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1.はじまりはじまり /おにやん



 マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
 汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
 スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻さないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。
 私立リリアン女学園。 ここは乙女たちの園。


 重苦しい梅雨もすっかり明けて、季節は夏の一歩手前。
 夏休みも間近に迫り、学園の乙女たちも上機嫌・・・にはまだなれません。
 夏休みの前には期末テストが待っているのだから。
 でも、それさえ終われば、後はお楽しみが待っている。

 今日は期末テスト最終日。
 開放感に満ちあふれた乙女たちが、集まって夏休みの計画を立てている中、学園である奇怪な事件が起こりました。
 さあ、これからが長い長い一日のはじまりです。


「はぁー・・・」

 残り二教科だった期末テストが終わり、帰りのホームルームの始まるまでの教室で深いため息がこぼれた。

「由乃さん、どうしたの? ため息なんてついちゃって」

 クラスメートで私の親友。でもって紅薔薇のつぼみロサ・キネンシス・アン・ブウトンである福沢祐巳さんが横から私の顔を覗き込んできた。

「祐巳さんか」

 実は、さっきから祐巳さんが私に話しかけようとしていたのは知っていた。
 でも、私が今抱えている問題があまりに重いので、祐巳さんには悪いけど構ってあげられる余裕がなかった。

「結婚かぁー・・・」
「ふぇ!?」

 暫く黙って、急に声をかけると、祐巳さんはいつもどおりの反応で驚いてくれた。

「よっ、よよっ! 由乃さん!? けっ、けけっ」
「祐巳さん、顔。顔」
「えっ! ・・・あ」
「ふふっ。 祐巳さんってホント百面相ね」
「よ、由乃さぁ〜ん」

 ホントからかい甲斐のある親友だわ。

「お母さんの友達の娘さんが結婚するんだって」
「あっ、なんだ。そう言うことか」
「しかも娘さん、まだ19歳なんですって」
「嘘っ!? だって、19って・・・」
「それでね」

 言いかけた瞬間、教室中に学園には相応しくない音が響き渡った。

「たっ、大変よ!」

 お嬢様らしからぬ登場をしたのは隣のクラスの生徒。突然の登場に教室中の視線が彼女に注がれる。
 彼女は怯んだ様子も見せずに一気にまくし立てた。

「マリア様の像が、マリア様の像が消えてしまったって!!」




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