四日市市内にある大型スーパーの現金自動預払機(ATM)前で、女性から「泥棒」と言われ、周囲にいた一般
客や警察官に逮捕された男性(68)が急激なストレスによる心不全などが原因で死亡してから、一カ月余りが過ぎた。現場から立ち去った女性の行方はいまだ知れず、男性を長時間制圧し続けた警察官らに、警察内部からも批判が渦巻く。県警警察官の資質が問われている。
■20分
「少なくとも、男性をすぐに立ち上がらせて、警備室なりパトカーに連れていき、落ち着かせていれば…」。
県警幹部が苦渋の様子で話す。
万引処理で店内に居合わせた地域課の警察官二人が、警備員から「強盗です」と言われ、
ATMコーナーに急行。すると一般客らが男性を取り押さえていた。いずれも二十代の警察官で、
うち一人は被害者捜し、一人は一般客に代わり男性を取り押さえた。
その間、約二十分。「何するんや、放せ」。男性は激しく抵抗したという。警官は後ろ手に手錠をはめ、
制圧行為を続けた。「六十八歳の男性に後ろ手の手錠、二十分間の制圧はちょっとやり過ぎかもしれない」(ある署幹部)。
通報を受け刑事課員が駆けつけると、男性が現場でおう吐した跡があった。刑事は男性を釈放、病院に搬送した。窃盗未遂で逮捕された男性は意識不明に。一度は持ち直したものの、翌日死亡した。原因は過度のストレスによる心不全と不整脈だった。
■対応
「事件」から約2週間後の2月末。男性の自宅を二人の警官が訪れた。
担当署である四日市南署の副署長と事件指導官だった。矢面に立つべき署長の姿はなく二人はその後の捜査状況を説明した。
四日市南署の対応をめぐっては県警内外から疑問の声も上がる。
発生は2月17日午後1時10分ごろ。報道機関に概要が発表されたのは、午後10時半を過ぎていた。
三日後の20日午後11時前。現場からいなくなったままの女性の情報提供を呼び掛ける報道発表がなされた。その中には「死亡した男性が何らかの犯罪を行ったとうかがわれる状況はない」とする文も含まれていた。
誤認逮捕を認めたとも取れるこの一文について、県警刑事部と四日市南署の間には意見の相違が生じていた。「捜査の途中」とする県警に、男性の遺族の感情を重んじる同署と意見調整は平行線をたどり、結局、四日市南署が強行突破、単独で報道発表した。
翌日以降、四日市南署や県警に住民から、警官が男性を取り押さえた行為などに対する抗議が殺到した。
■逮捕権
防犯カメラに男性と言い争う姿がとらえられていた女性は、発生から 1ヵ月たった今も、その行方が分かっていない。「たとえ見つかったとしても、
真相は分からない可能性が高い」と捜査幹部。「男性が完全にシロという ことを確定するための捜査のようなものだ」とも。
「容疑が確認できない時点で釈放すべきだった」「わざとではないだろうが、過失があったとの指摘は免れない」。山川○○刑事部長らが県警の定例記者会見などで制圧行為の適切さを強調する一方で、こうした批判は
県警内部でも収まらない。
県警は今後、現場で制圧行為を続けた警官らに対する業務上過失致死の疑いでの立件も視野に「捜査は進まざるを得ない」ものと見られる。
四日市南署のみならず、県警を揺るがせた今回の「事件」。ある署の幹部は言う。「警察官には『逮捕権』という特権が与えられている。だから犯罪者は警官を恐れる。その逮捕権が誤って使われた場合の恐ろしさを証明した」
県議会で12日あった教育警察常任委員会。委員の一人は「その場の雰囲気をもう少し分析して、警察官の現場対応の仕方も徹底するなりしていくことが事故の教訓だ」と、警官の資質改善を求めた。
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