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Kanon&AIR SS部屋

KanonとAIRのSSを掲載しています。
大半が旧作になりますが、気が向いたら新作を載せるかも。

1   『羽根』(Airみちる中心アナザーストーリー)
更新日時:
H19年9月12日(水) 
『羽根』
 
 
 
「あ"〜い"〜う"〜え"〜お"〜」
 
 扇風機に向かって、意味を為さない言葉を発しているみちるがいた。
 しかしその姿は、どこか寂しげだった。
 俺はそんな少女を、ただじっと見つめていた。
 
 美凪が、本来いるべき家へと戻った頃、俺とみちるは未だいるべき場所を見つけられずにいた。
 俺は、空に捕らわれていると言う少女を見つけられずにいた。
 みちるは…美凪がいるべき場所に戻ったことで、目的を失っているようだった。
 俺たちはどこか、心にぽっかりと空洞が空いたような、空虚な気持ちだったと思う。
 
 「…うにゅ」
 
 少女がつならなさそうに呟いた。
 
 
 みちるとずっと一緒にいた美凪は、今はここにはいなかった。
 夏休み中…いや、ほぼ生まれてきてずっと一緒にいるようなものだっただろうから、
心の中にぽっかりと空いた穴は、容易には埋められそうにも無いものだった。
 
 俺は、そんな穴を埋めようと、出来るだけみちると話をした。
 昔話、怪談、世間話…。
 美凪の話、夏祭りの話、自分の仕事の成果の話…。
 
 そんな俺の取りとめも無い話だったが、
少女は、時に笑い、時に真顔になって聞いてくれた。
 美凪のいない寂しさは、少女からも、俺からも少しは和らいでいった。
 
 ツクツクホーシ
 ツクツクホーシ
 
 暑さもどうやら峠を越えたらしい。
 次第にセミたちの合唱も、歌い手が交代しつつあった。
 夏の涼しさを伝えるセットアッパーから、夏を終わらせるストッパーに。
 夏の守護神たる彼らに。
 夏休みの宿題を急かすような、そんな歌声に。
 まるで、俺たちに残された時間も少ない、と言わんばかりに。
 
 
 
 
 その晩、俺とみちるは、いつものように晩ご飯を食べていた。
 俺はずっと自炊をしてきたから、簡単なものは作ることは出来た。
 特に、ご飯は常に飯盒で炊いてきたので、粒の立った米を用意してきた。
 
「美味いか?」
「うんっ。国崎往人って、ご飯の炊き方だけはうまいねー」
 
 そう言うと、美味しそうにご飯をかき込む少女。
 余計な一言があったように思ったが、粗末なディナーを美味しそうに食べる少女を見ていると、
何故か憎まれ口を叩く気さえも起こらなかった。
 実際、俺の収入はほとんど無かったわけで…。
 ロクなおかずも無いのに、口の周りをごはん粒で一杯にしながら食べてくれるのには、
 嬉しい気持ち以上に、どこか申し訳ない気持ちもあった。
 
 
 
 晩メシの後は、俺の収入アップのために人形劇の練習をしていたのだが、
この日はつい練習に熱が入ってしまい、時が経つのを忘れていた。
 夕陽は何時しか沈み、辺りは闇へと沈んでいた。
次第にお互いの口数が減り、少女が時折目をこすっているのに気付いた。
 
 俺は軽く笑いながら、言っていた。
 
「どうだ? 今日はここで寝て行かないか?」
 
 どういう風の吹き回しだろうか。
 俺は目の前の少女に対して、一夜を共にすることを提案していた。
 
 別に、やましい気持ちは全く無かった。
 ただ、こいつがどこで夜を過ごしているのかを考えると、
この提案をせずにはいられなかった。
 それに、この時間から1人で帰らせるのは、いくら何でも気が引けた。
 
 「う〜ん…」
 
 少女は何か考えているようだった。
 時折、俺の顔を見たりしながら…。
 
「…襲わない?」
「襲うかっ!!」
「わっっっ…」
 
 俺の大声に驚く少女。
 ただ、その驚き方もさほどオーバーでは無いところを見ると、
言葉どおりに警戒しているわけでも無さそうだった。
 
 
 何かはわからないが、虫の声が聴こえる。
 りーん。りーん。
 これは鈴虫だろう。
 
 夜も随分と更け、そろそろ寝ることにした。
 
「お前はそっちで寝ろ。俺はここで寝るから」
 
 結局同じ部屋で寝ることになった少女に俺は、ソファを指差した。
 駅長室にあったと思われる、ちょっと豪華っぽいソファだ。
 俺はいつもそこで寝ていたが、俺自身は経験上どこでも寝られる。
 自分は壁にもたれて寝ることにした。
 
「…」
 
 少女は何も言わず、ソファに横たわった。
 そして…こちらをじっと見つめていた。
 俺はその視線がやたらと気になっていた。
 
「…」
「…」
 
 ちらり、ちらりと少女の方を見るが、少しでも視線が合えば直ぐにその視線を逸らし、
逆にこちらが目を瞑れば、再びじ〜っ、とこちらを窺っていた。
 
「…寝ないのか?」
 
 たまらず俺は声をかけた。
 少女はビクッ、驚いていたが、逆にこちらを向いてこう言った。
 
「国崎往人は…そこで寝るの?」
「…まあな。どこでも寝られるのが、俺の特技みたいなものだからな」
 
 そういうコイツは、いつもどこをねぐらにしているんだろう?
などと言う疑問は湧いたが、そこには敢えて触れないでおくことにした。
 
「ふ〜ん」
 
 少女は、納得したのかしていないのか、口ではそう言いながらも、
まだ身体はこちらを向いたままだった。
 
 しばし、お互い沈黙した。
 ネコがにらみ合うように、互いの視線を外せずに交錯したまま。
 そんな沈黙は、少女の一言によって破られた。
 
「…みちるといっしょに…寝よ?」
 
 思わぬ提案だった。
 
「寂しいのか?」
「わあっっ?! 違うよっ!!」
 
 俺の答えに対して、過剰に反応していた。
 しかし、落ち着きを取り戻すと、
 
「…違うよ。寒いし…」
 
 少女の言うように、夏は終わりかけており、朝晩は冷えるようになってきた。
 俺も、寒さで起きてしまうこともあった。
 
「それに…」
「それに?!」
 
 さらに少女は続けた。
 
「ひとりは…寂しいよ」
 
 少女はぼそりと呟いた。
 
 その言葉の真意はわからなかった。
 だけど俺はそれを聞いて、ここに誘ったことが正しかったと確信していた。
 俺だって、この町に来て、人と触れ合うことの良さを久々に感じていたからだ。
 
「…わかった。じゃあ邪魔するぞ」
「うんっ」
 
 壁際からソファへと向かう俺に、少女は、少し照れくさそうな、でも嬉しそうな笑顔で応えていた。
 
 
「国崎往人」
「…どうした?」
 
 触れるでもなく、離れるでもなく、やや微妙な距離感を保ちながら横たわっていたが、
そんな微妙な空気を嫌ったのか、少女が口を開いた。
 
「まくら、して」
「枕?」
「うん」
 
 枕?
 最初は何のことかわからなかった。
 もしかすると、俺の腕を枕にしたいのだろうか?
 そのくらいなら、と思い、俺は腕を少女の方へと伸ばした。
 少女は、その腕に頭を載せた。
 
「うわぁっ。結構気持ちいいねっ。美凪の膝まくらの次くらい」
 
 そう言う少女の表情はとても満足げだった。
 俺も、美凪の膝枕の感触を想像しつつも、何故か満足感でいっぱいだった。
 
 そうして、その夜は更けていった。
 
 次の日の朝、前日にした自分の浅はかな行動に対して、若干後悔していた。
 …腕がだるかったからだ。
 
 
 
 その後、俺はみちると過ごした。
 美凪のいない2人だけの時間は、最初は違和感の方が強かったが、
何日もしないうちに、互いにあったよそよそしさは無くなっていった。
 
 
 
 ぷかぷかぷか〜。
 
「うわっ、すごいすごいっ!」
 
 少女は、毎日のようにしゃぼん玉の練習をしていた。
 お手本としてしゃぼん玉を生み出す俺を凝視し、
空へと舞い上がる輝く玉を嬉々として追っていた。
 
「みちるも…んんっ」
 
 ぷぅ〜…っ、ぱちんっ!
 
「わぷっ!?」
 
 少女も何度も挑戦するが、いつまで経っても成功する気配は無かった。
 その上達のスピードは限りなく遅かったが、日々進歩していくのは感じていた。
 日に日に膨らむ玉は大きくなっていたのだ。
 
「もう少しってとこだな」
 
 悪戦苦闘する少女の肩を、俺はぽんっ、と叩いて労った。
 
「うにゅ」
 
 少女は大いに不満なご様子だったが、渋々納得して、練習を再開していた。
 
 
 夜。
 粗末な食事を終えた俺たちは、同じソファで寝る。
 最初は腕まくらだけだった接触も、何時しか俺が少女に覆い被さるように、
抱きしめるまでになっていた。
 
 少女は、そんな俺を嫌がる素振りを、やり始めた1,2日目くらいはしていたが、
諦めたのか、そのうち自然と受け入れるようになっていた。
 
 ただ、徐々に冷たい空気を運んでくる、季節がそうさせているんだ、
と、誰に言うでもなく言い聞かせながら。
 でも、お互いの温もりが孤独を忘れさせてくれることを感じながら。
 
 
 
 
 数日後。
 突如美凪がこの場所に現われた。
 
「みーなぎぃーっ」
 
 その姿を認めるや否や、ばっと駆け出して美凪に抱きついた。
 そんな少女を抱きとめた美凪は、俺たちの知っている柔らかな笑みを浮かべていた。
 
 
 
「どうしてここへ?」
 
 おかしな言葉が俺の口から発せられた。
 ただ、美凪は居るべき場所へと戻ったはずだったのだ。
 それが、どうして再び「逃げつづけていた」ときの居場所にしていた、
この場所へと戻ってきたのか?
 それが聞きたかったのだった。
 
 しかし、そんな俺の迷いのようなものは、美凪の次の一言で吹き飛んでしまった。
 
「だって…。ここがわたしの居場所なんですから。
わたしが選んだ道は、ここに…」
 
 そう言うと、膝枕をされてすやすやと眠る少女の頬を撫で、
そして俺の方を見、微笑んでいた。
 
「そっか…」
 
 俺はそう言いながら、美凪を見つめて笑っていた。
 もしかすると、美凪も俺と同じなのかも知れなかった。
 
 
 
 夕方。
 俺たちは海岸に来ていた。
 夕陽は、遠近法を無視するかのような大きさで、俺たちを照らしていた。
 
「うわぁ〜っ。気持ちいいね〜」
 
 防波堤の上に立って、海から運ばれる風を身体全体に受ける少女。
 2つに束ねている髪が、後ろのほうへと流れている。
 
 すると何を思ったのか、髪を束ねているゴムみたいなものを解きはじめた。
 
「よいしょっ…と」
 
 髪を解き終わると、再びみちるは、海に向かって風を受けるように立った。
 
「んーーっ」
 
 俺は、その光景に目を疑った。
 
 
 
 …まるで、羽根でも生えたかのように。
 …翼を広げているかのように。
 …空を飛んでいるかのように。
 
 
 
 解いた髪は少女の後方へと広がり、なびいていた。
 
 
 とても…綺麗だと思った。
 
 
 その姿を、俺はある光景とダブらせて見ていた。
 空を舞おうとして、飛べなかった少女の姿と。
 
 
 
「不思議…」
 
 俺と共に、そんな少女のことを眺めていた美凪が、ぽつりと呟いた。
 
「何がだ?」
 
「みちるには翼は無いのに、空を飛んでるみたい…」
 
「…そうだよな」
 
 美凪も同じことを感じていたのだ。
 互いの気持ちが通じているようで、何故だか嬉しかった。
 
 
 
「みちるはさ…、飛べるのか?」
 
 俺は、確かめたかったことを直接問うていた。
 母親から聞かされた少女のことを、目の前にいる少女と重ねて…。
 
 少女は、俺の問いに返す言葉を考えていた。
 ひとしきり考えた後、少女が口を開いた。
 
 
「…もう、飛べないかも……」
「どうして?」
 
 意外な言葉が出てきて、俺は驚いてしまった。
 もう…って何だよ?!と。
 しかし少女は、さらに思い詰めた表情で続けて言った。
 
「…だって、みちるの居場所がわかったから。
ここしか無いって、わかったから…」
 
 居場所…。
 俺はその言葉に引っ掛かった。
 それは、美凪も言っていた言葉だったからだ。
 
 じゃあ、俺の居場所ってどこにあるんだろうか?
 
 思わず自問してみたが、答えは直ぐに出てしまった。
 
 …俺も、ここしか無いんじゃないかって。
 ここが、3人がいるこの場所が、お互いの居場所なんだと。
 
 
 みちるは、俺の胸元に飛び込んできた。
 
「ここに居ていい? ずっと居ていい?」
 
 涙を溜め、俺たちに問い掛けていた。
 
 でも、俺たちの答えも決まっていた。ずっと前から。
 
「ああ。俺たちは家族なんだからなっ!」
「…そう。みちるも国崎さんも家族だから」
 
 俺たちは家族なんだ、と。
 だから、皆が同じ居場所を求めるんだって。
 生まれてきて初めて、俺はそのことを認識していた。
 血なんか繋がってなくても、それ以上の絆を俺たちは感じているんだから。
 
 俺は、美凪と一緒に少女を抱きしめた。
 
「えへへっ」
「うふふ」
「はははっ」
 
 3人の温もりが混じりあい、とても暖かだった。
 
 
「よっ…と」
 
 俺は少女を肩に乗せ、担ぎ上げた。
 肩車だ。
 
「うわあっ。高いっ高いっ」
 
 少女は大はしゃぎだった。
 
「国崎往人」
「なんだ?」
「…んとね。…好きだよっ。美凪と同じくらい」
 
 頭が柔らかな感触で包まれるのがわかった。
 少女は俺を抱きしめていたのだ。
 
「俺も好きだぞ。みちるのこと。美凪と同じくらいになっ」
「国崎さんとみちる…仲がすごくいいんですね。
…でも、私も負けません」
 
 
 
 背後には夕焼けが迫っていた。
 
 俺たちは歩き出した。
 互いの存在こそが、自分の居場所であると感じながら。
 一度は夢見た「家族」を、自分たちの手で作るために。
 
<終わり>
 
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 いかがでしたでしょうか?
 ちょっと展開が弱いような、オチが弱いような気がしますが、当人はみちるが書きたかっただけなので、結構満足はしています。
 本来なら05年10月に参加した、同人誌即売会に合わせて書いたものなんですが、その時のSSを見かえすと、ちょっと酷すぎたのでかなり加筆修正しました(^-^; おかげで、それなりのものにはなったかと思います。
 
 SSが始まるところが、どういうところなのかがわかりにくいですね。
 まあ、美凪シナリオにみちるエンドがあるとしたら…っていうイメージです。本当ならもっとラブラブな感じにしたかったんですが、流石にそれは無理でしたねw
 
 また感想などあれば、
 
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