御影寺殺人事件
序章 一人の刑事
普段は人通りの少ない土手の脇。そこに数十人の人間が集まっていた。その人間たちに囲まれるように一人の女性が寸分の動きも見せず、うつ伏せに横たわっていた。
その女性の横顔は青白く、周囲の土砂は彼女の後頭部から流れ出た赤い血で真っ赤に染められていた。素人が見ても分かる体だった。
「鷲島さん。被害者の死因はやはり後頭部に頭蓋骨陥没。即死でしょう。」
一人の刑事が上司に向かって検死の報告を告げる。鷲島は死体の横で粉々に砕かれた石を
「」
「ふーん。これはどう考えても強盗だな・・・。」
「こんな所だとは思わなかった。」
大きな門を目の前にして、男は思わず本音をもらした。
「ごめんなさいね。無理して着いて来てもらっちゃって・・・」
女が答える。吹き付ける風が彼女の髪をゆらした。駅からバスで2時間、歩いて3時間の長旅を少しも感じさせない表情だ。
「別に謝ることはないよ。ただ、すごい山奥の別荘だな、と思って。」
そこまで言って男は「悪いことを言ったかな?」と思った。この別荘は彼女の父親の別荘である。
しかも、その父親は2年前に死去してしまった。自殺だったらしい。
その父親への中傷とも受け取ることが出来る言葉を言ってしまったのだ。
だが、彼女は少しも気に留める様子を見せなかった。
「亡くなったお父様は静かなところが好きで・・・。だから、こんな人里離れた所に 別荘を作ったの。」
「ふぅん・・・」
二人の会話のやり取りを見ていた別の男が、後ろから水を差した。
「シグルドさん・・・もう歩けませんよ・・・早く中に入りましょうよ。」
シグルドと呼ばれた男は素直に反応する。
「んっ・・・あぁ、そうだな。わかったよアレク。でも、これくらいで音を上げるとは情 けないな・・・」
シグルドと話していた女はクスリと笑うと別荘の門を開けた。
−−−こうして運命の扉は開かれた。それがやがて恐ろしい出来事の前ぶれとなることも、この時は誰一人として知る由も無かったのである。
序章 終わり