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ningyo’s BOOK COLUMN

2002.10.5

納骨堂の奥に
シャーロット・マクラウド著
浅羽莢子 訳
創元推理文庫

 たまにはコージーなミステリを

 ボストン・コモン近く。セーラは納骨堂の開扉に立ち会っていた。うそ寒い11月、気分は嫌でも沈む。葬儀につめかけてくる身内に何を食べさせるかも問題だし。だが、物思いはすぐに断ち切られた。ようやく開かれたお堂の奥に、見知らぬ女性の他殺体が転がっていたのだ!誰が?なぜ?セーラは埋もれていた過去の犯罪の糸にからめとられた…。「BOOK データベース」から

 とりあえず世の中のことは置いといてほっとしたい時に気軽に読めちゃうこんなミステリ。

 主人公セーラはボストンに住む20代半ばのチャーミングな女性。しかしアメリカミステリのヒロインでもウォショウスキータイプではなく、かなり異色。伝統のある名家の生まれで学校に行ったこともなく、16歳で遠縁の25歳も年上の父親の親友と結婚し、盲目の姑に仕えて暮らすことになる。その姑が強烈な存在で、一家に暴君として君臨している。夫は美男だが覇気がなく、旧家で物のストックはあるものの現金はない。口だけは出す変わり者の親類はどっさりいる。おまけに昔から姑についている女中にまで使われるという境遇でけなげにがんばる。

 「納骨堂」というものの存在から始まって、古い家柄のおうちというのはこんなもんなんですか、とか結婚は親が決めるのね、食事に正装するとかそういう習慣はきっちり厳守されてるなどなど、そういう興味も満たしてくれます。セーラの身にいかに苦難が降りかかり、どんな助力が現われるか。「シャレード」みたいな映画がすきな方なら絶対フィットだと思います。

 マクラウドは人気のある作家ですし、このセーラ・ケリングシリーズもたくさん出ています。私が好きなのは、シリーズ3冊目くらいまでの、セーラがいかにして自分の生活と人生を勝ち取るか、の時期のものです。この本はシリーズ中では一番暗いと言われ、ユーモアミステリとしての本領発揮は2冊目以降でしょうが、セーラの魅力はこの導入部あってこそです。

 この本の中にも映像が見えるような印象的なシーンはたくさんあり、次を読まずにいられません。内容はミステリですのでどうかご自分で楽しんで下さい!ですが、マクラウド作品の特徴である魅力的な変わり者が次々登場するのが一番のお楽しみでしょうか。

 

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