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■ひまわりの祝祭

ひまわりの祝祭
著者 藤原 伊織 / 出版社 講談社


<あらすじ>

妻が自殺して7年の間、『つるつるのプラスチックみたいな平板な生活』を送り続ける男、秋山秋二。
かつて男は、天才と称される高校生画家・そしてその後は新進のアートディレクターだった。
だが、現在の男は非生産的で無為な生活を送り、毎日甘い菓子パンと温めた牛乳を飲んで暮らしている。
そんな、男にとって『静かで平穏な日々』は、一人の来訪者によって崩壊した。
元上司で恩人、数少ない親密な関係のあった人物・村林は秋山に頼む。
「カネを捨てるんだ。それで、手を借りにきた。」
そして連れていかれたカジノで、秋山は死んだ妻・英子に瓜二つの女に出会った。

その日から、秋山の周囲は突然騒がしくなる。
家へ押しかけてくる、英子にそっくりな女・麻里。
『我々が貴兄の記憶に関心を持つことをお許し下さい』・・・意味深なメッセージを寄越すカジノのマネージャー。
暴力的な手段で何かを探ろうとするヤクザ達。

彼らは一体何を探しているのか?
浮かび上がったキーワードは『ゴッホのひまわり』
そしてそのキーワードには、妻の自殺した原因が絡んでいる。

周囲に巻き込まれる中、男は次第に自ら動きだす。
そして、ひとつの賭けにでるのだった。
自分のために。そして何より、逝った妻のために。


<感想> ネタバレが入ると思いますのでご注意。

『テロリストのパラソル』で直木賞と乱歩賞をW受賞した藤原伊織の受賞後第一作。
かなり昔の作品ですが面白さが褪せるわけではなく、当時の時代性の現れた粋な会話には思わずにやりとさせられます。
とにかく、会話がテンポ良く洒脱で面白い。
実際こんなやりとり、そうとう頭の回転早くないとできないよなぁ・・・と思いつつ、読んでいるとまるでその場にいるように感じる 生き生きとした会話は魅力的。
それに比較して、地の文は平易でわかりやすい。抑えた簡潔な文章なのですが、どこか美しい。
文庫版解説で『端正で格調高い名文』と述べられているのは、ちょっと筆者が見たら恥ずかしいだろうな〜と思いつつ頷ける。
これにプラスして登場人物の幼稚で硬派な(矛盾しているようで共存している)魅力、スリリングで勢いがあるのにどこか切ないストーリー展開が藤原伊織作品の魅力だと思います。

さて、本作の感想ですが・・・個人的にはすごく面白かった。泣けた。
『テロリストのパラソル』の方が上手くまとまっている良作だというのはわかるのですが、私はこちらの方が好き。

ミステリ要素がかなり多いように思います。
よく漫画・小説のネタになる『8枚目のひまわり』の謎。
妻の自殺の謎。(主人公には生殖能力がないのですが、自殺した妻は妊娠していたのでその謎も含まれています。)
「どこがハードボイルド?」と思っていたのですが、会話や女性の役割、ヤクザとのスリリングなやりとりなどはやはりハードボイルド。
そして、ラストがまた紛う事なきハードボイルド。
以下反転。
一目につかない所とはいえ、銃撃戦ですから!!
そして、麻里が秋山を助けようと車でつっこんできたり・・・(泣)
これはないだろう!と思いつつ「ハードボイルドだからね。」で納得しました。
『ひまわり』を車ごと燃やすっていうのも、そうするだろうと思ってましたので納得。

ラストについてはおおよそ、『こうなるだろう』という予測はしていましたが少しあっさりしているようにも感じます。
しかし、謎の解明についてはストーリー展開の主眼ではあったと思うのですが、ストーリーの根幹ではないように思います。
謎を解明していくその過程こそが面白く、そしてその過程で自己を取り戻していく一人の男が感動を呼ぶ。

そして、個人的な叫びとしてはこれ。
「結局、『愛』がテーマですか!!」
・・・・ベタながら泣いてしまいました。
特にぐっときたのは、学生時代の秋山と英子の会話。

「私、わかります。この世界が残酷だってこと」
「そうなのかい?」
「ねえ、秋山さん。私、今決めたんです」
「何を決めたの?」
「私、秋山さんと結婚するんです。そして秋山さんをこの残酷な世界から守るの。静かな生活で守るの」

うわーうわー、英子さん素敵!秋山さん純粋過ぎてヘタレ!!

そしてこれと対比させたラストの秋山の独白。
『約束の誠実な履行。僕に約束した静かな生活を、彼女はただひとりで守り抜こうとしたのだ。 だが、僕はそうではなかった。この残酷な世界から英子を守ることができなかった。』

・・・泣けますって!!


あと、もう一つものすごく個人的な好みを言わせてもらうなら・・・
カジノのマネージャー、『ひまわり』を探す男の秘書、原田がものすっごい素敵だった。
動作の何もかもが優美、知的で頭は切れる、それなのにものすごい戦闘能力。
格闘する姿まで優美なんですよ〜っvv
しかも、正真正銘のゲイ!!(嬉々)
相手は70代のおじいさんで怪しい描写は皆無なのでご安心ください。
たぶん『テロリストのパラソル』よりこちらの作品のが好きなのは、この人に惚れ込んだからだと思います。
秋山に対しては「友情」としての親愛なのがまたいいのです。

そこらへんは、興味あるかたは「きゃ〜v」となること間違いなし!
そうでなくても、圧倒的に男性のほうが読んでる方多いと思われる作品なので、誰にでもお勧めです。


2005.xx.xx 記

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