■夜のピクニック
またそれかい。貧困な語彙ですいません。自分でも悲しくなりますよ。 テンションと勢いで少しでもこの良さが伝わればっ!! ・・・苦労しないんですがね。 さてさて、久々の恩田陸さん作品です。 最近、『夏の名残の薔薇』を読もうとして挫折しました。無念。 しかしこちらは、数ページ読んだだけですぅっと物語に引き込まれてしまう吸引力がありました。
みんなで、夜歩く。たったそれだけの話なのに・・・ いったいなんだって、こんなに面白いの!? 思わず作中人物の言葉を借りてそう言いたくなってしまいます。 高校生が主人公ということで、『六番目の小夜子』『ネバーランド』『麦の海に沈む果実』のような、情景や繊細な心情の変化が伝わってくるジュヴナイル系。 ただし、上述の作品のようなホラー・ミステリ要素はほとんどありません。小さな謎が上手く散りばめられているのは、恩田さんらしいなぁとは思いますが。 それよりも正に「青春まっただ中!!」でしたね。 ただただ丁寧に描かれる心理描写に、なんということのないところでもじわっと胸が熱くなって困りました。 例えば・・・みんながわぁっと盛り上がっている時に、唐突に「私は一人なんだ」とどうしようもない孤独を感じて泣きたくなるような気持ち。 こんなこと自分だけが考えているんじゃないか、こんなこと言ったら笑い飛ばされそう・・・そんな青春時代だからこその繊細な思いがリアルに蘇りました。 いくつになっても昔に引き戻されてしまうなんとも言えないノスタルジーを描かせると、やはり恩田陸に優るものなし。 恩田陸がお好きな方はぜひ!(って、もう読んでるか・・・笑) ホラー・ミステリが駄目で手出しできなかった人にもオススメ。 社会人で学生時代に引き戻されるもよし。中高生でリアルに自分の感情を投影させるのもよし。やはり受験前の高校生の方に一番おすすめしたいですね。お勉強の息抜きに精神をリフレッシュ! 以下、ちょっぴり内容に触れた感想。 ・ ・ ・ 話の主軸になるのは、融と貴子という『同じ学年の異母きょうだい』。 これはすぐにわかるのでネタバレというほどのことではないと思います。 つまり、融の父親の浮気相手の子が貴子。父親はすでに故人となっています。 融が貴子に、貴子が融に抱く複雑な憎しみと罪悪感・・・そして『近づきたい』という思い。 「このまま卒業すれば、二度と話すこともないだろう」 向けられる刺すような視線を感じながら、貴子は『歩行祭』である小さな賭けをする。 この二人の関係を主軸にしながら、融の親友・忍、貴子の親友・美和子を中心とした友人達が丁寧に描写されています。 恋愛も絡んできますが、まさに「青春小説」という爽やかさ。 融に忍・貴子に美和子がとても『賢く・美しい』高校生です。 進学校とはいえ、ここまで出来た高校生っているのかしら?とは思いますが、それでいてリアリティがないかというとそんなことはない。 こうあって欲しい、こうありたかったという理想的な姿。 けれど、その感情は自分にも確かにあったものとしてすとんと心の中に落ちてくる。 また、『ただ歩く』イベントがまるで自分も歩いているように感じるほどリアルに伝わってくるので、そこへの一体感が登場人物への感情移入を高めている気がします。 貴子のもう一人の親友・杏奈も、回想と手紙の中にしないのですがかなりのキーパーソンで存在感は大きかったです。 『謎』の部分を負うミステリアスな存在でした。 歩行祭にいつの間にか参加していた謎の少年の存在も然り。 お話としてどこが面白かったかと言われると非常〜に難しいんですが、登場人物達に思い切り感情移入して、最後は自分も歩ききってゴールしたような清々しさがありました。歩いている景色まで見えそうだった。 *** 余談ですが、実は私も大学に同じようなイベントがありました。 80kmではなく、まる2日かけて100km以上を歩くという。 大学生なので自由参加ですが。 私は体力的にも自信がなく、精神論的なところにもちょっと反発を感じて参加しなかったのですが、サークルの大半の人が参加してました。 今思うと、誰かと常に隣合って話し、励まし合い、濃密な時間を過ごすというのが怖かったのだと思います。たぶんなにより、それが我慢できなかった。 謎の少年チックに、差し入れしながらちょっと歩いたり、最後のゴールだけ見に行ったりはしましたが・・・とても入り込めない一体感が確かにありましたね。 最後はみんなで肩を組み、校歌を歌いながらゴールするんですよ。 寂しさを感じながらも、私にはできないと思ったことを憶えています。 読みながら、その時のことを思い出し・・・「できない、怖い」じゃなくてチャレンジしてみれば良かったなぁとちょっと思います。 『もっとちゃんと高校生すれば良かったな』 そんな言葉が胸に突き刺さりました。 「もっと・・・しておけば」はいつになっても思うこと。 今やっていることを、そう思い出さないで済むようにがんばりたいな。 そんな気持ちに素直になれる一冊でした。 2005.xx.xx 記 | ||
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