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『【外伝U】 マイミの冒険』
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01.
「ウメサーン!ウメサアーン!!!」 
食卓の騎士が詰める司令室に突然響くキュート7戦士団団長マイミ・バカダナーの大声にナカサキ・キュフフはイスからひっくり返りそうになった。 
「団長、どうしたんですか!敵襲ですか!?」 
「違う・・・もっとタチが悪い。モモコが・・・」 
「まさか、ついに反乱を!」 

戦場で敵を見るような、いやそれ以上に敵意のこもった目でナカサキを見るマイミ。 
「決闘だ・・・」 
「・・・へ?」 
「私は決闘を申し込まれたのだ。それも、王の面前で!」 
「い、一体どうして?」 
マイミは眼力で虫ぐらいなら殺せそうな視線を向け、ナカサキに話し始めた。 


02.
 事の起こりはキュート戦士団からベリーズ戦士団へ警備の引継ぎを行っていた時だったと言う。キュートからはマイミが代表で王に報告を行った。 
 対するベリーズは団長のシミハム・アセダク・ヘヴィーインフォ、副団長のモモコ・エービス・ヤーデス、ミヤビ・アゴロングの3人が引継ぎを受ける。通常ならキュート側には副団長のウメサンがいるはずだが、急な来客で報告をマイミに任せ自宅へと戻っていた。 
その報告の場でモモコ・エービス・ヤーデスがマーサー王に献上品を持ってきたのだ。 
何でもはるか東の国の菓子で米の粉を練って焼き、大豆から作った調味料で味付けしたものらしい。 
「これはセンベイというお菓子で、この国にはほとんど入ってきません。入ってきてもこのお菓子は大変、湿気り安く食べられたものではありません。そこで、私が作り方を調べ試行錯誤の上、完成させました。お口に合いますかどうか。」 
「うむ、大変だったろう。ありがたく頂くとゆいたい。」 
パリッという音と共に香ばしい香りが口の中に広がる。米のかすかな甘みと醤油の塩気と旨みが溶け合い、なんとも言えず美味であった。 
「モモ、これおいしい!」 
思わずマーサー王は年相応な言葉と共に絶賛する。右手で取った煎餅が食べ終わらないうちにもう一枚左手で取る。 
はしたないですよ、という侍従長の言葉にも耳を貸さず、山盛りの煎餅を食べつくしそうな勢いだ。 

「これは旨い。褒美を取らせるとゆいたい。何がいい。」 
「いえ、陛下。私は戦士ですからこのような物で褒美を頂こうとは思っていませんわ。頂くとしても私にではなく、シミハム団長を始めとするベリーズ戦士団に賜りますよう。」 
「殊勝な心がけである。そのうちみんなに何かご馳走するとしよう。」 

そんなやり取りをマイミは黙って聞いていた。モモコのご機嫌取りは今日に始まった事ではないから、またかという感じだった。次の一言を言うまでは。 
「陛下と共に会食の栄を賜りましたことは、モモコ一生の思い出となります。また、こうしてベリーズ戦士団一同が栄を賜りましたことは、名実共に我がベリーズ戦士団が近衛として陛下をお守りすることをお許しいただいたと思っております。」 
「ちょと、モモ・・・」 
これにはシミハムがあせる。モモコはベリーズが近衛戦士団としてキュートの上に立ったといっているのだ。こうした事は始めててではなかったが、今はマイミの目の前だ。 
マイミの性格からして自分のことをどういわれようと意に返さないだろうが、キュート戦士団全体となると話は変わる。 
キュートは特に戦士たちの絆が深い。仲間愛というより家族愛に近いほどだ。 

「・・・・」 
黙ったままのマイミを見て、シミハムはミヤビと顔を見合わせてホッと胸をなでおろす。 
(マイミがバカでよかったー・・・) 
とその時。 
「モモコ、ベリーズをキュートの上に付けよとは言いすぎだとゆいたい。誰が右手より左手が偉いと決められるのだ。」 
これを見てシミハムたち2人は手で顔を覆う。 
(あちゃー。陛下言っちゃったよ。言わなきゃ気づかないのに。) 
見る見るうちにマイミの顔が紅潮し、拳が震えだす。そして・・・ 
「へいくわぁ!」 
突然の大声にビックリしてマイミを見るマーサー王。 
「な、なんだ、マイミ」 
「私たちキュート戦士団にも献上のチャンスをおあたえ下さい!」 
「マイミ、こんなことで戦士団の優劣は決まらん。くだらない意地は張るなとゆいたい。」 
「いえ!私たちも陛下にご満足いただけるものを、きっと献上させていただきます。幸い、キュート戦士団はこれから1週間非番になります。それでは、失礼します!!」 


03.
「と、言う訳なんだ。どうしていいか分んないからウメサンに聞こうと思って・・・」 
勢い勇んで飛び出してきたものの、そんな献上品の心当たりなどあるはずのないマイミ。 
ナカサキに話しているうちに、どんどん自信がなくなり、最後の方は上目遣いのウルウル状態であった。 
唯一の頼みはお嬢様育ちのウメサンで、ウメサンは自分でもお菓子を作るくらいの知識を持っており、団員にも時々振舞っていた。 
「困ったわねぇ。ウメサンは暫く帰ってこないよ。」 
「えっ、なんで!なんでよ!!」 
「さっき、お客さんが来たって言ってたでしょ。何でも知り合いの所に大事な物を取りにいくから1週間ほど留守にするって。」 
「えー、そんあぁ・・・」 
その場にへたり込むマイミ。 
「ねえ、団長。そういうことなら、同じお嬢様なアイリに聞いてみたら?何かいいもの知ってるかもよ。」 
「そうかっ!そうだね、アイリの家に行ってみよう!」 

詰め所からさほど遠くないアイリの家へ行くと男の子が門の前にいる。 
「やあ、タカーキ。アイリはいる」 
マイミは門のところにいたアイリの弟に声をかけた。 
「あ、マイミ団長!はい、自分の部屋にいると思います!」 
直立不動で敬礼しながら応えるタカーキは、将来食卓の騎士になりたいと思っている。その中でもアイリの所属するキュート戦士団のマイミ団長をこよなく尊敬している。 
「ご案内します!」 
「いや、いいよ。部屋は知ってるから。ありがとう。」 

アイリの部屋へ向かう途中でアイリと出会う。 
「あら、団長。どうしたんですか。今日から非番ですよねぇ。」 
「うん、そうなんだけど・・・ちょっと相談が・・・」 
「あら、そうなんですか。こっちの部屋へどうぞ」 
と小首をかしげながら、自分の部屋へ通す。そして、執事に2人分のお茶を用意するように命じてソファーに向かい合って座る。 
執事がお茶とクッキーを出して下げるとマイミに話しかける。 
「それでどうしたんですか?」 
マイミはナカサキに話した内容をアイリにも話す。 

「それは、困りましたねぇ。お煎餅とか言うお菓子はあたしも食べたことないし。」 
「お煎餅じゃなくてもいいんだ。それ以上の何かないか?」 
「んーー」 
と、いつもの困り顔で眉をしかめて考えるアイリ。 
「そうだ、お菓子じゃないですけど、以前に変わった野菜を食べましたよ。」 
「やさいー?」 
「団長、自分が嫌いだからって、そんな顔しないでくださいよ。美味しかったんですから。」 
「どんなやさいなのおー」 
マイミは既に興味なさそうで、ソファーにもたれかかって上を向きながら聞く。 
「キューカンバーていう、緑色の棒みたいな野菜でスッキーニに似てます。 
私はサンドイッチで食べたんですけど、生の薄切りをマヨネーズと一緒にサンドしてました。 
凄く瑞々しくて歯ごたえが良くて美味しかったですよ。 
社交界ではミルクティーと一緒にお茶の時間にいただくのが流行り始めてます。 
これなら陛下も食べたこと無いんじゃないかなぁ。」 
「それでどこにあるのー」 
「もう、ちゃんと聞いてくださいよ。 
それがピチレモン国で栽培を始めたらしいんですけど、季節がもう終わりに近いんですよ。 
急がないとなくなるんじゃないかな。」 
「なっ、それを早く言えよ。じゃあ、早速行ってくる!」 
マイミはソファーから飛び上がり駆け出してしまう。 
「いってらっしゃーい」 
アイリはいつものことの様に平然と見送る。 
そこへ門のほうから「アイリありがとー」というマイミの声が聞こえてくる。 
(でもまさか、あのまま走っていくわけじゃないでしょうね???いくらマイミが???) 
「まあ、いいか。マイミなら死なないでしょうしね。さて。タカーキ!稽古するわよ!」 


04.
次の日の夜、ピチレモン国の王城の前に行き倒れる美丈夫。 
無理も無い、一日以上走り続け、普通の足なら3日以上かかる道のりを1日半で走ってきたのだ。 
いくら体力自慢のマイミでも、食事も摂らずに走り続ければ倒れもしようというもの。 
発見した衛兵は綺麗な顔立ちの戦士のいでたちをした行き倒れという、 
複雑なものをどう処理したらよいい思案のすえ、今この国で一番頼りになる戦士を呼びにいった。 
「ゆー、この人?」 
「はい、身元もわからずどうしてよいか。見るからに強そうなので、私の手には余ると思い、夜分ではありますが手を貸していただきたいと思います。」 
「うん、いいよ。今日は訓練も軽かったし。ん?」 
リシャコ・ピザハブは顔を覗き込むと、眉をハの字にして怪訝な表情になる。 
「マイミ?」 
いるはずの無い人物が、しかも絶対に倒れるはずの無い人が目の前で行き倒れている。 
「えっあのんーっとねあのねあば・・・」 
「あ、リシャコ殿、落ち着いてください。この人は誰なんですか。」 
ピチレモン国の衛兵長はあばばる寸前のリシャコに質問して順に聞きだそうとする。 
「あ、うん、この人はマイミ・・・」 
「マイミというと、えーーー!あのキュート戦士団団長のマイミ・バカダナー殿ですか?!」 
「うん、そう。でも、何でこんなとこにいるんだろう?」 
と、持っている三叉槍でマイミを突付く。 
「・・・ぅん」 
とかわいい声を出して悶えるマイミを面白くなって突付きまわすリシャコ。 
「うわっ!」 
「きゃあ!」 
いきなり起き上がったマイミに驚くリシャコと一同。マイミはファイティングポーズをとってあたりを見回す。 
「どうしたのマイミ?」 
「あれ、リシャコ?あっそうかリシャコ、ピチレモン国に来てたんだっけ。」 
「マイミ、どうしてこんなとこで倒れてたの?」 
「あっそうだ。ずっと走ってきたからおなかへっちゃって。えへへ、なんか食べさして。」 
「そうじゃなくて、何でピチレモンにきたのよ!」 
「それは食事しながら・・・」 
「しょうがないなぁ、家にきて。なんかあるかも。」 

リシャコは保安官時代に使っていた家を今回の派遣でも使っていた。 
狭くはないがさほど広くもない。大柄なマイミが入ると一気に一杯になったような気がする。 
リシャコはマイミに先ほど済ませた夕食の残りのシチューと買い置きの焼き締めたパン。 
それに、ピチレモン特産のフルーツを山盛りにして出した。 
「マイミは良く食べるから今あるもの全部だよ。」 
「わー、ありがとうリシャコ!いただきまーす。」 
「ところで、何しにきたの?」 
「うん、それがね・・・このシチュー美味しいね。」 
「そうでしょう!それね昔食べたことあるのを、一生懸命作ったの。 
うんと遠い国の味噌っていう調味料を使ってるんだ。 
本当はそれに小麦粉で作った麺を入れるんだけど、これは何度やってもうまくいかなくて・・・」 
「ふーん、でも、凄く美味しいよコレ。」 
「へへーーん。」 
自分の好物を褒められてまんざらでもないリシャコだが、話しは一向に進まない。 
2〜3人前はあった食事を全部たいらげてから、マイミが切り出す。 

「実はね・・・」 
ここでも今までのいきさつをリシャコに説明する。 
「モモコも相変わらずね。マイミ気にすること無いのに。」 
「いや、今までもずっとモモコにはやられっぱなしだから、今回はやっつけたいのよ!」 
拳を握り締めて西の空を見つめるマイミ。瞳には炎が・・・ 
「それでその野菜はなんていう名前なの」 
「えーっと、キュー何とか」 
「何とかって何よ。分んないの?」 
「うん、忘れちゃった。エヘヘ・・。緑色で棒みたいな形してるって」 
人差し指で頬っぺたを掻きながら上目遣いでリシャコに説明する。 
「もう、年下に笑ってごまかさないで。それじゃあ、明日みんなに訊いてみるね。」 
「ありがと、リシャコ」 
「じゃあ、そこのソファーでいい。」 
そういって、毛布を手渡す。 
こうしてマイミのお休み2日目が終わった。 


05.
翌日の朝・・・ 
リシャコが普段、訓練している兵士達に頼んでマイミが欲しがっていそうな野菜を探してもらう。 
広くは無いといっても一つの国だ。一日で探せるかどうか解らなかったが、みんなリシャコにいいところを見せようと張り切っていた。 
「あのう、マイミ殿・・・」 
「なあに?」 
リシャコの訓練を受けている騎士団の中隊長が恐る恐る声をかける。 
「マーサー王国で1・2を争う戦士であるマイミ殿の腕前を拝見したいのですが・・・」 
「えー、でも悪いけどここにいる人たちじゃ私と試合にならないよ。 
怪我しちゃうかも知れないジャン。」 
「そこは、承知しています。私たちも覚悟の上です。」 
コレはリシャコが止める。 
「まってまって!マイミはバカ・・・みたいに強いから死んじゃうよ。」 
「でも、せっかく目の前におられるのに・・・一目でもその強さを見てみたいんですが。」 
「じゃあ、私とリシャコが試合してみればいいんじゃない。暫く手合わせしてないし。ね。」 
「おお、それはいい!是非お願いします。リシャコ殿!」 
「むー・・・」 
マイミとの手合わせはいやではないが、いつもハードなので疲れるのだ。だが、この雰囲気では断れない。 
しぶしぶ刃の代わりに布を巻いた訓練用の槍を手にマイミに向き合う。 
「じゃあ、どっちかが膝をつくまでね。倒れるまでやったら日が暮れるから。」 
「いいよ、じゃあそこのサラシとって。」 
と、拳に幾重にもサラシを巻いていく。 
巻きおわると、二人ともに布にインクをしみこませる。 
コレでドコを打たれたのか、切られたのかが解るようにするのだ。 

マイミは左手を前にファイティングポーズをとる。 
ガードはあまり上げない。 
試合と割り切れば顔面を守れば勝機はあがるが、実戦ではどこを切られても負けだ。 
そのためには偏った防御は不利になるばかりでメリットは無い。 
マイミはそれを身をもって示す。 
リシャコも始めは腰の高さで槍を構える。攻守一体となった構えで隙をうかがう。 
まず仕掛けたのはリシャコ。長いリーチを生かし突きを繰り出す。 
まずは左足と右肩、体の対角線を狙う。 
マイミはそれを見切り右肩にきた突きを拳で外にはねる。 
槍が流れたところで間合いをつめ正拳突きで鳩尾を狙う。 
リシャコははねられた槍を首の後ろでまわし、逆の石突で拳を払う。 
常人ならその痛みだけで戦意を喪失しそうなものだが、マイミは表情に出さない。 
払われた腕を素早くたたみ、左足を軸に後ろ回し蹴りを繰り出す。 
リシャコもそれにあわせ、噛み合った歯車のように回り槍で薙ぐ。 
足刀と槍の穂先がお互いの顔を掠める。 
擦った後で赤くなるリシャコの頬、インクで青く染まるマイミの頬。 
兵士達はここまでまばたきすら許されない。 

ここから敵を深海に沈めるリシャコが攻勢にでる。 
自分の血液で溺れる程度の傷を肺に負わせるという戦法を取る彼女。 
当然、その槍捌きは正確無比である。 
ジャブを放つマイミの右拳の小指を狙う。 
さすがのマイミもこの痛みには一瞬ひるんだ。 
その隙をつき、右わき腹に突きを入れる。 
次が右ひざ、最後に鳩尾を突く。狙い違わず正確にスタンプを押して行く。 
鳩尾を抱えて崩れそうになるマイミにトドメを刺そうと 
喉の下につきを放つが、コレは読まれていた。 
半身に身体をひねったマイミが槍を脇に抱え込み、力任せにへし折る。 
一気に間合いをつめ左のショートアッパーをわき腹に放とうとした瞬間。 
「まった!まいった!」 
リシャコが負けを認める。 

「まったく、槍を折るなんて、練習だって言ってんのにすぐ本気になるんだから。」 
「ああ、ごめんごめん。ついいつもの癖でさ。今日は引き分けかな。あたしも良いの結構貰ったし。」 
「嘘ばっかし、ポイントずらして受けてたくせに。」 
「はは、やっぱばれてたか。」 
マイミは笑いながら兵士達に自分の身体を向ける。 
膝の一撃は太股の外側、鳩尾の一撃は身体に無く左腕、 
わき腹はかすかにかすった後があった。 
「分った?戦場じゃ絶対に傷を負わないで戦うなんて出来ない。 
それでどうやって生き残るか。 
それはこうして致命傷にならないところを切らせればいいのよ。 
そうすれば無理に避けて体制を崩すよりも生還できるわ。」 
兵士達は黙って頷く。 

「特にこの国は復興の最中だし、一人の命は凄く重い。 
腕を無くそうが足に怪我をしようが生きて帰ったやつが一番強いのよ。」 
「マイミが言うとうそ臭いよ。底なし体力なんだから。」 
リシャコを横目で睨んでから兵士達に続ける。 
「それに、リシャコの対応も見習ってね。」 
「すぐに降参してしまいましたが・・・私たちがすぐ降参したら戦争に負けてしまうのでは?」 
「それは違う。見てのとおり、一対一では私たちに君達は絶対に勝てない。 
そこで、意地を張って闘って死ぬのは無駄死によ。 
そうならないようにするのは、私たち指揮官の役目。 
兵士に死ぬまで闘えという指揮官は無能だと私は思うわ。」 
「それに、同盟国は最後まで守るとゆいたい。」 
リシャコがマーサー王の真似をしたのでマイミも兵士達も笑い出す。そこへ 
「はは、コレはありがたい。それに、マイミ殿の言葉はキモに命じよう。」 
「これは、国王陛下!」 


06.
訓練場に姿をあらわしたのはピチレモン国王であった。急の来訪に戸惑うマイミ。 
「そう堅くならなくてもよい。今日はしのび出来たんじゃろう?であれば、わしもしのびじゃ。」 
「はい、ありがとうございます。」 
さすがのマイミでも一国の王に対しては襟を正す。 
「ところでマイミ殿、お探しの物はコレじゃろう。」 
そう言って傍らの兵士がカゴに入った緑の曲がった棒状の野菜を差し出す。 

「最後の何本かが城の食料庫に残っておった。兵士達に稽古を付けてくれたお礼じゃ。」 
「あ、ありがとうございます。そんな、王様自ら持ってきていただけるなんて。」 
「いやいや、こちらこそマーサー王には世話になっておるから気にせんでくれ。それにわしも、マイミ殿を一目見たくてな。さすが二人とも食卓の騎士じゃ。」 
「恐れ入ります。」 
マイミが珍しくかしこまって言う。 
「その代わりと言ってはナンだが、もう少し兵士達に稽古をつけてやってはくれぬか。 
リシャコ殿も毎日頑張ってくれておるが、違う達人の指導を受けるのも新鮮でよいじゃろう。」 
「あっと、えぇ、その・・・・」 
口ごもるが、そこは基本的に人が良く面倒見の良い姉御肌なマイミ。 
まして、国王じきじきの頼みを断れようはずもない。 
「あまり長居は出来ませんが、私でよければ、お手伝いさせていただきます。」 

「じゃあ、10人づつ組になってかかってきて。得物は自分の得意なもので良いよ。あっでも訓練用にしてね。今日は帰らなくちゃいけないから。」 
「でも、いくら訓練用でも、怪我でもしたら大変です。10人一緒なんて・・・」 
「マイミだから心配要らないよ。思いっきり打ちかかって。力抜いたりしたら怪我するのは自分達だもん。それに、マイミに怪我させる程の実力ならすぐに隊長に任命するよ。」 
リシャコが真顔で言う。 
「そ、そうですか・・・」 
半信半疑で隊列を組んでマイミを包囲する兵士達。まずは剣を持った部隊が打ちかかる。 
左右から2人づつが打ちかかるとマイミは平然と腕で受け、一足で間合いをつめ肩で兵士達を吹き飛ばす。 
兵士は飛ばされ、背中から壁にぶち当たる。 
「何?今の打ち込みは!気合が入ってない!訓練だろうと敵を打ちのめす覚悟で来い! 
 じゃなきゃ、怪我するのはあんた達よ!リシャコから何習ってんの!」 
兵士達も今度は本気で打ちかかる。 
槍兵が遠間から突きを放ち、受けたと見るや剣兵が上下に打ち分け攻撃する。 
コレはマイミもすべてを受けきることは出来ず、頭部を中心に防御した。 
足や腹、背中などには打撃を受けたがけろりとしている。 
「まだまだ甘い!いくら当てても鎧もつけてないあたしにダメージを与えられ無いんじゃ、戦場じゃ役に立たないよ。」 
この調子で延々と兵士達を鍛えるマイミ。 
気がつけば日もとっぷりとくれていた。 

「いけなーい、もうこんな時間!急いで帰らないと!!」 
マイミは休憩中に水を飲みながら急に思い出したように行った。それを聞いた国王は 
「今日は大変感謝しておる。ところで、何でこの野菜を探しておったのかね? 
 良かったら教えてくれんか。」 
「それが・・・」 
マイミは今までの経緯を国王に話す。 
「そうじゃったか。それは大変じゃのう。じゃが、このキュウリは以前にわしからマーサー王に送ったことがある。」 
「えっ、そうなんですか」 
と言って、がっくり肩を落とすマイミ。 
「すまぬのう、マイミ殿。じゃが、その煎餅と言うのが菓子なら、 
 お茶などが欲しくなるんではないかな? 
 真っ向勝負ばかりでなく、相手の力を利用するのも大切じゃと思うぞ。」 
「あっそうか!そうですよね。ありがとうございます。国王陛下。 
 じゃ、早速探しに行きます!」 
そういって、練兵場を飛び出していく。それを見送った王達は・・・ 
「忙しい方じゃな。リシャコどの、王国の方々はみんなあのような人たちなのかね。」 
「いえ、マイミは特別です。マイミはバカ・・・正直なので、いつもあんな感じですけど。」 
「なんとも不思議な魅力のある方じゃ。強いだけではない。 
 何故か助けてあげたいと思うのはなんじゃろうな。 
 それに、あのように正直な方に全幅の信頼を得ているマーサー王の人柄も分るようじゃ。」 


07.
ピチレモン国を後にしてマイミが自宅に帰ったのは非番も6日目に入った朝であった。 
流石に疲れがたまっていたらしく、帰りは二日かかってしまった。 
王への献上品は自分で考えても無駄だと、最初から諦めており帰ったらまたアイリの家へ行こうと思っていた。 
「まだ、日も昇らないし少し寝てから行ったほうが良いよね。」 
と、ベットにダイビングをかますマイミ。そのまま、一瞬にして寝息を立て始める。 

・・・・・・案の定。 

「うあぁぁぁーーー!!!ねーすーごーしーたー!!!アイリーーー!!」 
と、気づいた時には夕方になっていた。 
そのまま、着の身着のままで家を飛び出しアイリの家を目指す。 

またまた、玄関の近くにいたタカーキが最初に気づく。 
「何の音かな?地鳴りみたいな・・・」 
そこに見たのは戦場でも見せないような鬼の形相のマイミが土煙と共に全力疾走で向かってくる。 
「ひっ・・・」 
タカーキ、一生の不覚。ちょっとちびってしまった。幼年学校のみんなには絶対にナイショだ。 

アイリの部屋の扉を蹴破らんばかりの勢いで開けると。 
「アイリー、どうしよう、けんじょう・・ひ・・ん。あれ」 
そこにはアイリとナカサキの他に、オカール・ブラウンコッチェビ、マイマイ・チチハエ・タラステル、 
カンナ・ディスライクハンドと副団長のウメサン・アラブ・ソイビーンとキュート戦士団が勢揃いしていた。 
「みんなどうしたの?」 
「マイミが困ってたみたいだからみんなで相談してたのよ。マーサー王への献上品を何にするか。」 
戦士団一の切れ者と誉れ高いマイマイが静かに言う。 
「それでね・・・」 
ウメサンが何かを言いかけたとき 
「ごめん、みんな!私が一時の怒りにまかせてあんな事言ったばっかりに、 
キュート戦士団の全員に恥をかかせることになっちゃって。 
でも、我慢できなかったの!モモコにあんな事言われて悔しかったの。でも、いいのが全然見つかんなくて・・・」 
そういって、蹴破ったドアのほうに向かいみんなに背中を見せてしまった。 
肩がかすかに震えている。その肩に向かってアイリが語りかける。 
「団長。団長の決めたことには戦士団全員が従います。それが戦場であろうと私事であろうと変わりません。 
それほどに私たちはアナタを信頼しています。ですから明日は胸を張って王のところへ行きましょう。」 
マイミはそれを聞きがっくりと肩を落とす。みんなの肩も微かに揺れている。 
その肩を優しくウメサンが抱き 
「マイミは私が送っていくね。みんなは明日いつもどおりに引継ぎに来て。」 
みんな思い思いにうなづく。 

家までの帰り道。コレがマイミかと思うほど元気なくトボトボと歩く二人。 
「ねえ、マイミ。あのね・・・」 
話しかけたウメサンに涙を両目一杯にためたマイミが 
「ふぐぅ・・・ウメサン・・・どうしよう。 
私のせいで・・私のせいで・・みんなに・・うえぇぇぇ・・・」 
そういってウメサンの胸に顔をうずめて泣き出してしまった。 
「うぅ、ひっく、うえーーん・・」 
「大丈夫よマイミ。大丈夫。アイリも言ってたでしょ。みんなで行けば大丈夫って。 
だから、もう泣かないで。天下に勇名を馳せるマイミ・バカダナーともあろうものが。」 
そういって、優しく髪を撫であやすウメサン。家に着く前には泣き止んだものの、いつもの元気な笑顔は戻らなかった。 


08.
翌日、王の謁見に間にはキュート7戦士とベリーズのシミハム、モモコ、ミヤビが引継ぎのため控えていた。 
「みんな、ご苦労様とゆいたい。」 
平時の略装で現れたマーサー王に対し立礼で迎える一同。 
このとき立礼を認められているのは食卓の騎士のみで位の高い貴族であっても跪く跪礼が普通である。 
ベリーズからの報告と引継ぎの後、マイミが王の前に進み出て跪く。 
「マーサー王、前回の引継ぎの時に申し上げました献上品なのですが・・・」 
「それならば既に受け取っている、マイミ。良いものを貰った。礼を言うとゆいたい。」 
あっけにとられるマイミ。思わず口が開きっぱなしになる。 
「マーサー王、キュートからの献上品はお茶でございます。これも遥か東方の国の物で緑茶と言うものです。 
モモコから献上された煎餅がいたく気に入られたとの事でしたので、 
同じ国の茶ならば一層引き立てると思い献上させていただきました。お気に召せば幸いです。」 
副団長のウメサンが丁寧に言上する。 
「うん、モモコにも申し付けて煎餅も用意させているのでみんなで食べよう。」 

別室、と言うより食卓の騎士の所以たる丸い大きなテーブルのある部屋。そこには他のベリーズ戦士も揃っていた。 
一番奥にマーサー王がすわり両隣にそれぞれの団長が座る。 
そこから各戦士団が両脇を固め王の正面にはリシャコのために席が空席となっていた。 
テーブルには山盛りの煎餅とが皿に盛られている。 
お茶は嗜みのあるウメサンが入れる。運ぶのは一番新参のカンナだ。みんなに行き渡った所で 
「では、いただきます。」 
「いただきまーす!」 

王の発声にみんながあわせる。煎餅を食べてお茶を飲む。 
「このお茶は紅茶と比べて飲みやすいとゆいたい。渋みと苦味はあるけどまろやかだね。」 
「お砂糖とか入れないんだね。」 
「これは食事なんかにもあいそうだね。」 
みんなの意見に対してウメサンが説明する。 
「これは緑茶と言ってそのまま飲むお茶です。 
お茶の葉自体は紅茶と同じですが乾燥させるまでの作り方が違います。 
紅茶のように熱湯ではなく少し温めのお湯で入れると香りがいいようです。」 
そんな中、一口飲んであまり手をつけないものがいる。 
「モモコどうした。あまり飲んでないようだが、私からのもてなしは気に入らなかったかとゆいたい。」 
「いえ、そんなことはございません。いただきます。」 
そう言うと一気に飲み干す。そして王から顔を少し背け眉をしかめる。 
モモコは苦いものや渋いものが苦手なのだ。この後、モモコは一切緑茶を飲まなくなったと言う。 

「この贈り物は大変ありがたい。モモコに貰った煎餅がより一層楽しみになった。 
別なお菓子なんかを貰ったらどっちにしようか迷ってしまうからね。 
煎餅に合うお茶なら楽しみが倍になったとゆいたい。みんな、ありがとう。ところでマイミ。」 
マイミは複雑な表情でお茶を飲んでいたがハッと顔を上げる。 
「リシャコのところに行ってきたのか?手紙が来ていたよ。2通。」 
訳が分らずぽかんとしていると。 
「リシャコとピチレモン国王からだ。どちらにもマイミに大変世話になったからよろしく言ってくれと言う内容だったよ。 
今回の贈り物で一番嬉しかったのはこれだとゆいたい。」 
「私からもお礼を言います。リシャコったら全然手紙をよこさないから心配してたのよ。 
ついでみたいに全員に手紙を送ってきたから嬉しかったの。ありがとう、マイミ。」 
ベリーズを代表してシミハムがお礼を言う。 

お茶会が和やかに終了した後、マイミがキュートにみんなに頭を下げる。 
「みんなありがとう。おかげで褒められちゃった。なんか悪いみたい。何にもしてないのに。」 
「それは大丈夫よ。アレはタイミングよく親戚のうちで貰ったものなの。それで出かけてて、 
帰ってきたらこの話しをアイリから聞いて、こっそり王に献上してたのよ。」 
とウメサンが説明する。 
「それに昨日は大笑いしたからな。それでチャラだよ。」 
オカールがはやし立てる。 
そう、昨日みんなが微かに震えてたのは泣いてたんじゃなく笑いをこらえてたのだ。 
説明しようにもマイミが勝手に思いつめて勝手に話しを進めるから、 
あえてみんなそのままにしてたら、可笑しくなってしまったのだ。 
機転を利かせてウメサンが送っていかなかったら爆笑を見られていただろう。 
事情を知ったマイミの顔が気恥ずかしさで真っ赤になる。 
「もうっ!みんなたらひどいじゃない!!」 
「わー!逃げろー」 
いくらマイミが速いといってもそこはキュート戦士だ。 
一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げ去る。マイミも追いかけていなくなった。 
一人残ったウメサンがつぶやく。 
「いつものこととは言え、非番は大変だよ。マイミはバカだからなぁ・・・・」 



〜完〜 

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