時の娘 この、古い歴史上の事件の謎解きを扱ったこの小説は、ミステリの古典と言われ、江戸川乱歩が絶賛を寄せ、またこの本に刺激されて高木彬光氏が「成吉思汗の秘密」などをかいたことは有名。(ジンギスカンの本はちょっと…でありましたが) ミステリについては、一読興奮!とお薦めすることにして、これを読むと誰でもある感慨に捉われずに入られないだろう。タイトルの「時の娘」は「真理は時の娘なり」という言葉からだそうだ。また「歴史の審判を待つ」「真実は時が明らかにする…」なんていう言葉も聞くけれど、「本当にそうだろうか?私たちには何がわかるのか?」と。 歴史と言うのは勝者の歴史であるといわれる。確かに東に目を転じても、殷の紂王に妲己(だっき)、夏の桀王には末喜(ばっき)という亡国の美女の名前は似すぎてない?とか、日本でも征服王朝ではないかと言われている継体天皇の前天皇のした悪い事の日本書紀の記述は、中国史書の真似みたい、と思ったりしないでもない。亡ぼされた政権の最後の王は悪し様に言われるのが運命なのかもしれない。 おまけにシェイクスピアである。シェイクスピアの「リチャード三世」はピカレスクロマンの極めつけに面白い。最高峰なのである。美内すずえの漫画「ガラスの仮面」の中の舞台「二人の王女」でオリゲルドが自分が謀略で葬ってきたものたちの亡霊に責められる場面で「リチャード三世」を連想したのは私だけではないだろう。このようにシェイクスピアの作り上げた「リチャード三世」像は神に愛されなかった、そしてすべてを巻き込む悪の牙を持つ魅力ある悪漢の典型として生きてしまっている。これもまた真実のリチャード3世にとっては残念なことではあるだろう。 そしてこの本の中で歴史の捏造の例としてひかれるのが「トニイパンディ」である。ある小さな事件が、政治的に利用され、大きく喧伝される。それが嘘だと知っている人間が黙っているうちにそのことは伝説になってしまう…ということを、グラント警部たちは「トニイパンディ」と呼ぶ。政治的な目的でなくても、人間は自分が聞きたいようなことを選んで聞いてしまうようだ。自分が信じていることを否定されることは、自分の世界の一部分を壊されるように思うらしい…だから思う。歴史上の出来事は、それが持つ歴史的意義以上のものが、果たしてわかっているのだろうか… 読み終えて、誰しもヨークの市民たちが「われらの良きリチャード王」と呼んだリチャード3世に好意をもたずにいられないだろう。シェイクスピアの戯曲でも彼の勇敢さは否定できない。 ==================================== おまけ ☆ グラント警部の目をひいたリチャード3世の肖像のあるWEBページ ☆ シェイクスピア「リチャード三世」の有名なリチャード三世のいかす最期のセリフ 2004.4.25 |