remove
powerd by nog twitter



「紅葉は――綺麗だな」
「!?
 な、なななな
 なに言い出すんだおま―― え?」
「ああ、見事な紅葉だ。綺麗だ。
 ? どうした?」
「――!!」

「で、どんな怪人にやられたん?」
「景色を褒めたら
泣きながらアンモニアのビンを投げつけてくる」
「そりゃ怖いな」
「ああ、怖かった」
「あーい、次の方ーどうぞー」
「……」
「あーい、そこ腰掛けてくださーい」
「……」
「あーい、どうしましたー?」
「……

        もこ……か?」
「!? 

        ……ゆう、ちゃん……?」
好きだった人。
逢いたかった人。逢えなかった人。

約束した。あの日、「待ってる」と言われた。
私は待ち合わせの場所にいけなかった。
父親の手で、その日、
人じゃなくなっていたから。

「変わらないな」と言われた。
そりゃそうだ、私はもう人じゃない。

「メシでも食いに行こうか」と言われた。
なんだ、変わらないじゃない、笑顔……。

不意によぎった誰かの顔。誰だろう。
「……ってわけなんだ、けど」
「行けば良い」
「…。そっか、良いんだ」
「止める理由があるか?」
「…………そうだね。何言ってんだろね」
「……。
戻れる過去があるなら、戻れば良い」
「……あんたには、ないのか?
「あったかもしれないがな。
この体になる前の記憶は全部消えている」
「…………」
「……泣きすぎ!」
「うぶ、クフゥ、だって…ふふぅぁ」
「あーもーぜんっぜん変わってないじゃん!」
「ぐし…」

(ああそっか、やっぱしアイツ……
あの女泣かせに惚れたのは
似てたんだろなあ、なんとなく……)
「美味かったねー」
「おう、美味かったな」

「……一緒に暮らさないか?」
「――……」
「……覚えてるか、あの日言った言葉だ。
でも、お前……あの日から
行方不明になって、ずっと返事が
聴けなかった。
…………
だから、あの日の続き。
……一緒に、暮らさないか。
返事をくれ。あの日の続きの……」

「ごめん」
「…………」
「あのね、ゆうちゃん。
あの日の続きなんて、ないんだよ。
わかったんだ。
やっぱ私達もう、あのころの私達じゃない。
もうあの日には絶対に戻れない。
……もしも、あの日の続きがあるとしたら。
それは紛れもなく、今しかないんだよ。

だから、あの日の続きの返事。
……ごめん、なさい。

……帰ろ?
ゆうちゃん、帰る家あるでしょ?」
「……知ってたのか?」
「最初に診療所来た時、してたじゃん。
……指輪をさ……」

「……。

……ホントはさ…知ってたんだ。
一度だけね、組織に調べてもらってさ。

……その時にはもう、子供もいたんだよ。

だってのに、ねえ。
未練って嫌だねえ」
「…幼稚園からの幼馴染。
改造される前の私を覚えててくれた
……唯一の人かもしれないなあ。

……
私の老化はいつのまにか止まって、
彼は私より、ずっと年上に見えて……

彼がお爺さんになっても私はこのままだ。
彼が土の下に行っても私はこのままだ!
私の事を、私の昔を……
人間として生きてた頃の私を
知ってた人はいなくなって
人間だった私も
この世界から消えるんだ…!!」
お隣さんの庭の桜が咲いたようだ。

――いつのまにか冬が過ぎたらしい。




あれから、アイツは来なくなった。
びゅう、と桜が吹き込んでくる。


私は駆け出していた。


――……。
「久し、ぶり……」
「ああ」

若干声がうわずって出た気がする。
いかん、落ち着け。

「…………」
「ずっと考えていた。
ようやくそれがまとまったので伝えに来た」
「う、うん……なんだい?」
馬鹿、何を期待してるんだ。
ええとどんな顔してれば良い!

「お前の過去など俺にはわからん。
俺の知っているお前は
悪の組織の幹部だった改造人間。
デモンクラーケンでしかない」

――。

「そして俺は
そういうモノと戦うために生まれた、
仮面ライダーだ」

――。
……。
あはは。
あはははは。

「…………そか。
うん、そう。……そう、だね――……」

ほんと、ばか。
何を、期待して、いたんだ、お前、は。
「だから、俺はお前を見届ける」

「――……え?」

「お前がいつまた悪事を働くとも限らん。
だから俺はお前を見届ける。
お前の過去など俺にはわからん。

いつか前のお前を誰もが忘れても
いつか先のお前は俺が忘れない。

お前が息絶える最期の時まで、
俺がお前を見届ける。

覚悟しろ、デモンクラーケン」
「……はは、あははははははっ!
そう、そうだな! そうだよなっ!
あんたライダーで私怪人だからなっ!

そう……だからさ……

ちゃんと、私の事見張ってとけよ。

私の事、捕まえとけよ……!

目を離したら……
手を放したらっ……!

何するか、わっかんないからな……!

ふ、ふふっ……う…ははっ……

覚えてろよっ、仮面ライダー!」