Reports 恐怖の巨大ナメクジ
戦慄の巨大ナメクジ
text: Jobjohnn
悪夢かロマンか?否、現実だ
春風が止んで爽やかな新緑の季節、いい気持ちだと思っていると日毎に湿度が上がり青空は暗い雲の隙間から時節覗ける程度の日々。住宅街を抜ける小道の脇にささやかに植えられた紫陽花の花に、近づいて来る夏の香りとともに「アジサイはアルカリ性の土だと赤くなるけどリトマス試験紙は酸性で赤なんだ、騙されるな」という小学生当時の理科の授業の記憶さえも呼び覚まされつつ、ふと目に留まる艶やかな灰褐色の、微妙に蠢く塊。
HAIIKUで言うなら、そう…
Small grayish moving thing on the leaf eating his bed.
そんな風流な可愛らしささえ感じさせる、それがナメクジだ。
…まあ、これはあくまでも筆者の場合であって、このサイトの硬派な読者たちにとっては少し違うかも知れない。でも、せいぜい「中学校の頃そうじ時間に見つけて捕獲し、『これ塩かけて溶かそうぜ』とか言って女子の気をひくネタに使った」とか、そんな程度の取るに足らない存在だろう。
重要なのは、いずれにしてもナメクジを見たくらいで我々は衝撃を受けたりはしないということだ。確かにあまり気持ちのいい外観ではない生物だが、緩慢な動作で葉っぱを食べている小さな生き物に、我々の心の平和が乱されることはない。
それは常識と言っていいだろう。しかし、常識とはつまるところ、経験則に過ぎない。今まではナメクジは取るに足らない存在だった、だからこれからもずっとそうだ、などと誰が断言できようか?
ここに一枚の写真がある。
この写真は、果たして貴方のいま持っている「ナメクジ」の常識に合致しているだろうか?


実に全長20センチを超えるグッドサイズ。また、体表面は通常のナメクジのような滑らかではなく、年期を感じるザラつきと、謎の孔のようなものの存在が伺える。何か特殊な体液を分泌したりするのだろうか?…勇気ある捕獲者は、その後この巨大ナメクジと寝食をともにし、種を超えた交感に挑んでいるそうだ(キュウリやニンジンを餌にして飼っているそうです)。
捕獲場所:広島県呉市焼山公園内
捕獲/写真:"ひめちゃん"様
なぜこのナメクジは突然巨大になったのか?
ある生物が、突然に本来あるべき大きさを逸脱して巨大な姿で発見された場合、その理由は次のうちのいずれかであることは間違いないだろう。
- 放射能を浴びた
- 宇宙からの怪光線を浴びた
- マッドサイエンティストまたは米軍が作った
- 実はもともと大きくなる種だった
- 見慣れた小さいヤツとはよく似ている違う種だった
いずれも有力な仮説の中であり、少ない資料から絞り込むことは困難だが、我々は一応の見解として、最後の2つの項目が正しいという可能性が高いと思う。そして、その前提にもとづいて、以下のように考えた。
[東南アジア由来説]
まずは、「東南アジアの熱帯雨林にに棲む巨大ナメクジが地球温暖化の影響か否かはともかく暖冬と猛暑が続いたここ数年の日本に帰化しようとしている」という仮説だ。
まあ東南アジアになら巨大ナメクジがいるという根拠は何かと問われれば「ジャングルには何だっているんだよ!」としか答えようがないのだが、だいたいそう考えておけば間違いないだろう。
以前から日本へは、東南アジア諸国からの安価な木材が大量に輸入されている。最近はタンスも机も値段が安くなったのも、それら、熱帯雨林で育つ成長速度の速い安価な木材のお陰だ。しかし、生で輸入される木材にはしばしば、現地の生物(通常は昆虫や植物)が入り込んでいることがあり、それらの生物は意図せずに日本に入りこんでしまう。
しかし、通常であれば彼らは、気温、周囲の動植物などの環境に対応できずに死滅する。ところが、稀に日本に定着し、さらに増殖してしまうものも現れる。
有名なところでセイヨウタンポポやアメリカザリガニがあるだろう。そして、ついにこの巨大ナメクジが日本に上陸しようとしているのである。
本来は日本にいない生物が日本に定着する、ということは、生態系の構造が変わるということだ。しかし、我々はそのことをもって「環境破壊だ」などと騒ぐほど短絡的な思考を持ってはいない。
高校生以上の読者なら生物の授業で習ったことがあるのではないかと思うのだが、生態系は遷移するものだ。もし、生物がその生息範囲を広げて新天地に根付くことが罪ならば、砂漠は永久に砂漠であり続けねばならない。人間もジャワか北京あたりに閉じこもっていなければいけなかったろう。
人の手が介在するからいけない、という考え方もあるだろうが、あくまでも我々のスタンスを示させて貰えば、現在の地球の有様で「人間の影響が介在しない」環境など、有り難がるのは結構だが、およそ現実的ではない話であり、まして先進国の近郊で語るにはナンセンスなお題目だ。
元の話題に戻ると、つまり我々は巨大ナメクジが日本に帰化したとしても、「ちょっと気持ち悪いなあ」以上の問題はないと思っている。
[中国由来説]
さて、実は我々はもうひとつの仮説を考えた。それは、「中国からの輸入野菜に紛れ込んで日本へ持ち込まれた」というものだ。
このケースの場合、前者の仮説よりも問題は深刻だ。そもそもナメクジは雑食でいろいろな植物を食べる。キャベツやピーマンなど、内側に空間がある野菜の場合に入り込んでいることもあり、時にはそのまま出荷されてしまうといったこともあるようだ。
近年、スーパーや八百屋でも安価な野菜はたいてい「中国産」の文字が添えられている。また、一方で近年の健康志向の影響で「有機野菜」に対する需要は高く、輸入野菜とて減農薬などの対処をしなければ競争できない状況となりつつある。
輸入野菜の話ではないと思われるが、「有機野菜」として売られている野菜にナメクジが付いていたケースもあったらしい。起こりうる事故なので、そういった野菜は廃棄するなどの適切な対応をすれば良いのかも知れないが、怖いのは「虫食いがある、つまり虫が食べてるということは安全ということ」なんて呑気なことを考えている盲目的なオーガニック信者も存在するということだ。
そんな市場背景の折り、中国の野菜農家も、対日輸出における優位性を得るため減農薬などの方法を導入し、結果的に日本が中国の昆虫やナメクジを野菜と一緒に輸入され、そのまま流通して広く家庭にまで行き届いてしまった、ということはあり得ると考えられる。
そしてだ。
中国の場合は問題が深刻だ、と先に述べたのは、まさにこの、ヤツらが野菜、つまり食料について家庭に届けられるという点にある。
ナメクジを、ただヌルヌルした殻のないでんでん虫と思って侮ってはいけない。ナメクジの仲間には、おそろしい伝染病を媒介するものもいるのだ。
広東住血線虫という寄生虫はネズミを宿主とするが、それが糞を食べたナメクジを媒介にして人間に寄生すると脳内で増殖し死に至ることもあるという。従来は日本では問題にならなかったのだが、近年、国内でも数例の死者が認められているそうだ。(参考)
線虫がどんなかたちであれチャンスに乗じて生息範囲を拡大しようとするのも自然の摂理からすれば、もっともなことだ。
一方で、安全だと言われても農薬・化学肥料の化学式など理解するべくもない主婦が、とりあえず有機栽培野菜なら安心なのではと考えるのも理解できる。
だが、そのために脳味噌を破壊されるリスクを負うのは、私としては御免である。
海外からの侵入者
この巨大ナメクジが、何かの寄生虫を媒介するなどという確信はない。だが、我々が、自分の身近な生活圏に存在するなどと考えてもみなかった生物が、いつの間にか、いずこからともなく現れて存在している。
このような事は、今後ますます増えるだろう。
しかし、我々がまず心配しなければならないことは、新たにやって来た生物によって日本の動植物たちが追いやられてしまうかも知れない、ということではない。「外国から来る生物によって、日本の生物たちが危険にさらされている」といった表現を使う時、我々人間はただ生態系の破壊者であり、保護者であるという認識を持っている方は多いと思う。だが、聖書は神と人と動物を分けているが、科学には神はなく人は動物に過ぎない。つまり、「日本の生物」には人間も含まれている。
我々自身が、出会ったことのない敵によって危険にさらされるということなのだ。
明るい展望
最後に、ひとつ明るい考え方も示そう。
英国の大学で、最先端テクノロジーの最近の課題のひとつである「自律ロボット」の世界初の成功を目指し「スラグボット」なるロボットが開発されているそうだ。
自律ロボットとは、つまり人間の手を借りずに活動できるロボットであり、本田技研のASIMOなどとは違う。ASIMOは確かに優秀だが、人間の制御下にあり、動力も人間が供給しなければならない。スラグボットは、歩いたりはできず車輪で移動するが、一度動き出せば自ら毎時100匹のナメクジを捉え、これらを分解する際に電気エネルギーを取り出して活動を続ける。
巨大ナメクジが大量発生すれば、スラグボットはエネルギー源に困ることはない。きっと、余ったエネルギーで道路掃除や防犯などに役立ってくれることだろう(*現在のスラグボットにそういった機能はありません)。高齢化社会を迎え労働力の不足が懸念される日本の将来は、巨大ナメクジとスラグボットが救ってくれるに違いない。
(了)
注意:とかなんとか言って、実は写真のナメクジは、以前から日本に生息する「ヤマナメクジ」という種で間違いないと思います。全国の山間部に普通にいるようです。また、国内移動での帰化による分布域の拡大もあるようです。詳しくは…こんな感じで。