remove
powerd by nog twitter

   

ningyo’s BOOK COLUMN

2004.11.7

あなたのマンションが廃墟になる日
山岡淳一郎著
草思社

 日本のマンションは30年という、欧米の3分の1にも満たないサイクルで壊され、建て替えられているという。そして現在その問題に直面している分譲マンションは27万戸。10年後には100万個に上るという。なぜそうなのか?なぜ長期の使用に耐えないのか?

 この本は、マンション問題だけでなく、「住む・暮らす」ということの意識を問いかけています。

 著者によれば、日本ではなぜかその効率や効果をまともに検証されることなくマンションの補修維持より立替ばかりが促進されているような印象です。この短期のスクラップ・アンド・ビルドの繰り返しでは、余程の資産を持たなくては30年サイクルの中で自分の家としてマンションを維持するのは無理だろうと思います。このことは、単に老朽化マンションだけでなく、阪神大震災のような災害時の対策にも同様に「まず建て替えありき」的な施策が用意されます。その原因はまず第一にスクラップアンドビルドに景気浮揚を求める経済界の要求だといいます。また、戦後の経済成長の中でゆがんでいった土地の価値(公共の観点がほぼ無視されてしまった)と街づくり・地域開発の政策を田中角栄の政治家としての軌跡を追うことで検証していきます。

 私の周りには建築関係者がけっこういます。建築のなかでも都市デザインとか、構造みたいなだいたい物理と数学がお仕事なが人が多いですが、一応みんな建築家で、住宅とか、住むことに関して一家言は持っています。
「100年持つ建造物を作る技術はある。持たせる気があれば持つ」
「なぜ都市あるいは町全体をカヴァーするプランが成立しないのか」
「住宅公団は政治家に実績作りをせかされて土地の値段を吊り上げた」
「地域に、その時々の家庭の構成に対応する貸家がそろっていてその中で移動が出来れば、コミュニティを維持できる」
…なんて議論をず〜っと聞いていました。一人一人は理想があるのに、今の現状がこの本の通りだとしたら、結構情けないものがあります。

 今年はあるイベントで林業従事者の方の話を聞く機会がありました。(駆り出された地域動員でもたまには良いことがあります)日本は森林に恵まれた国なので日本で一年に育つ木材の総量と海外から輸入する木材の量というのは釣り合うのだそうです。しかし、木造住宅でも30年サイクルであり、それには国産材が対応できない。50年以上太らせた材木で、50年以上持つ住宅を作れば、きちんと国内産だけでも回転できるのだ、と力説してらっしゃいました。

 良いものを長く、という声は一体どこで消えてしまうのでしょう?

 一般的な日本人の意識は「家(マンション)は財産」でしょう。マンションは自分の住戸だけでなく建物全体を積極的に管理維持しなければその財産価値を保持できない。でも、そのことを直視するのが建て替えを迫られたときだけでは、もう遅い。だからこそ「マンション管理組合は民主主義の実験場」という言葉も出て来ます。

 「住」という人間の暮らしの基本なコストを「社会的に」「個人的に」どういう形でどう負担するのか、
 また、「どこでどんなふうに誰と暮らしたいのか?」という、人生そのものの根本の再考を迫られるようです。  

本のインデックスへ