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★リトルバスターズ!SS部屋★

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  14   『Far away 第4話』(佳奈多中心、葉留佳シナリオ後日談)
更新日時:
2008/07/19 
『Far away 第4話』
 
 
「できたっ」
 
 彼にあげるシフォンケーキ。
 今日は、自分でもびっくりするくらいに完璧に出来た。
 作る過程で、ミスしたりとか不安になったりしてる場所がまるで無かった。
 
 これなら、普段は辛口な彼も「美味しい」って言ってくれるに違いない。
 味見なんて必要ないくらいに、自分で自分を褒めてあげたい出来。
 
 早く食べてもらいたいナ…。
 逸る気持ちを抑えきれない感じで、私は出来上がったケーキを箱に入れて放課後を待った。
 
 
------------------------
 
 
「理樹くーーーーんっ」
「わあっっっ、葉留佳さんっ」
 
 放課後。
 待ち合わせはしてたけど、いきなり抱きつかれて慌ててしまう。
 しかも周りにはいっぱい見てる人がいるし。
 
「おっ。今日も三枝は理樹とデートか?」
「やはー、真人くん。デートってほどじゃないんだけど、理樹くんは借りてくね」
「おうよっ。でもたまには返してくれよ?!」
「わかってますヨ。じゃあ、いこっか」
「うん、じゃあまた後でね。真人」
「じゃあな」
 
 と言うことは…またケーキの味見かもしれない。
 
「そうそう。またケーキを焼いてきたの。連日で悪いんだけどサ」
「ううん。葉留佳さんのケーキ、毎回おいしくなってるから毎日楽しみなんだけど」
 
 それは…本心から出た言葉。
 本心そのもの。
 日々上達していくのを舌で感じられるのが嬉しくて。
 僕は喜んで味見役を受けてた。
 
「ありがと、理樹くんっ」
 
 そういうと、抱きついていた腕の力をさらに強めて、感謝の意を表してくれた。
 ついでに頬に柔らかい感触も残してくれて。
 
「じゃあさっ、どこで食べる? 食堂? それとも中庭?」
「うーん…。今日はいい天気だし、中庭かな?」
「おっけーっ。じゃあ中庭で待ってるねーっ」
「うん。後で行くよ」
 
 
 
「じゃあ食べて食べてー」
「うん。じゃあいただきます」
 
 美味しそうに出来上がったシフォンケーキをひとつつまんで、口の中に入れる。
 ふわっとした、溶けるような、佳奈多が作ってくれたものを想像す…る。
 
「…どう?」
「う…ん。そうだね…」
 
 あれ?
 期待していた味、舌触り、口どけ…。
 どれも…無かった。
 何で? 何でだろう?
 
「おいしく…ない?」
「…ごめん。前のほうが美味しかったんだ」
「えっ?!」
 
 正直に言った。
 驚いていて、冷静な判断ができていないせいもあるけれど、
日に日に美味しくなっていったケーキが、ここまで味が落ちることが不自然だった。
 
「うそ…」
「うそ…じゃないと思う」
 
 その言葉を受けて、葉留佳さんが自分で作ったそのケーキをつまみ、口に入れる。
 指は、手は…震えていた。
 
「あ…あれ? ほんとだ…。ぜんぜんおいしくな…い?」
「全然ってほどじゃないけどね」
 
 僕はフォローのつもりで言ったけれど、葉留佳さんは強く首を横に振った。
 
「なんで? ぜんぜん…だめ? なんでっ?! 完璧だったはずっ!!
 私どこもまちがえてないっ。今回は完璧にできたはず…なのに…」
 
 葉留佳さんの様子がおかしい。
 まるであの時のような…。
 
「教えられたとおりに作ったはずなのに…。それも、全部完璧だったはずなのに…。
 おしえ…教えられ…た?!」
 
 びくんっ、と肩が震えた。
 そして、ゆらりと立ち上がった。
 
「…つ、私にウソ教えたんだ…。
 ケーキが失敗するようにって、ウソついたんだ…」
「うそ?」
「うん…ウソ…」
 
 話がよく伝わらない。
 
「あ、ううん。なんでもないんだ。
 …うん。次また作るときには、今度こそ完璧なのを食べてもらうから待ってて」
「う、うん。わかったよ」
 
 ???
 
 何だかよくわからないうちに自己完結してて。
 葉留佳さんはケーキを持つと、そのまま何処かへと走り去った。
 
 僕は、狐につままれたような顔をしてたんじゃないだろうか?
 でも何かが引っかかっていた。
 魚の小骨がのどに残っているような。
 
「…っ!?」
 
 葉留佳さんの言葉を思い出す。
 
「ウソ教えた?」
 
 何かが…繋がって…。
 
 
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 …来るんだろうか?
 決まってる。
 来るに違いない。
 
 彼が嘘をつかない限り。
 彼がお世辞を言わない限り。
 しかも、彼がそんなことが出来ないのも知っている。
 
 だから、私の元に来る。
 そうに違いない。
 あの子の性格からしても。
 
 でも、来るとわかっていても、どう接していいものかと悩む自分がいた。
 あの子は怒り狂っている。
 じゃあ私はどうすれば?
 
 本当は、答えはひとつしかない。
 答えはひとつしかないのに、悩むなんて…。
 
 答えは…決まっている。
 もう私に、後戻りするなんて選択肢は残されていないんだから。
 
 
 窓から空を見上げた。
 日差しが、徐々に熱を帯びて痛いものに変わりつつある、そんな過渡期。
 
 変わらずにはいられないのは、たぶん季節だけじゃない。
 人の関係も。
 あの子との関係も。
 …もう、今まで通りなんて望めないのだと。
 
 そうなるようにしてしまったのは、他の誰でもない、私なんだと。
 
 
 
 
「佳奈多っ?! いるんでしょっ?!!!」
「ええ、いるわよ」
 
 血相を変えて風紀委員会の教室に飛び込んできたのを、ごく冷静に受け止める。
 動揺している心を見透かされないように。
 
「どういうこと?」
「何? 何が?」
「とぼけないでよっっ」
 
 気圧されるような迫力。
 鬼気迫るとはこういうことを言うのだろうか?
 …なんて冷静に考えている私は、やっぱり普通じゃないのだろうか。
 
「何であんな不味いケーキを作らせたのっ?!」
 
 不味いケーキ…。
 それはそうだろう。
 あの作り方で美味しいシフォンケーキが出来るはずが無いんだから。
 
 それをわからないのもおかしいような気がするんだけれど。
 
「あなた、何か勘違いしてない?」
「かん…ちが…い?」
「そう、勘違い。わからないの?」
 
 自分の声が酷く冷めたトーンで発せられる。
 あの子の声が途切れ途切れになる。
 驚いているのだろうか?
 戸惑っているのだろうか?
 
 
「何で私に訊きに来たの?」
「えっ?! だ、だって佳奈多はお姉ちゃんなんだし」
 
 お姉ちゃん、か…。
 妹が姉にお菓子の作り方を訊きに来る。
 それは普通の姉妹なら普通のこと?
 
 
「ケーキ作りなんて、得意な子、他にもいるんじゃない?
 例えば…神北小毬、とか」
 
 彼女のお菓子への執着心は凄まじい。
 この季節までセーターで来るとか、あのマイペースぶりも目に余る存在。
 そんな彼女を知らないわけは無いだろうし、それが近道じゃないかって思った。
 
「それを、あなたは何で私に訊きに来たの?」
「だって…。アンタのケーキは、理樹くんが『美味しい』って言ってくれたんでしょ?
 私だって、理樹くんに『美味しい』って言ってもらいたいよっ!!!」
 
 まあ、浅はかな子だから仕方ないかとも思う。
 だから私に訊きに来たってこと?
 …馬鹿馬鹿しい。
 
 次の言葉は…決定的な言葉。
 まだ自分と私の立場をわかっていない、この子に対して。
 それを言えば、本当に私は引き下がれなくなる。
 
 でも、言わなければ進めない。
 だから、あえて言う。
 私自身の退路を断つ意味でも。
 
 
 
「恋敵なのに。どうして恋敵に、美味しいケーキの作り方なんて訊きに来たの?」
 
 
 恋敵…。
 もしかしたら、私だけが意識していたのかもしれない。
 
「恋敵に塩を送る女がいると思う?
 同じ人が好きなのに、何で応援するようなことをすると思うの?」
 
 恋愛の経験も無いのに、よくも言えたものだ。
 でも実際に同じ状況なら、同じ行動をしてたんじゃないかって思う。
 
 だって…もう失いたくないから。
 抱きしめられた時に感じたあの温かさを。
 好きだと言われたあの響きを。
 見つめてくれるあの視線を。
 
 全部…ぜんぶ。
 
「あ…え? あんたが…理樹君のこと……すき?
 うそっ。うそ…」
 
 動揺してる。
 本当に気づいてなかったんだ。
 
 …バカみたい。
 私一人が気を遣って、あれやこれやと考えて。
 本心を隠して接してきたのに…。
 
「そうよ。今ごろ気づいたの? 呆れた。
 ま、その様子じゃあ気づいてないでしょうね。
 彼の気持ちも。
 彼がずっと貴女のほうばかり見ていたのかどうかってことも」
「ぃ……ゃ、…い…や…いや…嫌いや嫌嫌嫌嫌ぁーーーーーーーっっ!!!
 聞きたくない聴きたくない聴きたく無いききたくないっっっっ!!!!!」
 
 膝をついて倒れこみ、耳を塞ぐようにして両手で覆い、頭を身体を上下に激しく揺さぶる。
 困惑。混乱。焦燥。絶望。憤怒…。
 様々な負の感情が彼女の中に、土石流のように押し寄せているんだろう。
 だからと言って、手を差し伸べるようなことは…もうしない。
 
 
「あっ、そう。なら、勝手にさせてもらうわね」
 
 
 ただ…突き放すだけ。
 もがき、苦しんでいる妹に対して…何という冷たい言葉だろう。
 あれだけ、守りたいとか、存在を消したくないと思っていた相手に対して。
 自分の存在意義とか存在事由とか、何もかも犠牲にして来たのに。
 
 ここへ来て、自分の欲求の方が上回るなんて、想像もしなかったことだけど。
 もう…いい。
 この世界では。この世界なら。
 
 
 
 もう、とっくにこの世界は壊れている。
 どうして、あの後も続いているのかがわからない。
 一応の解決を見たはずなのに。
 だから、結末がどうなろうと、またリセットされるだけ。
 
 
 なら、今回だけは自分に素直になりたい。
 素直になってみたい。
 自分に素直な自分を演じてみたい…。
 それだけ。
 それだけだった。
 
 
 安易だったんだと思う。
 そんな考え自体が。
 だから…気づけなかったんだろう。
 
 あの子の、形振り構わない行動が。
 
 
 
------------------------
 
 
 
 怒り?
 憤り?
 憎しみ?
 
 
 負の感情が、あたしの中で渦巻いてた。
 
 ううん。
 湧き上がってた。やりすぎな噴水くらいに。
 沸き立ってた。地獄の釜のお湯くらいに。
 
 だから、あたしが何をしたか、どういう行動をしたかなんて覚えてない。
 ただ感情に任せるだけ、感情に流されるだけ。
 
 
 それが、例え血の繋がった姉を手にかけることだとしても…。
 
 
 
------------------------
 
 
 
 走っていた。
 ただ、危険な状況になっているのではないかと言う予想なのか懸念なのか、妄想なのかを、
思い浮かべては振り払うように、ただ…ただ、ただ。
 
 
 
…でも、見えてきた光景は、僕が危惧していた以上のものだった…。
 
<第4話終わり⇒第5話に続く>
 
 
**************************************
 
 いかがでしたか? と言うか遅すぎでしたね。すいません…。
 3者の視点をそれぞれ描いているので、わかりにくい作りになっているかもしれませんが、
それも特徴の一つとしてお願いしたいです。
 
 アンケートであった「今後の展開についての選択肢」ですが、
いずれも実現させたいとは思ってます。お待ちください。
 
 早く続きを…と言いたいところですが、エクスタシー発売とかコミケとかあって、
勢いが無ければまたお待たせするかもしれませんが、今後もよろしくお願いします。
 
P.S.はるちん視点を描いている時が意外に楽しいですw
 
 
 感想などあれば、
 
 「Web拍手」「掲示板」
 
 などへどうぞ。


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