遠鏡でも見かけないハイゲンス(H)式のアイピースと同じ設計です。
 見掛視界が42度という狭さはこのアイピースの製だったんですね。
 まあ、ここだけMH式にしてもあまり変化はないでしょうが。


    まとめにかえて

 ここまでの値段で売るために、主要な部品はすべて接着で組み立てられ、レンズも効率重視の構成です。
 安くするためにプリズムまで鏡にされていたのには驚かされます。

 とやかく言う双眼鏡ではないのですが、鏡にべったり汚れがついたまま組み立てられているのはいかがなものでしょう。
 これなら中国製の1980円望遠鏡のほうが値段以上に良く出来ているという結論になりそうです。

 生産コストをどうやれば削れるかという お手本のような双眼鏡でした。

 さて、光軸不良から交換された双眼鏡が到着したのですが、こいつのテストはまた後日。

 


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