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CLANNAD小説(SS)の部屋
CLANNADの小説を掲載していきます。

1    『真のおにいちゃん決定戦?!』(芽衣シナリオ後日談)
2009.10.03 Sat. 
『真のおにいちゃん決定戦?!』
 
 
 
 −前略 岡崎さん
 −あれからお変わりありませんか?
 −こちらは、ようやく期末テストも終わって、今は夏休みの計画を練っている最中です!
 −今年の夏休みは、いつもとは違った特別なものにしたいと思ってます。
 
 
 俺は手紙を読んでいた。
 何故か文通が成り行きで始まっていたのだったが、それが楽しみになっていた。
 
 文面からは、近くに夏休みが迫っていることが読み取れる。
 それはまあ、この手紙を書いた本人も、俺も同じことだった。
 
 もうすぐ夏休みだ。
 
 俺は特別なことするわけではなかったが、長い休みというのは楽しみだった。
 単に、学校へ行くという行為をしなくて良い期間が、マジメに学校に行く習慣の無い俺にとってもワクワクする。
 しかし、それまでの夏休みは…ひたすら春原をいじっていただけだった気がするので、この夏はもう少し実りあるものにしたいとは思っていた。
 
 …手紙の続きを読むことにする。
 
 
 −夏休みに入ったら、そちらに行こうと思ってます。
 −岡崎さん。その時はまたよろしくお願いしますね(はぁと)。
 
 
 なぬーっ!?
 思わず、口に含んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
 こっちに来る、と言うことは、また俺の部屋に泊まるってことだろうか?
 最後にハートマークまで書いてあったし…。
 
 そもそも、俺たちの関係って、何て言えばよいのだろう?
 と、自問自答したくなるくらいに、微妙な関係だった。
 
 
 文通の相手は、友人ということになっている、春原陽平の妹、芽衣ちゃんだ。
 4月の終わり頃に、兄である春原の様子を見にきた芽衣ちゃんと仲良くなり、帰った後も定期的に手紙をやり取りしているわけだ。
 どちらかと言えばマメとは言えない俺が、相手の手紙が到着して3日以内くらいには、返事を書いているというのには、自分自身が驚いている。
 結局、週一のペースで手紙を読んで書く、という生活が続いていた。
 
 文通の内容は、お互いの学校生活のことだったり、友達関係の悩み(俺にはあまり無かったが)、春原レポート(義務)…など、それほど変わった内容ではなかった。
 ちなみに「春原レポート」は、今週の春原がどんなだったかを報告するものだ。
 もっとも、毎週春原の良いニュースがあるわけでもなく、ほぼヘタレっぷりを紹介しているだけになっていたが、芽衣ちゃんはそれでも、俺から近況を聞きたがっているようだった。
 どうやら、春原本人から電話で聞くことは、どれも虚勢ばかりで真実で無いことがわかったらしい。
 俺からの報告も、もちろん逆の意味で誇張していたが、芽衣ちゃんはいつも「しょーがないですね、お兄ちゃんは」
と書いていた。
 
 ただ、そんな芽衣ちゃんが夏休みに来るというのだ。
 
 文面は、次のように続いて終わっていた。
 
 
 −P.S.おにいちゃんには内緒にしておいてください。
 −芽衣より
 
 
 つまりは…またウチに泊まろうということらしい。
 この前の件では、春原にはどのように俺たちの関係が映ったのかよくわからないが、芽衣ちゃんが来るとわかれば、全力で阻止しようとするだろう。
 
 しかも、春原にはちゃんとは言っていなかった。
 芽衣ちゃんがこの町に来た時に、ずっと俺の家(しかも俺の部屋)に泊めていたことなど。
 そもそも俺と芽衣ちゃんの関係は、春原の中では「恋人ごっこ」止まりで終わっていることかもしれなかった。
 ただ、当の芽衣ちゃんはどういう風に考えていたのか、イマイチ掴めていなかったが。
 ごっこ遊びを楽しんでいただけなのか、少しは本気な気持ちもあったのか…。
 
 当の俺はと言うと、芽衣ちゃんには良いイメージしかなかった。
 もちろん可愛いと思っていたし、恋人ごっこの最中は楽しかったものだ。
 100円ショップをデートしていただけなのに、あんなに喜んでくれるなんて、こっちまで幸せな気分になれた。
 それに、あんな妹がいると言うことには、春原に対して嫉妬すら感じていた。
 だから夏休みを前に、不安よりも、心躍る自分がいることも確かなのだった。
 何よりも、あの春原の妹…が、と言うギャップからして心を鷲掴みにされた気分だし、
 
 「おにいちゃん」
 
 と呼んでくれたことも、弟妹のいない俺にとっては衝撃的なことだった。
 兄とは違い、頭が良くて世渡り上手なところがあるのだが、年相応の可愛らしさも備わっていたりする…。
 俺自身、決して年下好き…と言うわけでは無かったと思うが、今では完全に芽衣ちゃんにハマっていた。
 
 俺は、手紙を何度も読み返しながら、どう迎えようかと思案していた。
 
 
 
 
 そして、待ちに待った当日。
 家まで来ると言った芽衣ちゃんを待っていられず、駅まで出迎えることにしていた俺は、予定よりもずいぶん早くに家を出て駅に向かうことにした。
 寝坊するどころか、前日からよく眠れなかっただけなのだが。
 
 
 駅前のロータリーの真ん中にある時計を見た。
 一時間前だった。
 
 やりすぎたと自分に苦笑しつつ、愛しい人を待つことにした。
 
 
 
「えっ?! もう来てたんですかっ」
「芽衣ちゃんっ?!」
 
 声のしたほうを向くと…待ちわびた女の子の姿が。
 そして時計を見やると…まだ三十分前だった。
 
「あれぇ〜? 岡崎さんより早く来て、驚かせるつもりだったのに〜」
「驚いたのは芽衣ちゃんのほうだったなっ」
 
 してやったり、とはこのことだろう。
 これだけで、一時間も早く来たことが吹っ飛んでしまうくらいだ。
 
 
 
 
 駅前の商店街を並んで歩く。
 大きくなった? いや、あんまり変わってないか。
 肩の位置はあんまり変わっていないようだし。
 
「元気でしたか? 岡崎さん」
「芽衣ちゃんこそ、元気そうで良かったよ」
 
 何だろう?
 俺のことを知ってるやつが聞いたら、気持ち悪いって言われるかもしれない。
 特に杏あたりが聞いたらさぶいぼだわ、とか言うんだろう。
 そんなセリフが自分の口から出てくることに違和感を感じるのだが、違和感を越えた喜びと言うか期待感がそれをかき消してしまう。
 恋愛って盲目だな…。
 
 
「じゃあ、さっそく行こうか」
「うんっ」
 
 
 肩を抱くようにして、こちらも嬉しそうに見える芽衣ちゃんをエスコートする。
 しかし、楽しみにはしていたんだが、何処へ行ってどうしたい、とかっていう具体的な計画は考えていなかった。
 でも、そんな小さな悩みも、今は楽しくてしようがない。
 あー俺ってこんなキャラだっけ?
 それも…今は思い出せな……。
 
 
「ちょっと待ったぁ〜〜〜〜っっ!!」
「誰だっ」
「おにいちゃんっ?!」
 
 俺の「誰だっ」はすぐにかき消されてしまった。
 まあ、声の主は芽衣ちゃんの声が無くとも見当がつくのだが…。
 
「はぁ…はぁはぁ…。
 岡崎。芽衣は…渡さないぜ」
「春原…おまえ」
「おにいちゃん…」
 
 俺と芽衣ちゃんの声が重なった。
 二人とも、その声の主をすぐに認識したからだろうが。
 
「岡崎…勝負だ!!」
「何がだよっ!!」
 
 ワケがわからない。脈絡がよくわからない…が、こいつの脳みそにそんなことを訊いても仕方なさそうだ。
 
「芽衣は…お前には渡さない…」
 
 俺には見せたことの無いような、シリアスモードの顔をしている。
 怒っているようだが、怒り狂ってる、と言う表情ではない。とてもシリアスだ。そうとしか表現できない。
 
「ぷぷっ」
「笑うなよっ。何がおかしいんだよっ」
「いやなあ。お前のそんな真剣な顔、正面から見たこと無いし」
「どんな顔してるんスか!!」
「あ、この顔のほうが自然だぜ」
「ちっともうれしくないよっ!!!」
 
 ようやくいつものヘタレ顔に戻った。
 そうじゃないと調子が狂うんだよな。
 
「そんなっ…。わたしのために争うのはやめてっ」
「悲劇のヒロイン気取りっすかっ??」
 
 しかも間がおかしい件。
 かなりツッコミたかったが、どっちの発言にツッコんで良いかがわからなかったので、ツッコミたい気持ちを抑えることにした。
 
「ふふん。じゃあ岡崎、芽衣をかけて勝負しようじゃないか」
「勝負?」
 
 芽衣ちゃんをかけて勝負?
 …。
 
 仕方が無い。
 俺がこのヘタレに負けるとは思えないし、この際、白黒はっきりつけても良いだろう。
 何か、芽衣ちゃんを彼女にするのに、このヘタレ兄の了承が必要を得ないといけないってのが気に食わないが…。
 
「受けて立とうじゃないか、春原」
「ふふん。どんな勝算があるのか知らないけど、僕が負けるわけがないからね」
 
 むしろ、コイツのその自信の根拠が聞きたい。
 
「その気になりましたねっ。それじゃあ…、
『春原芽衣争奪 真のお兄ちゃん決定戦!』スタートぉっ!!」
「「うおーっ!!」」
 
 声がヘタレと被ったのが気に障るが…いいだろう。
 勝つのは俺なんだから。
 悪いが、芽衣ちゃんは俺がいただく。
 
 
 
 
 
 
「じゃあ最初のバトルは…ゲームセンターでクレーンゲーム対決〜っ」
「「うぉーっっ」」
 
 商店街のゲーセン。
 コイツももちろんだが、俺も行きつけのいわばホームだ。
 
「ふっ。後輩から小銭をせしめてまで通ったここ、僕のホームグラウンドがお前の墓場になる…。
 
 決まったな」
 
 最初のくだりで台無しな件。
 そんなことを言う必要があるのかが激しく疑問だったが、これもヤツらしいと言えば納得か。
 
「どっちが先に行く?」
「そりゃあ僕が先に行くよっ!」
「どうぞどうぞ」
 
 クレーンゲームの場合、セオリーとして、その筐体のアームの強さや挙動とかを見ておく必要がある。
 だから先攻は不利なはずだ。
 
「ふふん。取りやすそうなモノを取るんなら最初にやらないとね」
 
 そういう考えもあった。
 ただのアホだと思っていたのだが、さすがに自分のホームグラウンドらしい。
 しかし疑問もある。
 
 この男に勝負運などがあるのか? ということだ。
 
「いけえっ、よしっ、よし…やったーっっ!!」
 
 まさかの一発ゲット?!
 アームに掴まれたモノは、意外にもしっかりとした動きでこちらに向かってくる。
 だが…、
 
「あーっ。うそだろ…」
 
 当然にも(?)、無情にも(?)、モノは穴の手前で落下してしまった。
 
「一回だけって勝負じゃないよね? 取れるまでが勝負だよね?」
「まあ決めてはないが、それだと…」
「お兄ちゃんたちに任せちゃいますっ」
「うっひょ〜。さすがわがマイ妹っ。話わかってんじゃんっ」
 
 わがマイ妹って、「わが」と「マイ」が被っていたり、日本語と英語が混じってたり、ツッコミどころがダブルだったが、とりあえず放っておくことにした。
 
「と言うわけで、リゾンベだぁっ」
 
 …いちいちツッコむツッコまないと考えること自体がアホらしくなってきた。
 俺は、リトライするアホの子をぼんやりと眺めていた。
 
 …。
 
「うおっ、いけっいけえーっっ」
「ああっ…」
 
 …。
 ……。
 
「今度こそ…今度こそぉっ」
 
 …。
 ……。
 ………。
 
 そして何度目か何十度目か。
 
「やった。やた、やたやたやったーっっ」
 
 やっと…ようやく金髪の男の挑戦が終わった。
 
「取ったっ、取ったぞっ、芽衣ぃっ」
「う…うん。よかったね、お兄ちゃん…」
 
 はしゃぐ兄を、疲れた顔で妹が迎える。
 何だこの絵は…。
 
 そして俺はその後、ニ度目くらいでモノをゲットした。
 クレーンのクセとかも、ぼーっと見ていても見飽きるほど見ていたので、簡単だった。
 
「えぇっ。岡崎…もう取ったの?」
「ああ、それが? はい、芽衣ちゃん」
「ありがとうございます、岡崎さんっ。かわいい〜♪」
 
 さらりと言い、芽衣ちゃんにファンシーなぬいぐるみを渡した。
 
「ところでさ、春原。いったいいくらつぎ込んだんだ?」
「えっ? えーと…、そこはそれだよ」
 
 何だ、そこはそれって。
 そしたら頭を抱えて言った。
 
「財布が頭痛だ…」
 
 …もうコイツの天然ぶりにはついていけない。
 
 
 
 俺と春原のバトルは続いた。
 同じくゲーセンで占い対決とか、古河を呼んで嘘を信じさせられるか対決とか、わけのわからない対決を繰り返した。
 
 
「よしっ、岡崎。次は占いで勝負だっ」
「望むところだっ」
 
--あなたたちの相性は、完璧です--
 
「うおっしゃああっ。見たか岡崎っ」
「ちょっと待て。何で俺も隣にいるんだ?」
「だって対決って一緒に入らないとできないじゃん」
「あのなあ…占いだったら、芽衣ちゃんとの相性がどっちがいいかを比べないと楽しめないだろ」
「ああ、そっか。でもま、いっか」
「良くねえよ!」
 
-------
 
「古河、わざわざ出てきてもらって済まなかった」
「はい、それは構いませんが…。みなさんお揃いでどうかしましたか?」
「話があるんだ。重要な。それは…な」
「何でしょう?」
「実はな。春原はバイだったんだ」
「バイ…ですか?」
「そうだ。実は、女でも…男でもイケるんだ」
「女でも…男でもですか? 確かに春原さんは
「違うよっ。女の子は可愛ければ誰でもいいけど、男は岡崎だけだよっっ」
「うわ…」
「ここでいきなり愛の告白かぁ〜っ?!」
「岡崎さん、春原さん……お幸せになってくださいっっ」
「信じるなっ。ドッキリだドッキリ!」
「岡崎なら僕はいいけどなあ」
「良くねえよ!!」
 
 
 俺たちは、アホアホな対決?を繰り返していった。
 
 
 
 
「じゃあ最終戦。
『わたしのことを叫んでねっ』バトル!」
 
「へっ?」
「何だ? それは…」
 
 呆然とする俺たちを見て、彼女は軽くウインクしながら言った。
 
「わたしへの想いを、大声で叫んでくださいっ」
 
 なるほど。
 
 俺は覚悟を決めた。
 気持ちは変わらないのだから。
 
「芽衣ちゃん好きだーーーーっっ!!!!!」
 
 たぶん、生涯で一番大きな声だったと思う。
 恥ずかしさはあったが、それはもう近所の人間全員に聞き届けてもらうくらいの勢いで。
 って言うか、こんな告白の仕方あるか?
 
「芽衣ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−っっっっ、すきガッ…」
 
 ヘタレも思いっきり叫んでいたが、最後は酸欠になったらしく、名前を叫んだだけに終わった。
 
 
 
 
「それでは、結果発表〜っ!!」
「「うぉーーっ!!」」
 
 いよいよ、結果が出た。
 俺と春原は、来るべき言葉を興奮状態で迎えた。
 
「わたしの、真のお兄ちゃんは…」
「「ごくり」」
 
 同時に息を呑んだ。
 
「春原陽平さんに決定しましたーっ!!」
 
「ガーン…」「ひゃっほぅ〜ぃっ!!!」
 
 
 
 終わった。
 
 目の前が真っ暗になった。
 俺は、この真っキンキンに、恐らくは生涯初めての敗北を喫した。
 と言うことは、俺の存在はゴキブリ以下…いや、未満なんだ。
 
「芽衣〜っ」
 
 そう言って抱きつこうとした春原は…次の瞬間、生身の身体では無く空気を掴んでいた。
 
「わっわっわーーーーっ」
 
 ずざーん。
 派手に地面に突っ込んでいた。
 
「あ、あれ? 芽衣?」
 
 こんなヘタレに負けたのかと思うと、余計に惨めに思えた。
 もう生きているのが辛かった。
 
 消えよう…。
 心からそう思う。
 
「理由ですが…、やっぱりおにいちゃんはおにいちゃんだからです」
「へ? それだけ?」
 
 ? 何だろう? 続きがあるような言い方。
 そう思ったら、芽衣ちゃんは俺の目の前に来た。
 
「岡崎さん。いいえ、朋也さん」
「ん? どうした、芽衣ちゃん」
「やっぱり…朋也さんはわたしの『おにいちゃん』じゃありませんでした」
「そりゃあ…そうなんだろうな」
 
 何だか、よく意味のわからない会話。
 何が言いたいんだろうか?
 
「わたしの…彼氏になってください」
「な、なにいぃ〜〜〜〜っ」
「え? えぇ〜〜〜〜〜っ」
 
 急展開すぎて事態が飲み込めない。
 一度頭の中を整理しよう。
 
 俺は、芽衣ちゃんのお兄ちゃんではない。
 芽衣ちゃんは、俺に彼氏になってくれ、と言っている。
 
 つまり…。
 
「俺と、付き合うってこと?」
「はいっ。そうですよ」
 
 つながった。
 しかも、とてつもなくイイ方向で。
 
「今回ここへ来たのも、それを言うためだったんです。
 もしよろしければ、ですけど」
 
 驚いたが…嬉しかった。
 胸がときめいた。
 
 芽衣ちゃんの眼を見る。
 少し不安そうで、でも期待に満ちてキラキラしていた。
 
 心は決まっていた。
 と言うか、俺だって同じ思いだったんだから。
 
「いいよ。と言うか、こちらこそよろしく」
「はいっ。ありがとうございます!」
 
 お互いの手と手を堅く握り合った。
 芽衣ちゃんの手は、小さくてすべすべしていたけれど、少し汗がにじんでいた。
 緊張させてしまったのだったら、とても申し訳ない限りだ。
 
「あと、朋也さんと同じ高校に進むことに決めました」
「マジでか?」
「はいっ。マジです、大マジです。
 一緒には通学できませんけれど、その代わり、朋也さんの家に住まわせてもらえませんか?」
 
 爆弾発言。
 
「何日か泊めてもらいましたけれど…、
 あの家には女手が必要です。
 毎日朋也さんには、栄養のあるおいしいものを食べてもらいたいんです」
「あ、ああ…」
 
 正直なところ、願っても無い申し出だ。
 芽衣ちゃんの料理の腕は確かすぎる。
 おまけに、家事全般はほぼプロフェッショナルと言っても差し支えないだろう。
 
「でも…家の人が許可してくれないだろ?」
 
 当然の疑問だった。
 そこのヘタレと違い、女の子だ。
 どこの馬の骨ともつかない俺みたいなやつの家に住む、なんてことが許されるはずが…。
 
「それなら大丈夫です。おにいちゃんと違って、信用されてますから」
「そういう問題じゃない気がするんだけど…」
「心配しないでください。両親には『未来の旦那さんの家に住み込むことにした』
 って言ってますから」
 
 爆弾発言そのニ。
 
 もちろん、将来的にそうなれたらいいな、なんて考えてるのは事実だが。
 でも、まだようやく付き合い始めるって段階で…。
 
「もちろんこの先は、朋也さん次第ですけど」
「そうだな。まあ、そうなったら良いな、って俺も思ってるよ」
「そうですかっ。それは良かったですっ」
 
 そういって俺の腕に抱きつく俺の…彼女かつ未来のお嫁さん。
 この温もりさえあれば、前に進んでいけそうな気がした。
 
「と言うことで、おにいちゃん。おとうさんとおかあさんをよろしくっ」
 
 
 
 
「う…うそだろ……」
 
 信じられないと言う表情でへたり込んでいる男がひとり、呆然と俺たちを見つめていた…。
 
 
--------------------------------
 
 
「何かさ、芽衣に振り回されてたって感じだよね」
「…そうかもな」
 
 芽衣ちゃんが帰った後、俺たちは何となくぼーっと思い出していた。
 春原は気が抜けたようになっていたが、俺は名残惜しいの一言だ。
 一緒に住むようになるまでは…。
 
「あと一年半もあるのか…」
 
 意味も無く呟いた。
 
 まあでも、夏休みとか冬休みにはこっちに来てくれるって言ってたし、全く会えない訳じゃないんだけど…。
 
「でもさあ。芽衣と岡崎がくっ付くのかあ…。何か信じられないや」
「そうか?」
「うん。だって…」
 
 春原はそこまで言うと、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
 嫌な予感がした。
 
 
 
「だってさ。もし芽衣がお前と結婚したら、
 僕はお前の『お義兄さん』になるんだぜ?」
 
 
 
 さーっ。
 
 血の気が引いた。
 
 考えてもみなかった。
 俺とこいつが義兄弟に?!
 あり得ない。
 断固あり得ない。
 でも、それはもし俺と芽衣ちゃんが結婚したら…事実になることで。
 
 
「ほら岡崎っ。僕を呼ぶときは、これから『おにいちゃん』だよっ」
「呼ぶかっっ!!!」
「あはは、照れちゃって〜」
「おまえ死ねっ」
「ちょっっ暴力はダメでしょっっ」
 
 期待と不安を抱えながら、俺は残りの高校生活を消費することとなってしまった。
 
 
<おわり>
 
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 りきおです。いかがでしたか?
 これは2008年末の冬コミで出した同人誌に掲載したものを、若干加筆したものです。当時は酷いうつ状態だったんですが、これはどんなテンションで書いていたのか思い出せないくらいのアホな内容です。
 いやあ、でも春原兄妹×朋也は良いわw 春原の動かせ方と芽衣ちゃんの万能さが異常です。春原に至っては、これでも全然ポテンシャルを引き出せていないとは思いますが、いいですね。書き手にギャグセンスが全くなくとも、こいつが動いたりしゃべったりするだけで笑いが発生しますから。素晴らしいキャラですね。
 ネタが降臨すればまた書けるかもしれない…そんな奇跡さえ(違、感じさせてくれるキャラが春原なのです。本当にこいつは奇跡的な存在だと思います。
 
 
 
 感想は、

 などにてお待ちしています。
 
 
 以下はSSを書いた当時のコメントです。
 
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 りきおです。いかがでしたか?
 ちょっとどころじゃないスランプに陥ってしまい、何も書けない状態になってしまっていたんですが、何とか完成させることができました。
 この小説は実は、昨年の冬コミで出そうと思っていた…もっと言えば、確かCLANNAD(オリジナル版)のプレイ直後くらいに思いついたネタだったりするんですが、何故かここまで煮詰まってしまってました…。これでも、途中の部分を少し端折ってしまっているので、完璧では無いのですが。申し訳ないです。
 まあしかし、少しでも笑っていただけたら最高です。それしか無いです。内容は非常に薄いですからね(汗)。
 
 
 アニメのCLANNAD AFTER STORY(AS)もイイ出来ですね。芽衣ちゃんが声+動きが加わって異常に可愛くなってましたし(笑)。終盤のクライマックスシーンではどれだけ泣かしてくれるんでしょうね。楽しみです。ちょっと怖い気もしますが。
 
 
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