最後の花火
−前−
夏の間に一度は集まろうという計画は出ていたのだが、社会人に夏休みはない。数回の延期の結果、やっと皆の予定が合ったのは9月に入ってからだった。 幽助と温子の家に、桑原が呼び集めた宴会好きのいつもの面々が集まってきた。 土曜の夜なので皆の飲む量も半端ではない。呼び集めた桑原は最初ホスト役に徹していたが、酒が入ってくるにつれて仕事そっちのけで飲みに専念し始め、早々と潰れてしまった。 寝息しか聞こえない静かな部屋の中、蔵馬はひとり、目を覚ました。 すると、カラカラとゆっくりベランダの窓が開いた。 「何してんだい、こんな夜中にひとりで」 「ちょっと酔い覚ましです。ぼたんこそ、起きてたんですね」 「ん…中は暑いからねぇ。クーラーもつけないで寝ちゃったしね」 ぼたんは蔵馬の横に並んで、ベランダから見える道路に視線を落とした。 「だーれも通んないね」 「こんな時間ですからね、住宅地ですし」 「夏の夜がこんなに気持ちいいことも、だれも知らないのかねぇ」 勿体ないやね、と言ってぼたんは笑った。 「霊界は季節なんてないから、あたしは人間界に来て初めて、身も凍えるような冬とか、暑くてたまらない夏を知ったんだ」 「でも、いいことばかりではないですよ?」 「そりゃま、そうさね。過ごし辛いなぁって思う時はあるよ」 でも、とぼたんは続けた。 「いつ来ても同じ季節が無いじゃないか。飽きないから、あたしはこっちがいいなぁ」 ぼたんらしい考え方に、蔵馬も笑って応えた。 「俺も、そう思いますよ」 「やっぱりそう思うかい?それにさ、…」 途端、ぼたんは黙り込んだ、そして、ハクション!とくしゃみをひとつ、した。 「…ひどい!笑う事ないじゃないのさ!」 「ごめんごめん。でも風邪引くから、もう部屋に入った方がいいですよ。助手に風邪を引かせたとなると、俺がコエンマに怒られます」 「そだね。明日も仕事だ!それじゃお先に…」 オヤスミ、と言ってぼたんは、部屋の中に入って行った。 「いつまでそうやって居るんですか?」 と声をかけた。 「最初から居るなら、何故素直に宴会に加わらないんですか」 「俺が加わると思うか?」 「思いませんけど、毎回のことだから、つい言ってしまうんですよ。外に出しておいた雪菜ちゃんお手製のチキンピラフ、美味しかったでしょ?」 「……まぁまぁだな」 蔵馬はしょうがないな、という感じで飛影を見遣った。もちろん、皿に盛ったピラフは跡形もなく食べ尽くされていた。 「雪菜ちゃん、静流さんに教わってまた料理の腕を上げましたね。結構凝った料理も作っているみたいです」 「…そうか」 「飛影が来ないと判って残念そうにしていましたよ」 飛影は何も応えずに、ベランダから見える遠くのネオンを見ていた。 「ちょっと待っていてくださいね」 と部屋の中に引っ込んだ。 |