remove
powerd by nog twitter

   

ningyo’s BOOK COLUMN

2002.08.09

貝になった男
直江津捕虜収容所事件
上坂冬子著
文春文庫

 この時期、少しは考えてみたい
戦争と人間について

 ちょっと重い本です。
 カバー解説はこうなっています。 「極寒と栄養失調と虐待のため、大量のオーストラリア兵が死亡したとされた直江津捕虜収容所では、BC級戦犯裁判でも八人もの職員が絞首刑になった。ところが所長だけは、十二年の獄中生活の後、釈放されている。なぜ彼だけが命拾いできたのか? 埋れた事実を丹念に拾い集めて真相に迫るノンフィクション。」

 「巣鴨プリズン13号鉄扉」、「遺された妻」とBC級戦犯についての上坂さんの本は、否応なしに生活と人生を破壊してしまう、戦争、国家と人間のかかわりについて、考えざるを得ない宿題を出されたように感じます。普通の日本人が、あの状況の中で日本人としての行動をとっただけで、ただ運命による状況の違いだけで、戦犯という罪をあるものは背負い、あるものはそれを見て顔をしかめる存在になる。
 そして、著者の追う収容所長は、誠実をつくしたにもかかわらず、部下を人身御供にして生き延びた人間との汚名を着て戦後を生きなければならなかった。三島由紀夫の短編「復讐」を思い出します。

 ごぼうを捕虜に食べさせて虐待になったというのも有名な話ですが、上坂氏自身がオーストラリアで元捕虜(理性的な紳士たちです)に会って「お灸」の誤解を解くくだりもこたえました。
 脚気患者が大量に出た夏、日本側はお灸で捕虜たちの治療を行ったが、捕虜たちには虐待としか考えられなかった。著者本人が弁明を試みてもだめで、著者はショッピングセンターにいた中国系の女性にお灸の説明をしてもらう。以下本文から引用です

  「I understand(了解した)」
 とリー氏が言い
  「That's all right(それならいいんだ)」
 と校長が呟くように言って、誤解はほぼ四十年目にして解けたのであった。

 海外との交流は戦争前後に比べてはるかに容易になっていますが、お互いの文化や生活への理解は進んでいるのでしょうか!

 人間は一人誠実をつくしてもなお悲劇を避ける事はできない。納得しがたい責任のために命を請求される、自分の命を投げ出そうにも許されない、そんな時の身の処し方は、考えられますか? 私は、こんな状況が生じるのが戦争だ、ということを忘れないでいたいと思うのです。

 

本のインデックスへ