独断的漫画批評の部屋
心理捜査官 草薙葵
構成 中丸謙一郎
ストーリー 岐澄森
漫画 月島薫
週刊少年ジャンプ平成8年33号〜平成9年5・6号にて連載
週刊少年ジャンプ平成7年35号で読みきり
(ただし、読みきり時のタイトルは、心理捜査官三島清人)
全3巻
(補足)平成8年46号〜48号は単行本未収録
入手難易度:☆☆
こんなに面白い漫画が何故こんなに短くなったんだ!?
と、思わずにはいられない作品です。
もともと、第2回黄金の女神像争奪ジャンプ新人海賊杯という、ジャンプ本誌で行われたコンテストの4作品中第2位ということで、連載が始まった漫画です。
ちなみに、第3位までの作品が連載されましたが、1位はコミックス全2巻、3位はコミックス全1巻で、この作品が一番ヒットしました。でも、そう考えると、このコンテスト自体が失敗だったのでしょうか・・・?
もう一つ付け加えておけば、新人海賊杯はこれで終わってしまいました。
と、まあ、隠された背景はさておき、
簡単にこの漫画の解説を入れると、
当時、何かと話題のあったプロファイリングを扱う、主人公・草薙葵(男)が、数々の猟奇殺人を解決していくという物語です。
コミック全3巻のうち、取り扱われた事件は5つ。ジャンプ本誌で連載された事件は3つ(※)、本誌での読みきりが1つとコミック用の書き下ろしが1つ。(読みきりは、前述した新人杯の作品で、主人公は三島清人という名前で別人ですが、見た目は全くもって草薙葵です。アナザーストーリーということで )
どうも、時代的に、他誌での探偵ものの漫画に対抗して始まったという感がありますが、これはそれらとは相当違った作りになってます。
というのも、読者に推理させようというよりは、犯罪心理捜査官としての草薙葵の活躍を魅せる・・・という傾向があるからです。
でも、やっぱり、他誌(というか、もろに週刊少年マガジン)の影響もあったのでしょう、連載初期では、読者に犯人が扱ったトリックを推理させるコーナーがありました。推理が当たった人には抽選でテレホンカードか何かがもらえたような気がします。テレホンカードだったら、ミもフタもなく、マガジンのパクリになってしまうんでしょうけど。
でも、そのコーナーは最初にして最後のコーナーで、それ1回きりでした。その後は、読者に問い掛ける形式はなくなってしまいました。
読者の反応が思った以上に冷めていたのか、作者サイドで、こういった形式を作るのが大変だったのか、本当のところは、わかりませんが・・・。
で、肝心の内容についてです。
全ての事件は、ちょっと、精神的に病んでいながら、外面は真面目そうなヤツが犯人です。
しかも、大抵は、ちょっと異常な殺人を犯します。はらわたをえぐるヤツや、赤い衣装の女ばかりを襲うヤツなど・・・。なんか、マガジンでも、異常な殺人犯ばかりを扱った漫画があったような気がするけど、きっと気のせいでしょう。
また、さりげなく、「幕張」の作者っぽい人が散歩の途中で殺されてたりするんですけど、これも目の錯覚。
一方、主人公の草薙葵は、警視庁の捜査11課に勤務するプロファイリングの使い手です。プロファイリングとは、犯人の心理状態や、現場のわずかな証拠から犯人を割り出すという極めて推理力を要求される捜査方法です。
ストーリーは、一人の新米女刑事がその草薙葵のいる警視庁のプロファイリング課に配属されるところから始まります。その女刑事は、死体も見た事のないような新米ですが、ゆくゆく、草薙葵の助手へと成長していきます。
しかし、そもそも、プロファイリングは、心理学や犯罪学をそれなりに勉強していなくてはできない、難しい捜査方法。草薙葵ですら、アメリカの大学で勉強しているくらいなのに、そんな新米刑事が配属されるなんて・・・。とお思いの方も大勢いらっしゃるとは思いますが、やはり、ストーリーを進めていく上で、あまり物事を良く知らないで、トラブルに巻き込まれやすいキャラクターは必要不可欠なのでしょう。なんのためらいもなく、ストーリーは展開します。しかも、パートナーが女性なら、ヒロインの位置付けにもなって、一石二鳥。
やはり、キャラクターも、漫画の都合には勝てないってことですか。
でも、相棒が彼女だから犯人を捕まえることの出来た事件もあるので、彼女の存在はかなり大きいと思います。一つの石で、四羽くらい落とせてます。
また、草薙葵という人物、「ククク・・・」と笑うところからして、かなり、いやらしい性格の持ち主です。そんな性格から、人をなめた態度ばかり取る草薙葵ですが、事件になると、途端に切れ者になります。
毎回のパターンとしては、
奇妙な殺人事件が起こる→ 草薙葵たちの捜査開始→ 犯人に振りまわされる→ 真犯人を見つけ出す (大抵犯人は決定的証拠を見せていない)→ 草薙葵が犯人と問答をして、犯人が出すボロを見つけ出す
といった感じです。
この中で、見所といえば、やはり、事件のたびに見せる草薙葵と、犯人の会話のやり取りでしょう。これが実にスリリング。
だいたい、会話の中に草薙葵が散りばめたワナが仕掛けてあって、
「ククク・・・ あんた、今、****と言ったな。****を知っているのは、犯人だけだぜ! あんたが犯人だ!」
と言った感じで犯人を追い詰めます。また、この喋り方が、草薙葵のおどけていながら、いやらしい性格のキャラクターにあってるんですよ、これが。
しかも、その質問のやり取りの方法に「誘導旋回法」などと、特命リサーチ200Xで出てきそうな用語がついてるところもまた、妙に説得力があっていいです。
草薙葵の隠された過去や、相棒の女刑事の過去など、練りこまれた舞台背景もありましたが、連載打ちきりの可能性もあってか、2番目の事件くらいで全て紹介してしまうほどの急展開になってしまいました。ちょっともったいない気がします。
プロファイリングって、今でも充分通用する内容なのになあ。
最近でも、中森明菜が主演していたドラマ・犯罪心理捜査ボーダーなんかで、扱っているくらいですから・・・。
ホントにもったいないです。連載していたときに、何か大きな事件が、プロファイリングで解き明かされてたりしてたら、プロファイリングに対する注目度もあがって、長期連載になってただろうに。2年もすれば、きっと、アニメ化されてたよ。あ、どちらかといえば、ドラマ化向きかな。
とにかく、早過ぎる命でした。みなさんも買って読んでみてください。
特に、3巻なんか、読みきりと書き下ろしがついて、かなりお得。書下ろしだって、全然手を抜いてないから出来も良いですよ。さあ、いますぐ、本屋へGO!
2001.4.22 補足
なんと、この「心理捜査官 草薙葵」には単行本未収録分の話があります。
平成8年46号・47号・48号の3号に渡って書かれたProfile3。
単行本第2巻に収録されるはずでしたが、残念ながら収録されていませんでした。(第3巻の書き下ろしはこの影響だと思われます。)
一家三人を少年が惨殺したという事件の真相を暴いていくストーリーです。
草薙葵とヒロインの父親の関係などが明らかになったりする部分もあったのですが、単行本には収録されませんでした。
推測すれば、「当時の事件に、この事件に似た事件があった」とか、「少年が惨殺するストーリーが好ましくない」とか、社会的な部分が影響していたかと思われます。 が、真実は永遠に謎となってしまいました。
ま、これが作者の最後のクイズということで。