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Reports 巨大イカ 実在の怪物

GIANT SQUID 巨大イカ −実在の怪物−


Report by Jobjohn, Mikey

怪物って?

怪物というのはどんなものを指して言うのだろう? 辞書によれば、ばけもの、あるいは理解しがたいほどの不思議な力をもっている人や物とか。
しかしながら、英語の[monster]であれば、「巨大な」という意味もあるらしい。日本語でも、そういう使い方はしばしばすることがあると思う。

つまるところ、あまりに巨大なモノはそれだけで「理解しがたい」。他の部分が十分に常識の範囲内に納まっていても、「巨大過ぎる」、その一点のみでも常識を突破したものは怪物、モンスターと呼ばれ規格外の存在となる。

そしてそれを見事に体現する生物こそが巨大イカなのだ。


怪物と海のロマン

そもそも、巨大な生物は陸上よりも水中に生活するものが多い。
その主な理由は、大きな体には大きな重力が働くということにある。如何に体が大きくなっても、基本的に現在の分類体系に所属する類の生物では、骨が鋼鉄でできていたり筋がケブラーでできていたりはしない(当たり前だ)。
骨の強度は太くなれば上がるが長くなっても上がらないだろうから、おおざっぱに言えば断面積に比例していると考えていいだろう。だが、その骨が支えるべき重量は体積に比例する。同じ構造の生物が単純に2倍の大きさになれば、4倍の強度の骨で8倍の重さを支える必要があるってことなので、大きな生物は構造物として自重に耐えることが難しくなってしまう。
水中であれば、浮力が働くのでこの問題がだいぶ軽減されるということになる。水中の方がより巨大な生物が存在可能と思われる理由はここにある。

余談だが、巨大な生物はその大きさに比例して機動性も上がるというイメージがあるが、それは違う。大きな体躯を持つ生物ほど、より大きな慣性と重力と闘わねばならないので、その動作は緩慢になる。ただ、一歩を踏み出すのが遅かったとしても、その一歩が大きいというようなことはあるので、単純に「体が大きいほど鈍い」とはならないが、けして大きいことは運動能力に有利にばかりは働いていないのだ。例えば、昔の映画でキングコングというのがあり、体高10m以上はありそうなマウンテンゴリラが高層ビルに登ったりしていたが、ああいうことは非常に危険だ。というか無理だ。巨大な生物にとって、「落下」することは避けねばならない出来事だからだ。落下の衝撃は、自らの巨大な重量の弊害をもっとも端的にもたらすものだ。きっと、あの巨大なサルは数メートルの段差から飛び降りたら足の骨どころか下手すれば背骨までバキボキになってしまうぞ。
そもそも、あの体重を垂直な壁で支えるのに必要な手足の握力と摩擦はとてつもない筈で、それに手足の骨や表皮の強度が耐えられるかが甚だ疑問だ(映画にケチをつけてるようだが、エンターテイメントはアレもOKだとは思う。ジュラシックパークとかもね)。
さらに余談だが、筆者はこの事実に、小学生の頃にTVで放映されたキングコングを見て気がついた。在り得ないと。高層住宅の7階からゼニガメを落とした時に怪我しただけで死ななかったが、人が飛んだらまず死ぬよな?アリなら・・と考えたのが発端だ。すげえ!俺天才!!ビバ俺!・・・そうでもないか。まあお利巧なチビッコだったという自慢話がオチなわけだ。可愛くないとか言わないでくれ。

さて、そんなわけで水中には巨大な生物が生息可能なわけだが、生きものは重力に負けないだけでは生きていけない。そう、栄養を摂らないことには、重力に勝って還元に負けるというか、つまり生物として存在し得ない。
だが、大きな体を維持するにはたくさんの栄養が必要だ。つまり、餌が豊富な・・・かなり豊富な環境でなくてはいけない。
他にも問題はある。水中に潜って重力に耐えられるようになり、幸いなことに餌もたくさんあったとしよう。それでも、生物は・・・怪物であれ何であれ、この世に生きているものであれば、やがて死ぬ。それで終わりにならない為には、生殖して子孫を残す必要がある。
そして、ある程度高度な生きもの(映画「ブロブー」のような単純な物体でない限り)は有性生殖を行うので、相手が必要だ。そして、子が生まれる・・・と、こういうことは、2匹で子を2匹作って・・・とはできない。近親交配は様々な危険をもたらすからだ。
例えば、劣性遺伝子の問題だ。劣性、というのは、たまに取り違えられるが、能力の優劣ではない。ある形質について、対になる他方の遺伝子に対してどちらが表に現出するか?という点において劣勢ということだ。普通、動物は両親から一組の遺伝子を貰うので、2組の遺伝情報を持っている。例えば、目が青い親と黒い親の子は、青の遺伝情報と黒の遺伝情報を持っていて、それを両方持っている時に実際には目が黒くなると仮定するなら、この場合は「黒が優性、青が劣性」ということだ(かなり極端に端折っているので理科のテストの前にはちゃんと教科書で勉強してくれ)。どっちが格好いいとか機能が優れているという問題とは別の話なのです。
目の色ならどうってことないが、病気の遺伝子などが劣性の遺伝子として存在しているとき、両親からその遺伝子を貰ってしまうとその病気が発病してしまうかも知れない。近親交配ではそういうこと(他にも、種が存続するのに不都合ないろんなこと)が起こりやすくなるので、生物の集団が存続するには一定の数が必要なのだ。
さて、話を戻すと、ただでさえ大食いの巨大生物が、そんな何匹もいたらやっぱり餌が足りなくなってしまうぞ・・・そんなわけで、巨大な生物は陸上でも沼でも湖でも、もちろん空でもなく、地球上でもっとも広々として、餌も多くて浮力も大きい場所である海にいるのだ。

わかっている方には少しくどい(あるいは物足りない)説明だったろうが、これで「海のロマン」という言葉の意味がチビッ子諸君にも多少は掴んでいただけたかと思う。


イカでなくちゃダメな理由

では、海の巨大生物といえば何がいるか?
クジラ。サメ。やはりこのあたりが筆頭だ。種にもよるが、紛れもなく巨大と呼ぶに相応しいボリュームを誇り、確かに迫力もある。だが、イマイチだ。凄いのは間違いないが、怪物というイメージは弱い。なぜなら、クジラやサメは大きいものと決まっているからだ。
大きくて当然のものがいくら大きくても、感動は少ない(本当に間近に見たらかなり感動するとは思うが・・・)。
とても身近な例で考えてみよう。

それでは、目を閉じて想像してください。
・・・いや、やっぱ開けてよし。字が読めないからな。とにかく、これから言う情景をリアルに想像してみて欲しい。
どこか、和洋中華折衷な大衆食堂で定食を頼んだとする。
直径30cmほどのプレートに、料理がこんもりと載っている。
長さ30cm弱のフットボールを潰したような形で、皮で具を綴じ込んだ料理。
それがオムライスだったら誰も驚かない。
しかしそれが餃子だったらかなりビックリだ。

そういう意味で、やはり海の怪物と呼ぶに相応しいもの・・・それが巨大イカなのだ。
確かに、巨大イカという言葉自体、既に馴染み深い(?)響きさえある。しかし、だからと言ってイカはやはりイカ。本来は、スルメになって焼き網の上をのたくってたり、イカめしだったり、姿焼きだったり、刺身だったり・・・ああ、なんか食いたくなってきたな、とまあ、そういうイメージなのだ。それが普通だし、至極正しいものの捉え方だと言える。

そこへ来て、全長15m以上の巨大イカ(昔、こども図鑑で読んだ)。つまりこっちの端からあっちの端までは、5、6階建てのビルの高さほどもあるのだ。大海原にのたうつ10本足に、視点の定まらない巨大な目。ぬるぬる。予測不可能な動き。こんなものに海で遭遇したら、きっと感動なんてものじゃない。驚愕して恐怖するだろう。これこそ「怪物」と呼ぶに相応しいではないか。

今回は、そんな「もっとも現実味がある怪物」のひとつである巨大イカをご紹介しよう。
・・・・ずいぶんと長い前置きだったな。


巨大イカの基本

まず、前述のように巨大イカはけっして空想上の怪物ではなく、実在する生物だ。
これは、「ネッシーは絶対にいるんだ!」というような主張とは一線を画すもので、ある程度は学術的にその存在が認められているということだ。多くの場合、巨大イカはつまり、学問的に言うダイオウイカの仲間だとされる。

ダイオウイカの基本情報

ARCHITEUTHIDAE
Architeuthis martensi (Hilgendorf, 1880) ダイオウイカ科ダイオウイカ。外套長200cm強。

体は大きく,外套膜は割合柔かく表皮もはげ易い。鰭には丸味があって縦長の軍配型。腕や触腕は長いが弱い。腕の吸盤角質環には三角形の歯が50個以上ある。触腕は細く掌部の中央から先端までは吸盤4列で,角質環には細かい歯が並ぶ。掌部の基部寄りには吸盤が密生し,基部固着器の吸盤は柄部まで続く。
時に死んで海表面に漂流していたり,海岸に打ち揚る。

引用 WEB版世界原色イカ図鑑
http://www.zen-ika.com/zukan/

外套とは、つまり頭というか帽子というか(本当は胴)の部分だ。ダイオウイカの腕は外套と同じかそれ以上に長いので、これで全長は4mを越すことになるか。でも、まだ小さいなあ。
この図鑑によれば、分布は関東以南の沿岸と三陸辺り。この辺のはこんな程度ということだろう。
つまり、和名でダイオウイカと呼ばれるもの(Architeuthis martensi)は、4、5mまでのようだ。

国立科学博物館所蔵のダイオウイカの液漬け標本。

人物(マイキー)と比較すると、やはりかなり大きい。
動いていたら、相当な迫力だろう。
だが、怪物と呼ぶにはちと物足りない気も・・・。


意外に小さい巨大イカ・・・

あれれ・・・5m? 15mじゃないの?という感じだが、実際にこのサイズを目の当たりにしたらかなりビビると思われる。
こんな感じ(※)。
写真の上の方にいる人物が自分だと仮定して、夜の海辺に行った記憶と合わせて空想してみよう。・・・ニョロリとした腕は自分の腕より太い。これを捕まえようとするとあらぬ方向から別の手が伸びてくる・・・どうですか?想像できた?結構スリリングなシチュエーションだと俺は思う。

※出典:京都府立海洋センター(さらに多くの写真があるので是非見てみよう。)
http://www.pref.kyoto.jp/kaiyo/2-topicnews/news/2002/02-02-01/mega-squid/mega-squid-01.html

しかし、我々が期待する巨大イカは、そんな程度じゃない。そこでもう少し探す。

クジラのページだが、鳥取県立博物館のダイオウイカ標本捕獲時の逸話が紹介されている。
http://www.wingz.co.jp/ceto/ceto12/#index_3
沖縄の情報サイト。事も無げに紹介されてるが・・・。
http://homepage1.nifty.com/ozok/ika-story2.htm

こっちのものは7mと8mだそうだ。ちょっと大きくなったか。しかしまだまだ不満。

と、いろいろ探していると、多くの個人サイトで語られている1887年にニュージーランドで見つかったものが18mほどあったらしい。しかし、写真も見当たらず、100年以上前の話か・・・そんな伝説じみた話だったらイカなんかより面白いネタがたくさんある。巨大イカはあくまでも実在を基本に話をしなくては面白くない。

はっきりした記録にこだわると1993年にノルウェーで見つかった体長13M(腕8.7m)がギネスブックに載っているらしい。・・・信頼性のある記録ではこのあたりが限界だろうか?


なんでもでかけりゃいいと思ってる国、アメリカ(偏見)

しかし、世界はやはり大きかった。と、グローバルな情報検索を卓上で可能なのがインターネットのスバラシイところだ。
米国のスミソニアン自然史博物館のオンライン展示によると、通称Giant Squidと呼ばれるものは、上に挙げたダイオウイカとは違う種らしい。

米国版ダイオウイカの基本情報

ARCHITEUTHIDAE
Architeuthis dux ダイオウイカ科。説明文には、最大全長18m、重量900kgとある。分布(発見場所)は赤道付近を除くほぼ世界中の海だ。また、水深200〜700mに生息するとされている。

結局、どちらもArchiteuthis属なのでかなり近縁ということになるのだが、大きさや生息する深さに関する記述が若干異なる。やはりアメリカ産のは大きいなあ、と思ったが、よく見ると分布域は世界中で、もちろん日本近海も含まれている。


ダイオウイカにもいろいろいる、ような、いないような

ダイオウイカには正確には何種類かいて、そのどれについても正確な生態はわかならない(いずれのケースの記述も、死骸からの推測だ)というのが実情のようだ。

ところが、実は、これらのダイオウイカ・・・そして他のダイオウイカ類(どのくらいいるのかわからないが、スミソニアンのサイトでは少なくとも10種とあった)は、実は同じ種かもしれないという情報もある。

どこかで研究者が講演した際の講演要旨

あまりにもさっぱりした要旨で、98年の論文というものが何かもわからないのだが、どうも日本にこれまで漂着して保管されているダイオウイカ類の標本のミトコンドリアDNAを鑑定したところ、これまで3種認められていたものが同一種であったことがわかったということらしい。ソースにあたれば詳しいことがわかるのだろうが・・・。
しかし、このような分類上の混乱があるのも、ダイオウイカがほとんど漂着死体のみによって研究されているという背景に由来するものだろう。なにせ数が少ないので、個体変異と種の特徴の判別が難しいのだろう。
そういうわけだから、あるいは、アメリカのダイオウイカも日本のダイオウイカも同じ種だったりするのかも知れない。
もちろん、逆にまだ知られていない種が存在する可能性も十分高いと言える。 ただ、なにせこのあたりは現状では詳しいことはわからない。だから、ここではダイオウイカを種として考えるよりは属としての単位で捉えて話を進めてしまおうと思う。


もう少し突っ込んだダイオウイカ情報

ダイオウイカは、深海に住むという。
それでなかなかその生態が明らかにならないし、都合よく大物を捕らえることもできないのだ。
つまり、我々の目に触れるのは、死体、あるいは瀕死のものが、何かの偶然で漂着したような場合が多く、ダイオウイカ個体群を観察することは誰もできていない。海外には生きているダイオウイカの撮影に熱心な研究者がいたはずだが、ニュースが出てこないのでまだ成功してないのだろう。数が少なくても瀕死でも、生きているものも確認されているのだから、どこかに種として存続するに足る十分な数が存在しているのは確かなのだが、詳しいことは何もはっきりとはわからないのだ。
何匹かでも生きてるのが捕まったんなら、だいたいのことはわかるんじゃないの?と思われる方もいるかも知れないが、そうはいかない。確かに、何の資料もないのに比べれば、はるかに多くのことがわかる。しかし、例えば、ライオンの生態を観察するのに、上野動物園から逃げ出して浅草をうろついているライオンを観察しても、わからないことは多い。その個体はライオンとして大きいのか小さいのか、いつどんなものを食べてどう場所に暮らしているのかということもわからない、そんなところだ。もちろん、解剖すればまたある程度のこともわかる。が、実際の観察を行わない限りは、やはり情報に決定的な欠落があると言えるだろう。

さて、わからないわからないと言っていても始まらないのもまた事実。わかることから見て行こう、ということで話を進める。ダイオウイカは基本的に深海に生息するとは何度も言ってるが、深海というのは200m以上の深さを言うらしい。ダイオウイカはいったいどのくらいのところにいるんだろうか?

しばしばダイオウイカの対決相手とされるマッコウクジラ(ダイオウイカを食うらしい)は、3200mも潜ることができるとか。実際にダイオウイカを捕食していたものが捕らえられたこともあり、それは400m以上の深さで捕食していたそうな(どうやって調べたんだ?)。400mではなくて、400m以上だ。それ以上のどのくらいの深さにまで生息するのかはわからない。アメリカ版のダイオウイカでは200mからになっていたが、これはおそらく、正確な生息範囲がわからないので、「深海の定義」である200m以深を当てはめたのだろう。本当に200mの深さで生息していれば、漁業で使う底引き網にかかってもいいはずだ。

また、海洋深層水の有り難さを説くサイト内での記述である点が胡散臭く感じてしまう(そうでもない?)が、元・捕鯨船の砲手はこんなことを語っている。
一部引用すると、

「『マッコウクジラはね、水深二千メートルとか三千メートルの海でお化けイカと格闘してね、食っとるんよー』」
「二十五歳から大型捕鯨船に乗った長岡さんは、南氷洋や北洋でクジラを追っかけ、十六年間の砲手生活で計四千頭を捕った。一日二十二頭の日本記録をつくったこともある。」
「エンジンの潤滑油に使う「脳油」などが取れて重宝されたマッコウクジラが、深海でダイオウイカを食べていると知ったのは、駆け出しのころ。」
「その後、マッコウクジラが見つかる海上は、その下に七百メートル以上の水深があること。さらに、その近くにはたいていバンク(浅瀬)があると知る。」

・・・こんな感じ。かなり経験的な話ではあるが、ダイオウイカが生息して(そしてマッコウクジラに食われて)いるのは、200mどころではない深い場所らしいと言えそうだ。だからこそ、いまだに謎の生物の一翼を担っているのだ。

さて、こう見ていると、どうもダイオウイカの生態を知るには、マッコウクジラの生態を調べた方がいくらか手っ取り早そうだと思えてくる。
ということで、マッコウクジラというのはいったいどんなヤツなのか・・・と、こちらはダイオウイカに比べると大変人気のある(わかる気はするが)生き物なので、ちょっと検索すれば資料は多い。まあ、いろいろ利用価値もあるし、見るだけでも楽しいらしいし。俺はイカの方が見たいけど。
で、そんなだからこそ、愛ゆえの思い入れ(クジラちゃん可愛い!っていう類のな)を排除した資料を探さねば・・・。
で、見つけたのが、「岩手県沿岸及び沖合域における海棲哺乳類の調査」なる文書だ。いいね。この堅い雰囲気。ちなみに研究者は、天野雅男・宮崎信之となっており、ともに東大の関連施設の研究者みたいだ。
で、これによると、マッコウクジラに水深を記録する装置を装着して調査したところ、30-45分の水深約400-1000mへの潜水を約10分の浮上時間を挟んで繰り返すというハードな生活をしているそうだ。そして、マッコウクジラの採餌行動(つまり、我々が期待するダイオウイカとの接点)は従来まったく不明(推測のみ)だったそうで、待ち伏せして餌を獲るという説と積極的に餌を追いかけて捕食するという説があったそうだが、この調査により積極的に餌を捕食していることがわかったとのことだ。

潜水は餌を獲る為に行われているそうなので、ダイオウイカは1000m近い水深の深海にいることが多いと考えてよさそうだ。

上記研究に基づく講演の要旨:http://www.h2.dion.ne.jp/~mulberry/makkousennsui.htm

1000mの深海・・・それは現在の科学を以ってしてもそう簡単には立ち入れない世界だ。確かに、数千メートルまで潜る潜水艇も存在はする。だが、海は広いし、相手はそこを自由に動き回っているのだ。えっちらおっちらと降下していく救命ポッドのような装置で、そう簡単に追跡できる相手ではない。
別に「しんかい2000」をバカにしてるわけではないが、万能と思いがちな現代科学の力も、深海にはまだまだ及ばないということだ。

さて、話を大きさに戻すと、先に述べた通り、20m前後の大物は過去には遺骸がいくつか見つかっているようだが、いずれも時代が古く、写真もないので、信憑性はイマイチだ。最近の大物はせいぜい10m以内で、しかもダイオウイカは腕(特に食腕と呼ばれる2本)が長いので、頭(くどいが本当は胴)は5mに達することもない。大抵は2、3mだ。
だが、そもそもダイオウイカという生物自体が、まず人と交わることのない場所で生活していて、本当にフロックでしか我々の前に出現しないなかで、そういったサイズのものがしばしば見つかるということは、それがダイオウイカとしては通常サイズである可能性を示している。
つまり、彼らの本来の生活圏である深海には、もっと大物がいると考えていい。なぜなら、深海に数多く生息するダイオウイカの個体のなかで、たまたま海岸に漂着したわずかな数の個体にその最大のものが含まれている可能性は極めて低いからだ。

また、ダイオウイカの大きさを示す間接的な証拠もある。
それは、マッコウクジラの皮膚に残ったダイオウイカの吸盤の跡だ(参考:スミソニアンの写真)。
これについては、詳しくは後で述べることにしよう。

そして、数mや10数m程度では我慢できないダイオウイカファンに朗報となるのが次のニュース。
米ABCニュースによれば、オーストラリアの研究者が次のような報告をしたそうだ。
即ち、イカ類の採餌周期と成長速度は海水温に依存しており、海水温の上昇はイカ類の現存量の増大を促すと。
海水温の1パーセントの上昇により、イカの幼生は通常の2倍の大きさになるそうだ。また、乱獲により競争相手不在となったイカ類が容易に生息域を広げているとも指摘されている。
研究者:Dr George Jackson[Institute of Antarctic and Southern Ocean Studies]
温暖化による海水温の上昇が指摘されている昨今、これはとりもなおさず今後我々が、巨大なダイオウイカを目にする機会が増えるであろうことを意味する。

ダイオウイカは19世紀後半までは完全に幻想の怪物だったらしい。当時の船乗り達がどんなに主張しても、一般はともかく学者には相手にされなかったようだ。それが、こうしてしばしば世間を騒がすようになり、学名がついて図鑑にも載り、「実在の怪物」へと変質してきた背景には技術と産業の発展があるだろう。
純粋な科学的調査でその全貌が明らかになるのであれば期待したいが、開発と環境破壊の影響で「ありふれた生物」へと格下げされることがあるとしたら、こんなつまらない話はない。この点は少し考えさせられてしまう点だ。


海の魔物クラーケンとして

さて、最後に、謎の生物としての歴史を見ておこう。

謎の生物としての巨大イカの歴史は、18世紀初頭まで遡ることができる。ノルウェーのベルゲン(Bergan)という港町の聖職者であったErikPontoppidanが記した"The Natural History of Norway"という書物に登場するのがクラーケンの記録の始りとされているようだ。(この書物は、「ノルウェー博物誌」という邦訳も存在するようだが、それは残念ながら見たことはない。)
ここで描かれるクラーケンは、浮いている島にたくさんの腕が付いているという奇怪なもので、軍艦を海中に引き摺り込むというような、かなりスゴいヤツらしい。
その後、歴史とともにクラーケンは巨大イカ、あるいはタコへとその姿をシフトして行くが、やはり空想上の生き物という考え方が強く、特に科学者からは、これを見たと真面目に言う者はちょっと可哀想なヤツと思われていたらしい。
だが、1870年代になると、その実在を示す様々な証拠が得られるようになり、クラーケンは、島のような怪物ではなく巨大なイカとして存在することが広く知られるようになってきた。調査は、それに先立って行われるようになっており、1853年にユトランド半島の漁師が巨大なイカを捕らえ、このカラストンビを、それ以前から巨大イカを研究していたJohan Japetus Steenstrupという学者が入手して、1857年に学術論文に記載した。この時に名付けられたArchiteuthisという学名は、今でも使われている。
しかし、学名も付き、その後もフランスの軍艦Alecton号が洋上で巨大イカを発見、捕獲に挑んだ(けど体が千切れて失敗)りしてそのことを報告したりしたが、概ね科学界では受け入れられることはなかった。

ところが、1870年代になると、ニューファンドランドの漂着死体を初め、各地でダイオウイカの死体が打ち上げられたものの発見が相次いだ。(上の方にもその一例が紹介してあったはず。)そんなわけで、クラーケン改めダイオウイカは実在の生物として確固たる地位を築くに至ったのだ。
ちなみに最近では、2002年7月22日にオーストラリアで18mってのがあったらしい。

さて、結局は話がダイオウイカに戻ってきたが、それでいったいどのくらいまで巨大になるんだ?というのがやはり気になるところ。伝説上のクラーケンは島と間違われたりしてたんだから、18mでは、イカとしては尋常ならざる大きさだがやはり・・・ねえ?
だいたい、ダイオウイカの全長って、ほとんどが触腕で占められてて体はイメージよりだいぶ小さいし・・・。


海のロマン、再び

10数mのダイオウイカが存在することは確実だとしても、それでは胴体、つまり我々がごく自然に認識する本体部分の大きさは数mに止まってしまう。これでは海のロマンを語るには迫力不足だ。
はっきり言って、その程度では大型クジラの迫力には到底かなわないし、普通の動物として「かわいー」などと観察されちゃってるヤツらに迫力で負けては、とても怪物などと名乗るのはおこがましいと言わざるを得ない。

しかし、がっくりするのはまだ早い。皆様の期待はまだ完全には裏切られません!

実は、浜辺に打ち上げられた死体という特殊なケース以外でダイオウイカの大きさを推し量る材料がある。これは、未知生物研究家の執念というべきか・・・バーナード・ユーベルマン(Bernard Heuvelmas)という未知生物研究者(とは言ってもただの趣味人ではなく、ちゃんとした動物学者らしい)は、「最大の吸盤の直径は胴体の長さの1/100である」という法則を見つけた。これが事実ならば、マッコウクジラの皮膚にしばしば残されるダイオウイカの吸盤跡には45cmほどのものもあるので、深海には胴体が45m・・・つまり、ダイオウイカの胴体が通常は腕も入れた全長のせいぜい1/3程度であることを考えれば、少なく見積もっても全長100m以上のダイオウイカが存在することになる。
・・・・おお、これはデカいぞ・・・と感動もひとしおだが、一応反論として、マッコウクジラがこどもの頃に付いた傷が、成長とともに伸びたんじゃないの?という声もある。それに対してユーベルマンは、「傷跡は雌には少ないから、こどものクジラは(母クジラによって)、巨大な敵に近付かないように守られていたはず。それにこんな巨大な敵と闘えば、子クジラは生き延びられないだろう」と再反論しているようだ。

真実は如何に・・・いや・・・やっぱクジラは・・・哺乳類だからなあ・・・骨も筋力も強いし・・・イカには負けそうにないんだけど。実際に、普段はダイオウイカといえどもマッコウクジラにとってはエサでしかなく、闘いというような緊張感のある関係ではない(クジラの圧勝)らしいのだが・・・子クジラと超大物のイカだったらいい勝負になるかも。

まあそれはみなさんの御想像におまかせします。