バーバラ 〜旅立ち〜
創世神マルダーが創りし世界、マルディアス。 そしてここは、北はノースポイントから西はウエストエンドまで続く一本の道、ニューロード。 さまざまなモノを求めて、多くの人々が行き来する道。 商人・軍隊・冒険家・・・・その中に、この道を北から南、東から西へと旅して暮らしている旅芸人の一行がいた。 そして、この一行が華と誇る踊り子・・・それがバーバラだ。 彼らは旅を続け、フロンティアと呼ばれる未開拓地の町・・・ニューロードの西の果て、ウエストエンドへと辿り着いていた。 バーバラは、パブの古びた扉に手をかけた。 ぎぃときしんだ音と射し込む光に、ざわめきに溢れていた店内が一瞬静まる。 まだ日の高い時分だ・・・それほど混み合っているわけではない。 それでも、2・3人集まってジョッキを傾ける男達が数組。カウンターにも数人。 肉体労働の多いここフロンティアでは、それも当たり前の光景だった。 強い日差しの中で男達は汗を流し、休憩には麦酒をあおる。 値踏みするように突き刺さる視線に、バーバラは微笑を浮かべた。 馬車を降りて早速動き出した自分に、座長が呆れたように言ったのを思い出す。 『まだ着いたばかりだろう?ゆっくりすりゃいいのに。こんな時間にパブなんて行っても、こっちが金を払うだけで儲けになりゃしない』 『様子見だよ・・・それに、長いこと馬車に揺られて踊りたい気分なんだ』 そして、そこに人がいてあたしが踊れば、彼らはその対価を支払わずにはいられないのだ。 見るがいい。 この身体も、この顔も、あたしの仕事の道具。 日々繰り返す研鑽の果実だから。 ただ、踊りたい魂だけは誰にも譲れないあたしだけのもの。 だから見て欲しい・・・あたしの魂が動かすあたしの踊りを。 さあどうやって踊ろう。バーバラは周囲を見渡しながらゆっくりと奥へと進んでいった。 しかし、数歩と行かず足を止め、小さく眉をしかめる。 『・・・・なに、これ?』 無数の視線の中に、何の感情も持たないクリアな視線を感じて、思わずバーバラはその視線の持ち主を探した。 ふいに、カウンターに一人腰掛ける男が目に入る。 その瞬間、自分を真っ直ぐに見つめる男の目に、バーバラは凍り付いたように動けなくなった。 フロンティアには似つかわしくないすらりとした体躯に白い肌、思わず目を見張るような長い金髪に整った美しい顔。 バーバラが息を呑んだのはしかし、その男の目立つ容貌のせいではない。 人が人を見るときに混じる感情を一切排した、その透明な眼のせいだ。 『いったいこいつ、何者だい?』 ぞくりと悪寒が背筋を走った。 その時だった。 凍り付いた時を溶かすように、男は輝くような微笑みを浮かべ立ち上がる。 一気に脱力しながらも未だ動けずにいるバーバラに、男は躊躇いもなく近づいてきた。 「ねえさん、踊り子だろう?一つ踊ってみせちゃくれないか?」 軽い口調で話しかけてくる男に、バーバラは思わず目を見開いた。 この男がそんなことを言い出すとは思いも寄らなかった。 まるで彫像のように整った容姿をしているくせに、出てくる声は甘く柔らかいテノールだ。 「あんた、何者だい?」 真っ直ぐに男の目を見つめそう言うと、男はふわりと微笑んだ。 「私は詩人ですよ。」 なるほど、言われてみれば男はギタールを持ち、それらしい装いをしている。 詩人だと言うならば、このような未開の地に彼のような優男がふらついているのにも納得がいった。 だけど、それだけじゃない。この男はもっと何かを隠している。 生来の好奇心がむくむくと頭をもたげてきて、バーバラは挑発的な笑みを浮かべ言った。 「あんたが弾いてくれるなら、いいよ。詩人さん」 あたしについてこれるなら、踊ってあげる。 「もちろんです。・・・・曲は?」 バーバラの強い視線になど気付かぬように、詩人は穏やかに笑って言った。 「・・・・『荒野に咲く薔薇』」 そのアルカイックスマイルの下にある何かを、引き出して見せる。 あたしは、大きく足を開き床を踏みしめると、ゆっくりと顔の前に腕を上げ、静止した。 弦が最初の音を響かせる。 『良い腕だ・・・』 そう思ったのは一瞬。 次の瞬間、あたしの中から思考は消えた。 波立つような音の連続に、体中の細胞が血液がふつふつと動き出す。 まだ・・・まだだ。 まだ、動かない。 体の奥底から沸き上がってくる熱を、足に、腕に、指先に、今は溜め込む。 今や小さなパブの中で言葉を発するものは誰もおらず、ぴくりとも動かずにただ静止しているバーバラから 誰もが視線を外せずにいた。 華やかにかき鳴らされる弦の音と同時に、腕が大きくしなった。 静から動。 ギタールの爪弾きに合わせて、ゆっくりと床で靴音を鳴らす。 決して派手ではないが、圧倒的な存在感のある動きに人々は魅了されていた。 内から溢れる熱を封じ込めたような、その迫力。 『あたしを見て』 持ち上げた肩から腕、手首への線に目を奪われ、その先でひらひらと蝶のように舞う指先に心を奪われる。 柔らかくしなった身体がくるりくるりと軽々回転して、息を呑む。 『この踊る姿を・・・魂そのものを』 決して媚びることのない凛とした笑みを彩るように、ギタールが激しくかき鳴らされる。 そして、最後の音とともに足を踏み鳴らし手をかざした瞬間。 誰もが言葉を失って、その艶やかな姿に息を詰めて見入った。 大きく鳴らされる拍手の音で、バーバラは一気に元の世界へと引き戻された。 心地よい疲労感が全身を包む。 満足げに微笑んで、周囲を見渡した。 熱に浮かされたように手を叩く者、口笛を吹いて囃す者、酒を追加する者・・・全ての人が興奮し、熱気に包まれ、自分に賞賛の目を向けている。 最後に、ギタールを持つ詩人に目を向けた。 彼はやはり、穏やかに微笑んでいる。 だが、そこに確かに感嘆と賞賛の光を見つけ、バーバラは笑みを深くした。 そんな彼女に、詩人は突然、明るい笑顔を浮かべてみせた。 「いやー素晴らしい。私の感動をあなたに伝えたいのですが、今、持ち合わせがなくて。」 軽く手を叩きながら、バーバラの元へ歩いてくる。 『気に入らないねぇ・・・・』 そう心の中で呟いたのは、報酬がもらえないからではない。 いつの間にか詩人の瞳から感情の色が抜け、透明なものに戻っていたからだ。 しかし、詩人が次にとった行動に、バーバラは不快感も忘れて目を見張った。 「代わりに、このアメジストの首飾りを・・・」 詩人が懐から取り出したのは、一目で値の張るものとわかる大きなアメジストだったのだ。 それもこの世にひとつとないような不思議な輝きを湛えた。 「どうぞ」 それを、まるでなんでもないものように詩人はバーバラの手の上に置いた。 間近で見る神秘的な光に、思わず魅入られそうになる。 これはただの綺麗な首飾りじゃない。 「いいのかい?こんなものもらっちゃって?」 明るく言いながら、バーバラは詩人をまじまじと見つめた。 これの価値をわからない男ではないだろう。 一体どういうつもりで、自分にこれをただで渡すなど酔狂なことをするのか。 「いやぁ、こちらもその方が都合が・・・・いや、なんでもありません」 ・・・・今、何を言おうとした、あんた? 「・・・・・・・・。」 考え込むのも馬鹿らしい。 急におかしさが込み上げてきて、バーバラはふふっと声を出して笑った。 「じゃあ、ありがたく頂いておくよ」 そう言って、首飾りをつけると、それはずっと前からそこにあったようにしっくりと身になじんだ。 「ああ、やはり・・・よく似合いますね」 囁くような優しい声に驚いて、バーバラは首飾りに落としていた視線を目の前の詩人へと向けた。 「あんた・・・」 一体、何者?・・・・もう一度問おうとした声は口の中で消えた。 きっと彼は「詩人です」としか答えないだろう。 ではなぜ、この人は自分をこんな目で見るのだ? 親の顔も知らない自分が決して向けられることのなかった感情。 それは・・・『慈愛』としか言いようのない温かい光が、詩人の瞳には湛えられていた。 バーバラがもう一度口を開こうとしたその時、詩人はそれを制するように笑みを浮かべた。 「では、私はこれで」 そしてそのまま、振り返ることもせず扉を開け、彼は光の中へと歩き出していく。 その様子を黙って見送ると、バーバラは小さく肩をすくめた。 「ずいぶんと忙しい人ねぇ」 こんな大層なものをぽんと渡して、あんな目で見つめておいて、さっさと立ち去るなんて・・・・。 「いったい、どういうつもりなんだか」 呟いて、詩人の残した首飾りをそっと手に取った。 やはり、その美しさはただの石とは思えない。 「こいつは、いわくつきのものかもね・・・」 それもまぁ、面白い。 バーバラは咲き誇るような笑顔を浮かべた。 誰がどんな思惑を持っていようと、この石にどんな秘密があろうと、あたしがあたしであることを誰も動かすことはできやしない。 だからあたしは、ただ生きたいように生き、踊るだけ。 ただ、あの男には・・・あの胡散臭い詩人にはまたどこかで会う気がした。 その時には、この紫の石にまつわる物語を聞いてみよう。 バーバラはそう心に決めると、どこか晴れやかな気持ちでパブの扉を開けた。 このときのあたしは、まだ知らなかった。 この石が、『運命の石』・・・ディスティニーストーンと呼ばれるものであるということも。 あの詩人があたしに声を掛けたその時すでに、 大きな運命の渦の中に呑み込まれてしまっていたのだということも。 <了> 詩人×バーバラ姐さん風味のオープニング紹介。 台詞はそのままのものに少し加えてあるだけなんですが、人物がかなり捏造・・・。 詩人さんはもっと陽気な人です〜! この時のバーバラは、詩人さんが「〜だぎゃ」とゲッコ族(トカゲ)訛りで熱弁をふるうとは思いも寄らなかったことでしょう・・・(笑) |
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