remove
powerd by nog twitter

Kanon&AIR SS部屋

KanonとAIRのSSを掲載しています。
大半が旧作になりますが、気が向いたら新作を載せるかも。

8   『軌跡の果て』(KANON真琴後日談)
更新日時:
H19年9月12日(水) 
『軌跡の果て』
 
 今日、あいつが帰ってくる。なんとなく、そんな気がした。
 
 「ええ。私もそんな気がするんです」。
 学校からの帰り道。。
 特に用事のある日以外は一緒に帰るようになった、隣の少女--天野美汐がそう言った。
 「やっぱり。俺、いきなりふと思ったんだけど、頭イカれてなくてよかったよ」
 「もしかしたら、私も頭がおかしいかも知れませんよ?」
 小悪魔っぽい表情でそう言う。
 「それじゃあ、俺たち目立ってるんじゃねえの? 『頭がおかしい変な二人』って」
 「そうかもしれませんね。でも、私は気にしません」
 終始、日常と変わらない会話。でも…
 「どうして天野はそう思うんだ?」
 俺よりも感受性の強い天野のことだ。何か感じ取ったのかもしれない。
 「そうですね。あの子たちの『想い』が、今日、特に強くなってるんです。
 ものみの丘の、それも複数…たくさんの、『想い』の力が…」
 「俺は、その『想い』の中に、あいつの気配っていうのかなあ。なんか感じるんだよなあ」
 「はい。確かに…あの冬の日と同じような…」
 
 そして俺は天野にこう告げた。
 「で、俺これから行ってこようと思うんだ。丘に」
 「そうですね。それがいいと思います」
 「あいつが帰ってきたら、また友達になってくれるか?」
 そう言うと、目の前にいる少女は「くすり」と笑って、
 「またもなにも、真琴とは、一生の友達のつもりですよ」
 俺も、その言葉に安心して、
 「そうだな。何もなかったかのように迎えてやるのがいいんだろうな」
 「そうですね…」
 
 俺は、天野に対して、辛くひどいことをしてきたと思う。
 実のところ、どんな出会いと別れで傷ついたのかは知らないのだが、それを聞くと言うことは、
 海底に沈めた悲しみの塊を、無理やり引き上げさせたようなものだからだ。
 そしてそんな彼女に、俺は「出会い」を強要したのだ。別れという結末が確定している「出会い」を…。
 でも、彼女は強くなってくれた。出逢った頃よりも表情が多くなった。
 そんな方向に導いてくれたとしたら、やっぱりあいつにも感謝したい。もちろん、天野自身にも。
 
-----------------------------------
 
 「ただいま」。
 慣れ親しんだ、水瀬家のドアを開く。
 「おかえりなさい」。
 普段通りに迎えてくれる秋子さん。。
 「あの部屋、今入っても大丈夫かな?」。
 あの部屋とはもちろん、少し前まで、この家に居候していたあいつの部屋ことである。
 「ええ。家出した悪い娘がいつ帰ってきても良いようにね」。
 この家の家主は、微笑みながらそう言ってくれた。
 「今日あたり、ひょっこり帰ってくるかもしれませんよ。
 『あぅ〜っ。おなかすいた〜』とか言って」。
 「そうね。いつでも唐突でしたものね」
 
 秋子さん。
 俺はこの人には、感謝してもしきれない。
 あいつを素で受け入れ、そして家族同然に扱ってくれて…。
 あいつが高熱を出した後も、仕事もあったはずだったけど、俺がいないときは、
 さももう一人娘が出来たかのように、よく遊んでくれていた。
 そして、あいつが2度目の高熱を出した日、家を出る時に、
 玄関先で後ろを向いた、あの時の秋子さんを俺は忘れてはいない。
 
 「…実は、今日何となくあいつが帰ってくる気がするんです」
 俺は、予感めいたものをそう唐突に切り出した。すると、
 「…今日、晩御飯の材料を4人分買ってきたのよ」
 と、この家の主人はそう答えた。
 「…わかるんですか?」
 俺や、天野が感じた予感めいたもの。それは、秋子さんにも伝わったのだろうか?
 「気が付いたら、肉まんの材料を4人分買っていたのよ」
 そういえば秋子さんは、昔と、人間の真琴を両方知る、俺以外では唯一の存在だった。
 ならば、この感覚が伝わるのかもしれない。
 「それじゃあ、あいつを迎えに行ってきます」
 「そう。じゃあ今日はごちそうを作って待ってるわね」
 「ええ。よろしくお願いします」
 俺は、いつも通りに返してくれる秋子さんに感謝しながら、丘を目指した。
 
-----------------------------------
 
 「あれ? 祐一。どうしたの? 今から出かけるの?」
 その道中、見知ったいとこに会った。
 「おう。家出少女を迎えに行く」
 そう言うと、名雪はきょとんとした顔で、
 「真琴、帰ってくるの?」
 そう言った。
 「俺の第七感が、そう俺に告げている。『奴は近くにいる』と」
 そしたら名雪はあきれた顔で、
 「第一、第七感ってなんだよー。あてにならないよー」
 「俺の直感が信じられないと言うのか?
 俺は、ノストラダムスよりも先に、恐怖の大王を予告した男だぞ」
 「そんなあ。ノストラダムスはもっと昔の人だし、恐怖の大王だって結局来てないよー」
 そんな日常のやりとり。そんな日常をあいつに取り戻させてやりたい。
 そうしたら、また毎晩のイタズラが始まるのか?
 と思うと、結構うんざりもするが、そんな日々が今はいとおしい。
 「じゃあ。晩メシまでには帰ってくるから。ディナーのセッティングは頼んだぞ、名雪」
 そう言うと、いとこの少女は、
 「わかったよ」
 と微笑みながら答えてくれた。
 
 名雪。いとこの少女。 最初は、あいつと2人ともお互い遠慮しているような素振りも見せていたが、
 あの日、4人で出かけた時には間違いなく「家族」だった。
 それは、名雪があいつのことを「あの子」を呼ばなくなった日から。
 そして、雪遊びをしたあの日。
 いいやつだな、と素直に思う。
 俺は、心の中で深く感謝をしていた。
 
-----------------------------------
 
 丘に着いた。
 あの時と違うのは、一面が花畑だという事。
 色とりどりに咲き乱れる花たち。それは、まるであいつの帰りを歓迎しているかのように。
 そして、俺は叫んだ。
 「家出少女沢渡真琴!! そこにいるのはわかっているぞ!!」
 「あぅーっ。どーしてそんな、フンイキのない再会なのよーっ!!」
 俺は、声がした方向を見た。
 家出少女はやっぱり唐突に現われた。
 花の中に立つ小柄な少女。ちょっと怒ったような、そして泣きそうな、そんな顔をしていた。
 「おう、久しぶりだな」
 そう手を挙げて、自然を装いながら、そして軽く笑いながら近づいていく。
 「ほんっと、乙女心ってものがわかってないんだから!!」
 少女はやはり怒っているようだったが、その瞳には涙が浮かんでいて、
 「お帰り、真琴」
 やっぱり涙はこらえきれなくて、
 「うん。ただいま」
 それだけ言うと、あふれる涙を拭おうともせず、俺の胸の中に飛び込んできた。
 俺はわんわん泣く小柄な少女を、強く抱きしめた。
 
 「絶対、祐一は迎えにきてくれると思ってたよ」
 俺のシャツを濡らすだけ濡らして、ようやく落ち着いた真琴は、そう口を開いた。
 「そうだな。なんとなくわかったんだよ。おまえが帰ってくるって」
 「そうなんだ…」
 少女は安心しきって、俺に肢体を預けている。
 丘を渡るそよ風が、春の甘い香りを運んでくる。
 
 俺は、伝えていなかったある「言葉」を言いたかった。
 そして、腕の中にいる少女の口から聞きたかった言葉を。
 「俺のこと、まだ嫌いか?」
 「え?」
 少女は驚いたような表情で、俺の顔を見た。
 「俺のこと、まだ憎いか?」
 そう訊くと、少し間があってから、
 「…うん。だって、『感動の再会』が、あんなムードのない迎え方されるんだもん」
 ちょっと拗ねた様子でそう答えた。やっぱり…というか、当たり前か。
 「そっか。普段どおりが一番かな? と思ったんだけどな」
 そう答えると、少女は、
 「…うん。でもね、憎いのと同じくらい…好きだよ。祐一のこと」
 
 「そっか…って、え?」
 見ると、目の前の少女は耳まで真っ赤になっている。
 「…だからあ。って、祐一はどうなのよ!!」
 と、逆に質問されてしまった。
 「俺? 俺は…」
 そんなものは決まっている。
 嫌いなやつを、直接聞いたわけでもないのに、こんなところまで迎えに来るやつはいない。
 そうでなくとも、俺たちは…。
 
 「好きだぜ。真琴のこと」
 耳まで真っ赤にしていた少女の表情は、今度は満面の笑みに変わっていた。
 「わかってたんだけどな。俺の気持ちも、おまえの気持ちも。
 でも、どうしても言葉で言いたかったし、真琴の口からも訊きたかったんだ」
 「あぅ…。いじわる…」
 
 うにゃぁ〜ん。
 近くで、猫の鳴き声。
 「ぴろ?」
 うにゃぁ〜ん。
 少女が知る子猫より一回り大きくなった猫が、少女の足元にいて、懐かしそうに擦り寄っていた。
 「案外、真琴の帰りを祝ってやりたかったのかもな」
 少女がいなくなった後、ひょっこり戻ってきた元家族に対して、そう思った。
 「ただいま、ぴろ。ありがと」
 少女もそう言った。
 
 あの時の雪だるまがぴろに変わっただけ。
 何も変わらない。変わったのは、ふたりの距離だけ。
 そして、そう。あの日の続きをしよう。
 
 「真琴」
 「何? 祐一」
 「結婚式の続きをしよう」
 「うんっ」
 あの時出来なかったこと。叶えられなかったことはたくさんあった。
 やっぱり、短期間ではとてもドレスは用意できなかったけど、
 あいつの好きな「あれ」はちゃんと用意している。
 「ずっと、ずっと一緒にいような」
 「うんっ。ずっとね」
 俺たちなりの、誓いの言葉。
 ちりん。
 「あっ、それ」
 鈴のついた腕輪みたいなものをつけてやる。
 ちりん。ちりん。
 目の前の少女は、瞳の端にいっぱい光るものを溜めながら、
 「ありがとう。祐一」
 そう言った。
 そして…
 「真琴。キスしよう」
 そう。もう1つ、あの日できなかったこと。
 「うんっ」
 永遠の、誓いの…キスを。
 
 俺は、春風が髪を揺らす中、永遠を願いながら、「沢渡真琴」という少女に、優しく、優しく口づけをした。
 
 おしまい。
 
-----------------------------
 
 いかがでしたでしょうか?
 この小説は、もはや95%くらいは、真琴への「愛」しかありませんw あとの5%で妄想を止めてつじつまを合わせる努力をしたって感じで…。
 これを書いたヒントですが、1つ目は真琴シナリオのエピローグで、祐一と美汐があまりにも前向きに真琴を思い出していたこと、2つ目は、Kanonのビジュアルファンブックか何かで、シナリオの麻枝さんが言っていたコメントです。これらを総合して、真琴は復活する!と仮定してのお話です。すると思いますが、実際。
 書きたかったのは、やはり「結婚式」で出来なかったことをやることでした。これに関しては、非常に自己満足していたと思います>当時の俺(本では、めちゃくちゃ後ろ向きなこと書いていたりしますが)。今もやっぱ満足していますし…。内容は、真琴好きな人以外はお断りな話だったりしますけどねw
 


BackIndex ● Next ●


| ホーム | 更新履歴・2 | りきお紹介 | 雑記・ブログ | 小説(SS)の部屋 | ■リトルバスターズ!SS部屋 | Webコミック | ■ToHeart2 SSの部屋 |
| ■Kanon&AIR SS部屋 | 頂きモノSS部屋 | 競馬ブログへ | ギャラリー | KEYゲーム考察 | CLANNADの旅 | ギャルゲレビュー | 『岡崎家』アンケート |
| ■理樹君ハーレムナイトアンケート | SS投票ページ | 掲示板 | SS書きさんへひゃくのしつもん。 | リンク集 | What's New | ◇SS投票ページ2 | SS投票ページ |
| SSリクエストページ | 雑記 |