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Reports ソテツ+ガンプラ=ジャブロー

ソテツ飼育記録

 2000年の初夏に、「いなげや(スーパーマーケットだ。・・・この呼び名もなんか懐かしいな)」に晩飯のタネを買いに行った時のこと。
 レジの前で小さい鉢植えの特売を発見。1個¥200くらいだったので、なんとなく置き物にいいだろうとソテツをかったのだが、これが思いがけず「元気モリモリ」って感じで成長してしまった。たぶん、私の中に眠っていたガーデニングの才能が呼び覚まされたのだろう。
 これからガーデナーや植木職人を目指す方の一助になればと思い、ここにその飼育記録を公開しようと思う。
 ソテツの飼育はまさに人生のドラマ。上記以外の方々にも是非御一読をお願いしたい。

1. 巡り逢い

 その日、私はパソコン用品を買いに調布のPCデポに向かった。この時点では、まさかこれから自分に運命的な出合いが待ち受けているとは想像もしていなかった。PCデポに着いてバイクを駐輪場に入れている時、ふと、向いにスーパーいなげやが新装開店していることに気付く。私の心に特別な予感めいたものが去来するようなことはなかったが、開店セールで安いだろうという予想はできたので、帰りによって晩飯の為の惣菜でも買うことにしようと決意したのだった。
 しかし、実際にはたいして安くなく、品揃えもあまりよくない。もしかしたら、開店初日とあって目玉商品はすべて売り切れていたのかも知れない。とにかく、ちょっと幻滅しつつも適当なものを買ってレジへと向かうと、¥200くらいで観葉植物がたくさん売っている。しかし、安いだけはある。なんかちょっとみすぼらしい葉っぱが並んでいた。そのなかで、ソテツだけは結構インテリアくさい雰囲気を保持していたので、買ってみることにした。
 その日は帰って、ソテツを棚に置き、飯を食って寝た。予想していなかった運命的な出合いは、やはりなかった。俺はソテツに運命を感じる程寂しい人間ではない。

2. 束の間の平穏

 ソテツは、部屋の隅の低い棚の上に置いた。ここは、私のガンプラコレクションを陳列している場所だ。俺のイメージでは、ここは昨日まではただの格納庫だったが、今日からはジャブローになった。特に明るい緑の迷彩(光沢あり)に塗装したハイゴッグとの相性はバッチリだ。

3. 突然の別れ

 私の部屋の一角がジャブロー(註:地球連邦群が南米に極秘に建設した基地。熱帯雨林の地下に広がる巨大な空間である。)になってから1ヶ月ほどが過ぎていた。最初のうちはにやにやしながら眺めたり、配置を替えたりしていたのだが、それもしなくなっていた。飽きたので。
 しかし、ある日会社から帰った私は、重大な異変に気が付いた。なんと、常緑の熱帯雨林であるはずのジャブローが褐色に染まっている!枯れているのだ!・・・思えば、ソテツに水をやったのは一度だけだった。しかも、ここは部屋の角でありまったく陽が当たらない。説明書きには「陽当たりのいいところに置いてください」と明記されていたのを知っていたのに・・・。私は、自分があまりにも不精だったことに気付いた。

 しかしもとが¥200くらいなので、「まあ、いいや。花はないけどドライフラワーとして飾ればいいだろう。」と考えた。もう、水をやる必要もなくなり、かえってインテリアとしては扱い易くなったぐらいだ。色がかわったぐらいがなんだ。それが私の素直な気持ちであった。

4. 孤独

 しかし、ドライフラワーはよくなかった。時々、枯れたソテツを見ると嫌な想い出が蘇るのだ。ソテツがジャブローのように青々としていた頃、私には大切な人がいた。ソテツとともに愛も育んでいくつもりだった。だが、現実は厳しい。束の間の春は過ぎ、芽生えかけた愛は枯れてしまった。そして、愛と言う名の光を浴びる事ができなくなったソテツもまた、枯れていった。¥300のソテツに愛を託した事が間違っていたのだろうか?
 そして、枯れたソテツ(=ジャブロー)は、私にとっては花開くことのなかった愛のモニュメントとなった。
 結局、捨ててしまおうかと思いながらそれもできず、ジャブローは枯れたままそこにあった。それは私には核の冬のように寒い景色に思えるものであった・・・。

5. 再生 -Rebirth-

 枯れたジャブロ−の景色と共に沈んだ生活を送っていた私も希望を取り戻しつつあったある日。
 眠る前にふと枯れたソテツを見た私は、小さな異変に気が付いた。枯れた葉の間に、茶色い毛の固まりのようなものがある。こんなものが前からあっただろうか・・・。疑問に思いながら数日を過ごすうちに疑問は期待へ、そして確信へと変わっていった。
 「・・・これは、芽だ」

 なんということだ!ソテツは死んではいなかった!日光と水分の不足で危機的状況に陥ったソテツは、日光不足で光合成を行えずエネルギーを消費するのみの器官となった葉を枯らして休眠し、来るべき復活に備えていたのだ。
 私の行動は早かった。すぐにソテツを窓辺の陽当たりのいいポジションへと移動させ、枯れた葉を切断した。そして「百円均一」で見かけたことのあるアンプルの液肥を買い、鉢に注入した。
 それから数日後。芽は確実に伸びていた。1本の茎が15cmほどの長さになると、ゼンマイのように丸まっていた先端から葉が開きはじめた。

 ジャブローに再び春が訪れたのだ・・・。

5. ゆかいな仲間たち

 いまやすっかり隆盛を取り戻したジャブロー。いや、むしろ以前以上だ。茎は1本しか出て来ないのだが、なにせ巨大になった。高さ、一枚の葉の大きさとも以前の5倍はある。これが百円ドーピングの効果なのだろうか?
 しかも、それだけではない。いつのまにか鉢の横からクローバーが生えているではないか。最初は極小さなものが1本だけ出ていたのだが、それはみるみる増えて、いまは立派な株になっている。しかも、これも葉がでかい。3枚の葉がおさまる円弧を描くと、その直径は実測でちょうど10cmはある。そろそろ近くで放射能が漏れていないか検討した方がよさそうだ。

 加えて、街頭でティッシュと一緒に配っていた何かのハーブの種を植えておいたところ、これも見事に成長している。名前がわからないので、私はこの植物を「カモミール」と呼ぶことにした(ハーブと言うとこれぐらいしか思い付かない)。
 カモミールはついに花をつけるに至った。花は白くて、非常に小さいものである。
 放射能の影響はとりあえずなさそうなのでひと安心だ。

 いま、私には未来が見える。甦ったジャブローが暗示する未来が。・・・一度は枯れた愛は、より大きくなって復活するだろう。しかも、ついでに小さな愛が2つも付いてくるらしい。・・・すごいじゃないか。俺モテモテ。

追記:それから半年くらいは経つが、見えたはずの未来は蜃気楼のように霞んでいくばかりです。